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反撃の狼煙

 王の部屋。


 無数の黒いいばらに囲まれた国王を前に、王妃は立ち尽くしていた。


わずかに開いたいばらの隙間から、静かに目を閉じた国王の姿が見える。


まるで深い眠りに落ちているかのように、微動だにしない。


「……あなた……待っていてください」


 王妃はいばらの中へと足を踏み入れた。


「っ……!」


 鋭い棘が容赦なく肌を刺し、豪華な衣を赤く染めていく。


 それでも、王妃は止まらない。


 血を流しながら、奥へと進んだ。


「申し訳ありません……」


「あなたが苦しい時、側にいられず……」


「あなたが悩んでいた時も……力になれず……」


 ようやく国王の元へ辿り着き、王妃は膝をついた。


 そして、冷たくなった国王の手を両手でそっと包み込む。


「私はここにいます。もう一人にはさせません。」

「ずっと……側におります」


「愛しています」


 王妃はそっと口づけをした。


「……?」


 国王の指先に、ほんの僅かな温もりが戻った。


 パキッ……。


 黒いいばらに、亀裂が走る。


「……!」


 王妃が目を見開く。


 パキッ。


 パキパキッ!!


 次々といばらが崩れ落ちていく。


 黒い魔力が霧のように消えていく。

「これは……」


 やがて、国王の瞼がゆっくりと開いた。


「……ここは……?」


「あなた……!」


 王妃は国王へ抱きつく。


国王は驚きながらも、王妃の背に手を回した。


「すまない。助けてくれたようだな。まるで長い夢を見ていたようだ……」


だが、次の瞬間――。


「マルフィアは!? ミリアはどうした!?」


「玉座の間です。ミリアもそこに」


王妃は続ける。


「ミリアを助けに来た騎士学園の生徒たちが、向かっています」


「そうか……」


 国王は拳を握り締める。


「思い出した……」


 国王の表情に怒りが宿る。


「やつに操られ、意識を失っていた……だが、一瞬だけ……やつの術が解けたのだ」


「その隙に伝達魔法を飛ばし、各国へ助けを求めたのだ」


「こうしてはおれん!」


 国王は王妃の手を取る。

「ミリアが危ない! 各国から援軍が来る。私も軍を率いて、マルフィアを止める!」


 王妃は力強く頷く。

「お供いたします」


 二人は王の部屋を後にした。

◇

 王宮の回廊。


 リゼットは、暗殺部隊と衛兵たちに囲まれていた。


「シャキシャキシャキシャキ!!」


「うわぁーーー!!」


 無数の刃が迫る。


 リゼットは必死に剣を振るう。


 カキンッ!!カキン!!


 だが――。


 シュババババ!!


「くっ……!」


 あまりにも数が多い。


 カキカキン!!


 さらに迫る。

 

 グサグサグサグサ!!


「ぐぁっ……!」


 リゼットの身体が大きくよろめく。


 バタン!!


