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迫り来る闇

 王宮最深部。


 その廊下に、二人の男が向かい合っていた。


 レイクと――マルフィア三魔将、グラドス。


「……行くぞ!!」


 レイクが床を蹴った。


 ドンッ!!


 一瞬で間合いを詰める。


「火拳!!」


 ゴォォォ!!


 炎を纏った拳が、グラドスへ迫る。


ドォォォォン!!


 レイクの放った『火拳』が、猛烈な爆炎とともに打ち込まれる。


 しかし――グラドスはその拳を、微動だにせず正面から受け止めていた。


「なに……!?」


 レイクは即座に体内の魔力を限界まで拳へ集める。


 「おらぁぁ!!」


 ドォン!!


 渾身の一撃を叩き込む。


 「……ふん」


 だが、グラドスもまた同じように魔力を拳に宿し、そのまま相打ちの形で振り抜いた。


 ドッッッガァァァン!!


 二人の拳が正面から激突する。


 凄まじい衝撃波が廊下を駆け抜け、壁が大きく揺れた。


 しかし――。


「ぐっ……!」


 レイクの身体が押し返される。


「嘘だろ……!」


 同じ魔力拳でありながら、放たれる威力は桁違いだった。

 

 全身の骨が軋みを上げ、レイクの脳裏に警鐘が鳴り響く。


 レイクは直感的に理解する。


(まともに食らったら……やばい!!)


 レイクはすぐさま距離を取ると、手から特大の熱量を解き放つ。


「『ファイアーボール』!!」


 ドカーーーン!!


 炎の中から、ゆっくりとグラドスが歩いてくる。グラドスには、傷一つついていなかった。


「その程度の魔法では、我には届かん」


「効いてねぇのかよ……! だったら!!」


 レイクは即座に『物体浮遊』を発動させ、衝撃で破壊された周囲の壁の破片を幾十も一斉に浮き上がらせた。


「行けぇぇぇぇっ!!」


 ドドドドドドッ!!


 無数の巨大な石塊が弾丸のようにグラドスへ襲いかかる。グラドスがそれらを腕で払い落とし、わずかな隙が生じたその瞬間――


「『ファイアーボール』!!」


 先ほどよりも巨大な火球が、瓦礫ごとグラドスへ突っ込んでいく


 ドカーーーーーン!!


 凄まじい爆発が巻き起こった。


「食らえぇぇ!!」


 レイクは爆煙へ飛び込む。


「火拳!!」


 ゴォォォ!!


 炎を纏った拳が、グラドスを捉えた。


 ドォン!!


「……!」


 グラドスの身体が大きく吹き飛ぶ。


 壁を突き破り、瓦礫が崩れ落ちた。


 ハァ……ハァ……。


 レイクは拳を握り締める。


「どうだ……!」


 しかし――。


「……見事だ」


「……!」


 瓦礫の向こうから、グラドスがゆっくりと立ち上がった。


 衣服には僅かな埃が付いている。


 それだけだった。


 グラドスが一歩踏み出す。


「まだ足りんな」


 次の瞬間。


 ドンッ!!


 グラドスの姿が消えた。


「なっ――!」


 レイクが振り向く。


 そこにはグラドスがいた。


「遅い」


ドゴォン!!


「ぐはっ!!」


 強烈な拳がレイクの腹部へ叩き込まれる。

 身体がくの字に折れる。


「がっ……!」


 さらに――。


 ドン!!


 ドゴォン!!


 グラドスの拳が次々とレイクを襲う。


「ぐっ……!」


 レイクは腕を交差させ、必死に防ぐ。


 しかし、防いでも衝撃が身体の奥まで響く。


「くそっ……!」


 レイクは一瞬の隙を見つけた。


「そこだぁ!!」


 拳を振り抜く。


  しかし――。


 ガシッ!!


「……!」


 グラドスが片手で止めた。


「なっ……!」


 レイクの拳を握ったまま、グラドスの拳に魔力が集まる。


 ドォン!!


「ぐはぁぁ!!」


 レイクの身体が吹き飛んだ。


 壁へ激突し、そのまま床へ転がる


「……ちくしょ」


 レイクがグラドスを睨みつけ立ち上がろうとした直後ーー


 グラドスの足元が爆ぜた。


 ビュン!!


「がっ……!?」


 一撃、二撃――繰り出される豪腕の前に、レイクは防戦一方に追い込まれていく。


ガギン! ガガガガンッ!


「クソがぁぁッ!!」


 レイクは死角を突き、起死回生の一撃を振り抜いた。


 しかし――パシッ。


 その拳は、グラドスの片手によってあっさりと受け止められた。


「……なに!?」


「甘い」


 ズドンっ!!


 グラドスの放った魔力拳が、レイクの腹部を一直線に穿つ。


「ぐはぁっ……!!」


 大量の血を吐き出しながら、レイクの身体が砲弾のように壁へ激しく突っ込んだ。


 ドカーーーン!!!


 瓦礫が崩れ落ちる。


「くっ……!」


 レイクは瓦礫を押しのけ、ふらつきながら立ち上がろうとした。


 その瞬間――。


 ガシッ!!


