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受け継がれし轟炎

 王宮最深部。


 崩れた廊下。


 その瓦礫の中から――。


「……ハァ……ハァ……」


 レイクが瓦礫の中から立ち上がった。


 傷だらけの身体。荒い息。


 それでも、その瞳だけは死んでいなかった。


 グラドスが静かに見つめる。


「お前には……強くなろうという意思がある」


 グラドスの瞳が鋭くなる。


「だが――我とは、あまりにも差がありすぎる」


「……へっ」


 レイクは――。


「ハハハハハハ!」


 笑った。


 グラドスが眉をひそめる。


「……何がおかしい?」


 レイクは口元に笑みを浮かべた。


「いや……」


 拳を握る。


「あんたがこんだけ強くてよかったなって」


 グラドスは首を傾げる。


「どういうことだ?」


 レイクは自分の拳を見つめる。


「ミリアやエギル……ゼノン」


 これまで戦ってきた仲間たちを思い出す。


「あいつらを見てて……多分、そうなんじゃねーかって思ってた」


 レイクはグラドスを見る。


「それが――あんたと戦って、確信に変わった」


「……」


「同じ魔法でも、威力が違う」


 レイクは拳を握る。


「魔力を流せば流すほど強くなる……本当に、それだけか?」


 レイクは口角を上げた。


「違うな」


 レイクは自分の手のひらを見る。


「おれは、ろくに魔法なんて教わってねぇ」


「……」


「だから、身体から魔力を練り上げて、魔法を作ってぶっ放す……それしか知らなかった」


 レイクは笑う。


「だが――その先がある」


 レイクの瞳が鋭くなる。


「魔法を出すだけじゃねぇ」


 拳を握り締める。


「その魔法の中で、さらに魔力を練り上げる」


「……」


「密度を濃くするんだ」


 グラドスは鼻で笑った。


「フン……そんな初歩のこと。今さら何になる」


 レイクは不敵に笑った。


「いーや、なるね」


その瞬間――レイクの身体から、これまでとは違う魔力が立ち上った。


「今までのおれの魔法は不完全だった」


 レイクの目が鋭く光る。


「だけど……おれの魔法は、ここで完成する!」


グラドスの表情が変わる。


「それができたとて、我との差は縮まらん!!」


 ドンッ!!


 グラドスの身体が弾けるように飛び出した。


「来る!」


 レイクも拳へ魔力を集める。


(こっからだ……!)


 拳に宿った魔力。


(練って……)


 さらに集中する。


(練って……!)


 魔力を圧縮する。


(練って……練って……!)


 密度を高める。


(もっと濃く……!)


 グラドスが拳を振りかぶる。


「さらばだ……!!」


 レイクも拳を振りかぶった。


「たぁぁぁーーー!!」


 ドーーーーン!!


 二人の拳が正面から激突する。


「なぬ……!?」


 グラドスの目が見開かれた。

 

 レイクの拳が攻撃を完璧に相殺したのだ。


 「まだまだ!!」


 ドン!!


 ドン!!


 ドン!!


 激しい拳のぶつかり合い。


 互いの魔力が衝突し、凄まじい衝撃波が周囲へ広がっていく。


「はぁぁぁ!!」


「オラァァァ!!」


 ドォン!!


 ドォン!!


 ドォン!!


 両者、一歩も引かない。


 そして――。


「はぁーーーー!!」


 グラドスが渾身の一撃を繰り出す。


「オラァァァーーー!!」


 レイクも全力で拳を叩き込む。


 ドーーーーン!!


「ぐはっ!!」


 吹き飛ばされたのは――グラドスだった。


 ズザァァァ!!


 グラドスの身体が床を削りながら後退する。


 グラドスは目を見開いた。


(くっ……やつめ……)


 レイクは笑う。


「威力が上がってるってか?」


「……!?」


 グラドスが驚愕する。


 レイクが、不敵に笑う


「ありがとな。なんか、掴めてきた」


「クッソォォォォ!!」


 グラドスの表情から、先ほどまでの余裕が消えた。


 「貴様ぁぁ!!」


 再び猛攻。


 ドンドンドンドンドン!!