 大量の血を流して床へ倒れた。


「ふぅ……」


 暗殺部隊の男が息を吐く。


「……やったか」


 だが――。


「……くっ」


「……!」


 リゼットの指が動いた。


「……ハァ……ハァ……」


 ゆっくりと、リゼットが立ち上がる。


 その瞳には――。


 まだ、光が宿っていた。


「なぜだ……」


 暗殺部隊の男が目を見開く。


「なぜまだ立ち上がる……リゼット様!」

 リゼットは傷ついた身体を支えながら、男を真っ直ぐに見つめた。


「私は……止まるわけにはいかない」


「……!」


「今、この国は変わろうとしている……!」


 リゼットの声が震える。


 それでも、言葉は止まらなかった。


「仲間が戦っている!」


一人一人の顔が、脳裏に浮かぶ。


 レイク


 エギル


 ゼノン


 黒薔薇六傑


 ラルク


「一人一人が、この国の闇を晴らそうとしているんだ……!」


  暗殺部隊と衛兵たちは、息を呑んだ。


 リゼットは剣を握り直す。


「この国は、マルフィアによって止まった」


「……」


「私はミリア様を守ることができなかった」


「他の忠臣たちも……大切な人を人質に取られ、従わざるを得なかった」


 そして――。


「だけど!」


 リゼットは顔を上げる。


「今……チャンスが訪れている!」


 声が王宮中へ響き渡るほどに大きくなる。


「これを逃せば……次にいつ、この国を変えられるかわからない!」


 リゼットは魂の限り叫んだ。


「この国は――今日変わらなければ、マルフィアの手のままだ!!」


「…………」


 沈黙。


 誰も動かない。


 そして――。


 ガシャン。


 一人の衛兵が、武器を床へ落とした。


「……!」


 続いて――。


 ガシャン。


 ガシャン。


 ガシャン。


 次々と武器が床へ落ちていく。


 リゼットが目を見開く。


「……お前たち」


 暗殺部隊の男が、ゆっくりと前へ進み出た。


「リゼット様……」


 その声は震えていた。


「我々は……何か勘違いをしていたようです」


 男は自らの武器を床へ置く。


「マルフィアには逆らえない。逆らえば家族の命が……我々には、何もできない。そう思い込んでいた」


「しかし……あなたを始め、多くの者が前へ進もうとしている」


 ズサッ!!!


 男は膝をついた。


「我々も……変わらなければならない」


 ズサッ!!


 衛兵たちも一斉に膝をつく。


「リゼット様!我々は、あなたについていきます!」


リゼットの瞳が潤む。


 暗殺部隊の男が頭を下げた。


「我々のような不届き者の目を覚ましていただき……ありがとうございます」


 リゼットは小さく息を吐いた。


 そして、キッと顔を上げる。


「ありがとう!」


 リゼットは剣を掲げた。


「では――お前たちの家族や友人!」


 さらに声を張り上げる。


「この国に仕えてきた者たちの、大切な人たち!」


「人質を、一斉に解放する」

 

「「「了解!!」」」


 衛兵たちと暗殺部隊が走り出した。


「こちらです!」


「もう大丈夫です!」


「ここから逃げてください!」


 王宮の各所で、次々と人質が解放されていく。


 そして――。


「リゼット様!」


 一人の兵士が駆け寄ってくる。


「人質――全員、解放完了いたしました!」


 リゼットは目を見開いた。


「……!」


 そして、満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう!!」


 リゼットは走り出した。

◇

その頃――。


 王宮の広場。


 ラルクとガルディオは、未だ激しい戦いを繰り広げていた。


 ガキンッ!!

 ガキン!!

 ガキィン!!


「ハァ……ハァ……」


 ガルディオが息を切らす。


「相変わらず……強いな……ラルク」


 ラルクは剣を構えたまま答える。


「お前に迷いがあるからだろ」


「……!」


 ガルディオが目を見開く。


 その瞬間――。


「セレナードさーーーん!!」


 二人が振り返る。


 遠くから、リゼットが走ってくる。


「人質!!」


 リゼットは両手を上げる。


「全員解放しましたーーー!!!!!」


 ガルディオ、セレナード、黒薔薇六傑たちが目を見開く。


「「「おぉーーーっ!!!」」」


 ガルディオの大剣が床へ落ちた。


「本当なのか……」


 ラルクが静かに近づく。


「よかったな」


 ガルディオの肩が震える。


 そして――。


「……あぁ」


 目から涙が零れた。


「……あぁ……」


 ガルディオは顔を覆う。


 ラルクは軽く肩を組んで微笑んだ。


「泣くのはまだ早いぞ、ガルディオ。借りた借りは返さないとな」


 ガルディオは涙を拭い、顔を上げた。


「あぁ……そうだな……っ!」

その表情には、もう迷いはなかった。


 セレナードが温かい目で見つめ、リゼットへ声をかける。


「リゼット、よくやりましたね」


「はい!」


 リゼットは笑顔で頷く。


 そして、レイクがいるであろう方角へ視線を向けた。


 リゼットは胸の中で呟く。


(私はやり遂げたぞ。あとは頼む――)


(レイク!!!)

◇

 ――王宮最深部。


「……ハァ……ハァ……」


 レイクはニヤリと笑いながらグラドスを見据えていた。

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