少年と英雄
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「クソー! 離せー!」
小さな少年が、大男の丸太のような片腕の中でジタバタと必死にもがいていた。
大男は下衆な笑みを浮かべ、集まった村人たちに向かって大声で呼びかける。
「ガキの命が惜しかったら、このガイモ様に村にある食料と金、全部よこせ!!」
大男の名はガイモ。この村の周辺を荒らし回る盗賊団のお頭だ。
平和なトレース村は、突如現れた盗賊たちの襲撃によって恐怖のどん底に落とされていた。
「頼む、子どもは村の希望じゃ……見逃してくれ。そいつを人質にするくらいなら、わしを……!」
村長をはじめ、村人たちは村で唯一の幼子の命を守ろうと、必死に訴えかける。
「だったらさっさと食料と金を持ってくるんだな!」
高笑いするガイモ。だが次の瞬間——
ガブッ!!!!
「痛ってぇー! なにしやがるこのガキィ!?」
「へっへ! 脱出成功!」
自分の指に思い切り噛みつかれたガイモは、激痛のあまり少年を投げ飛ばした。
投げ出された少年だったが、見事な身軽さで地面へ着地してみせる。
「このガキ……!」
「カシラ! 大丈夫ですか!?」
「ふざけたガキだぜ!」
一斉に殺気立つ盗賊たち。しかし、少年は全く怯む様子を見せない。
「ガキじゃねぇ! おれの名はレイク! おれがこらしめてやる!」
不敵に笑う少年の名はレイク。まだたったの5歳だ。
◇
トレース村は、穏やかな自然と豊富な農作物に囲まれた平和な村だった。
だが、その豊かさに目をつけた盗賊団によって襲撃され、誰もが絶望していたその時。
単身で盗賊に立ち向かったレイクの姿は、まさに村に差し込んだ『救いの光』に見えた。
「おれはレイク! 盗賊どもめ! おれがこらしめてやる!」
「…………」
意気揚々と胸を張るレイクに、ガイモは呆れたように尋ねた。
「おい、ガキ。お前いくつだ?」
「5歳!」
光は一瞬で消え去った。
「威勢のいいガキだな。このガイモ様のきれいな手に、てめぇの汚ねぇ歯形つけやがったな」
「ざまあみろ、でかオッサン! ……と、愉快な皆様方! こんなことして親は泣いてるぞ! 『こんなはずじゃなかったのに……元気でいてくれればそれで良いとは言ったけど、まさか他人様に迷惑かけるようになるなんて……』ってな!」
「余計なお世話だ! 本当に5歳かてめぇ!?」
「……母ちゃん、おれ……」
「くっ……おれだってこんなはずじゃ……」
レイクの適当なハッタリが、なぜか盗賊たちの心に深く突き刺さり、すすり泣き始める下っ端たち。
「お前ら! 何ガキの言うことに振り回されてんだ!」
「カシラだって涙目になってるじゃないですか!」
「ち、ちげーよ! これは結膜炎だ!」
「初耳ですよ! カシラが結膜炎になってるなんて!」
あ然とする盗賊団。その隙をレイクは見逃さなかった。
ふとガイモが下を見ると、そこにレイクの姿はない。
「あのガキ、どこに——」
ガイモの股下に、小さな影が忍び寄っていた。
「くらえ!!」
ドカァン!!
ガイモの股の真下で、レイクはありったけの力で思い切りジャンプした。
「グヒュッ……!?」
膝から崩れ落ち、男にしか分からない痛みに悶絶するガイモ。
「このガキ!! なんてことしやがる!」
「よくもカシラ……いや、男の急所を……!」
「悪いが俺たちは盗賊だ。ガキだろうが容赦しねぇ! くたばれ!!」
怒り狂った盗賊たちが武器を手に襲いかかるが、すばしっこいレイクはひらりと攻撃をかわす。
「クソー、あのガキちょこまかと……どこ行きやがった!?」
盗賊の一人が目をそらした、その瞬間。
「おい! 下だ!」
「え?」
ゴツッ!!
「グヒューッ!?」
凄まじい頭突きが股間に突き刺さり、二人目が悶絶する。
「クッソー! あのガキどこ行きやがった!」
ゴツンッ!!
「グ……ッ!?」
次々と男たちの急所を壊滅させていくレイク。
「おい……なんだあのガキは……嘘だろ……」
恐怖に震える最後の盗賊。
ズザザザーッ!! 土煙を上げながら、盗賊の足元へ鋭くすべり込んでいく小さな影。
(ま、まさか……嘘だろ……っ!?)
最後の男が青ざめて股間を押さえた時には、もう遅かった。 レイクは地面を強く蹴り上げると、ロケットのように真下から突きあがる!
「これでおしまいだぁぁぁッ!!」
ドッゴォォン!!!!
空気を切り裂くような頭突きが、男の「最重要拠点」を直撃した。 静まり返る村に、今までで一番情けない悲鳴が響き渡る。
「ぎゃあああああああああああああああッ!!!?」
静まり返る村。転がる男たちを見て、村人たちはあっけにとられていた。
「へん! 盗みなんてしてないで、ちゃんと働け!」
「「おおおおーーーーーっ!!」」
歓声に包まれる村。
「えへへへへ」と、レイクは5歳児らしい笑顔で照れくさそうに笑った。
その時だった。
「……大活躍だな、クソガキ」
ひやりと村の空気が冷え込む。
最初に倒したはずのガイモが、ゆらりと立ち上がっていた。
「ガキだと侮っていたが……もう容赦しねぇ!」
大人の身の丈以上もある巨大な丸太棒を片手で振り上げ、ガイモがレイクを睨みつける。
「くたばれぇぇッ!」
振り下ろされる凄まじい一撃。
(やばい! 殺される!)
レイクが死を覚悟して目を瞑った瞬間——**ドゴォン!!**と激しい破砕音が響いた。
(あれ……生きてる……?)
恐る恐る目を開けると、ガイモが頭から崩れ落ちて倒れていた。
そして目の前には、一人の青年が立っていた。
「よう、レイク。大丈夫か? もしかして、ちびっちまったか?」
「メドロード……!」
青年の名はメドロード。半年ほど前からこの村に滞在している、騎士団の団長だ。