「……!?」


 グラドスの手が、レイクの首を掴んだ。


「ぐっ……!」


 そのまま――。


 グイッ!!


 レイクの身体が、軽々と宙へ持ち上げられる。


「ぐ……あ……!」


 両足が床から離れ、レイクは必死にもがく。


 しかし、グラドスの腕はびくともしない。


  グラドスは宙吊りになったレイクを見つめ、静かに呟いた。


「悲しいな」


 直後――。


 ズドォン!!


「ぐはぁぁぁっ!!」


 グラドスの拳が、レイクの身体を真正面から捉えた。


 レイクの身体が弾丸のように吹き飛ぶ。


 ドォォォン!!


 そのまま遥か先の壁へと叩きつけられ、瓦礫が再び大きく崩れ落ちた。

◇

 その頃、玉座の間。


「ふふふ……あはははは!!」


 マルフィアの高笑いが室内に響き渡っていた。


 その足元で、ミリアは激しい苦痛に身体を折り曲げ、白目を剥いて悶え苦しんでいた。


「あ……がぁ……あぁ……」


「そうよ、ミリア」


 ミリアの周囲に黒い魔力が渦巻く。


「あなたは聖女に匹敵するほどの魔力量を持っている」


「……や……」


「その力が、あなたを最高の魔族へと変えるのよ!」


 マルフィアが歓喜に胸を震わせる。


 溢れ出る負の感情と絶望に呑み込まれ、ミリアは限界を超えた悲鳴を上げた。


「あぁぁぁぁぁぁーーー!!」


 その身体から――。


 ズズズズ……。


 黒いいばらが、次々と生え始めた。


「ふふふ……」


 マルフィアは嬉しそうに笑った。


「もうすぐよ……」


 ズズズ……。

◇

 一方――。


 王宮の別の廊下。


 リゼットは走っていた。


「人質は……この先!」


 その行く手に、衛兵が立ちはだかった。


「行かせん!!」


「退け!!」


 リゼットが剣を振るう。


 ガキィン!!


「うわぁー!!」


 衛兵が吹き飛ぶ。


 だが——。


 シャイン!!


 曲がり角を曲がった瞬間、暗がりから半透明の細いワイヤーが張り巡らされた。


「なっ……!?」


 身体の自由を奪われたその一瞬。


 シュババババ!!


「うわぁーー!!」


 闇の中から放たれた無数のナイフが、リゼットの衣服と肌を容赦なく切り裂く。


鮮血が舞い散り、リゼットは膝をついた。


「ぐっ……!」


 その前方から、ゆっくりと人影が現れる。


「残念ですよ……リゼット様」


「……!」


 続々と衛兵たちが集まってくる。


 その中に、明らかに雰囲気の違う者たちがいた。


 黒い装束。


 無駄のない動き。


 鋭い殺気。


「お前ら……暗殺部隊……」

リゼットが呟く。


「どうも。」


 暗殺部隊の男が一歩前へ出る。


衛兵と暗殺部隊が、リゼットを完全に取り囲む。


「悪いが、あんたの墓場は、ここだ」


 男は冷たい目でリゼットを見下ろした。


「……!」


 リゼットは傷口を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。

◇

 一方――。


 王宮の抜け道。


 王妃と王子たちは、静かに歩いていた。


「ここを抜ければ、王宮の外へ出られます」


 先頭を歩いていた王妃が、ふと立ち止まった。


「ここから私は別行動です。あなた達だけでミリアの元へ向かいなさい」


「母上!?それはどういうことですか!」

王子が声を上げる。


 王妃は静かに答えた。

「私は、国王の元へ向かいます」


「父上の……?」


「ええ」


 王妃は険しい表情を浮かべる。

「この事態になってから、あの人は一度も姿を見せていません」


「おそらく操られたまま……」


 王妃は一度言葉を切る。


「……もしくは、動けない状態なのかと」


「し、しかし、一人では危険です!」


 王子が食い下がる。


 王妃は首を横に振り、そして、僅かに笑う。


「何を言いますこの王宮の構造を考えたのは、国王と私です」


「……!」


「王の部屋までの抜け道も心得ています」


 王妃は王子たちを真っ直ぐに見つめる。

「あなた達は行きなさい」


「お母様……」


「ミリアを、お願いします」


 そう言うと、王妃は一人、隠し扉の奥へと一人消えていった。

◇

 王の部屋へ続く抜け道を王妃は慎重に進んでいく。


 衛兵に見つかることなく、王の部屋の前へと辿り着いた。


「……」


 王妃は静かに扉を開く。


 ギィィ……。


 その瞬間――。


「……そんな」


 王妃の顔から血の気が引いた。


 部屋の中央。


 そこには、無数の黒いいばらが絡みついていた。


 まるで国王を守る檻のように。


 その僅かな隙間から見えるのは、静かに目を閉じた国王の姿だった。


 まるで深い眠りについているかのように、微動だにしない。


「……あなた……」


 静かな声だけが、王の部屋に響いた。

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