 

 両者の拳が再び衝突する。


 ドォォォン!!


「ぐわぁーー!!」


 またしてもグラドスが豪快に吹き飛ばされた。


レイクは鋭い目でグラドスを見据えた。


「すまねーな。時間がねぇんだ……もう終わらせる」


「なんだと……!?」


 地を這うグラドスに対し、レイクは深く息を吐く。


 脳裏に浮かぶ。


 ――入学試験。


 あの時、自分が放った魔法。


(あれは……不完全だった)


 レイクはグラドスを真っ直ぐ見据えたまま、片腕をゆっくりと後方斜め下へ伸ばした。


 手のひらを下へ向ける。


 グルルルルル……。


 手のひらの中で、魔力が螺旋を描き始めた。


(もっと練り上げる……)


 魔力を練り上げ、圧縮する。


 グルルルルル……!!


 渦は激しさを増しつつ小さくなる。


 その分だけ――密度が増していく。


 (もっとだ……!)


 ギュウウウ……!!


 魔力が限界まで凝縮された。


 ギュッ!!


 レイクは手を握り締める。


 そして、その手を天へ掲げた。


 「借りるぞ!メドロード!!」


 ドーーーーーーーーーーン!!!!


 レイクの手のひらの上に巨大な轟炎の塊が現れた。


 凝縮された炎が渦を巻き、轟音とともに凄まじい熱量を放っている。


 グラドスの顔から血の気が引く。


「あ……あの魔法は……」


 グラドスの脳裏に、一人の男の姿が蘇った。


 炎。圧倒的な魔力。あの眼差し。


 目の前にいるレイクの姿と、男の姿が重なっていく。


(なぜだ……!なぜ、あの小僧が……あの男に見える!?)


 グラドスの身体が震えた。脳裏に、かつての光景が蘇る。


『おい、魔族。確か名前は――』


「――グラドスっていったか」


 グラドスの目が見開かれる。


『おれは急いでんだ』

「おれは急いでんだ」


『さっさと道開けな』

「さっさと道開けな」


『「死にたくなかったらな!!」』


 その瞬間――。


 グラドスには、二人の声が重なって聞こえた。


 目の前のレイクと、かつて対峙した男。


 その姿が完全に重なって見えた。


「違う……こいつは……あの男ではない……!」


 グラドスは震えながら呟く。


 だが、目の前のレイクから感じる圧倒的な魔力。その眼差し。その言葉。


 すべてが、あの日の男を思い出させる。


「……忌々しい」


 グラドスの表情が怒りに歪む。


「メドロードォォォォォォ!!!!」


 恐怖を塗り潰すため、グラドスは全魔力を爆発させた。


 ドンッ!!


 狂乱の叫びとともにレイクへ向かって突進する。


 レイクはどこか懐かしそうに呟いた。


「え〜と、この技……あいつなんて言ってたっけな……」


 レイクの口元が、ニッと吊り上がる。


「あぁ、そうだ」


 ビュン!!


 レイクも飛び出した。


「『地獄の轟炎(インフェルノ・バースト)』!!」


 ドッッッッガァァァァァン!!!!


 凄まじい爆発が王宮最深部を包み込んだ。


 やがて、煙が晴れた。


 周囲の壁も天井も跡形もなく粉砕された瓦礫の中でグラドスは仰向けになったまま虫の息で倒れていた。


 レイクがゆっくりとグラドスを見下ろした。


「なんだ……まだ生きてんのか」


 レイクは苦笑する。


「やっぱ、あいつにはまだまだ程遠いな……まぁいいや」


 グラドスへ笑いかける。

「強かったよ、お前」


 レイクは空を見上げる。


「ありがとうな。おれはまた――あいつに少し近づけた」


 ――レイクVSマルフィア三魔将、グラドス。


 勝者、レイク。

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