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超える神速

「貴様……!!!」

セルグレイブの殺気が、一気に膨れ上がった。


 その場に残されたエギルは、静かに剣を構える。


 対するセルグレイブもまた、腰を落とし、剣へ手を添えた。


「……その余裕、すぐに消し飛ばしてやろう」


 シュン!!


 ――消えた。


「……!」


 エギルの目が僅かに動く。


 次の瞬間――。


 ガキィィン!!


 背後から襲いかかったセルグレイブの一撃を、エギルは振り向きざまに受け止めた。


「なに……!?」

セルグレイブが驚愕する。


 エギルは剣を押し返した。


「見えているぞ」


「……!」


 セルグレイブが距離を取る。


 そして、再び姿を消した。


 シュン!!


 右。


 ガキィン!!


 左。


 ガギィン!!


 頭上。


 キィン!!


 エギルはそのすべてに反応する。


 受ける。


 弾く。


 流す。


 セルグレイブの神速の居合を、エギルはことごとく捌いていた。


「バカな……!この俺の速度を……!」

セルグレイブの表情が歪む。


 エギルは冷静に剣を構え直す。


「確かに速い。だが――」


 エギルの瞳が鋭く光る。

「おれには届かん」


「……舐めるなぁぁ!!」

セルグレイブが吠えた。


 その瞬間――。


 ドクンッ!!


 セルグレイブの身体から、黒い魔力が噴き出した。


「……!」


 エギルが目を見開く。


 黒い魔力がセルグレイブの全身を覆い、剣を構える。


「これが……俺の真の力だ。闇の魔力を纏えば、俺の速度はさらに上がる!」


 シュンッ!!


「……!」


 先ほどとは比較にならない。


 エギルの目の前から、完全に姿が消えた。


「――!」


 ガキィィン!!


 辛うじて受け止める。


 だが――。


 セルグレイブはすでに消えていた。


 シュン!!


 右。


 ガギィン!!


 左。


 シュン!!


 上。


 ガキィン!!


 背後。


「くっ……!」


 エギルが振り向く。


 だが、遅い。


 ズバッ!!


「ぐっ……!」


 肩から血が滲む。


 続けざまに――。


 シュン!!


 ガギィン!!


 ズバッ!!


「ぐっ……!」


 エギルの身体に、次々と浅い傷が刻まれていく。


 セルグレイブが笑う。

「どうした!?先ほどまでの余裕はどうした!」


 エギルは歯を食いしばった。

(速い……!)


 セルグレイブの猛攻は続く。

(また来る!)


 エギルへセルグレイブの斬撃が刻まれる。


「ぐあぁー!!」


 エギルは膝をつく。

 

(右。左。背後。すべてが見えている。だが、追いつけない……!)


 エギルはセルグレイブへ目線を向け、反撃の糸口を探るのだった。


◇

 一方――。


 王宮の地下牢。


 リゼットは解放した王族たちを、安全な抜け道へと案内していた。


「こちらです。ここを抜ければ、王宮の外へ出られます」


 王妃が振り返る。

「リゼット……あなたはどうするつもりなの?」


 リゼットは足を止めた。

「私は……みなさんの人質の解放に向かいます」


「無茶だ!」


 王子が声を上げる。


 しかし、リゼットは首を横に振った。

「私の出会った者達は、自分に今何ができるのかを考え、すぐに行動へ移していました」


 リゼットの脳裏に、レイクたちの姿が浮かぶ。


 リゼットは静かに笑った。

「王妃様……私も、あいつらみたいになりたいのです」


 王妃は静かに微笑む。

「リゼット……彼らですか」


「えぇ……」


 リゼットは王族たちへ背を向ける。


「あいつらのような、先を見据え、常に動ける者に……」


 そして、リゼットは一人、王宮の奥へと走り出した。

◇

 「まだまだいくぞ!」

 セルグレイブが飛ぶ。


 ビュン!!


 バーーン!!


 エギルの身体が大きく弾き飛ばされる。


 ドォン!!


 壁に背中を打ちつけた。


「ぐっ……!」


 膝をつく。


 セルグレイブはゆっくりと近づいてくる。

「どうだ。これが三魔将の力だ」


 エギルは荒い息を吐きながら、セルグレイブを見据えた。


(依然として、反撃の糸口は見出せない。あの速度……追いきれん)


 エギルは剣を握り直す。

(どうにか、糸口を……)


 エギルが思案をする。

(考えろ。できることを。どうする。やつなら……)


 その瞬間――。脳裏に、レイクの姿が浮かんだ。


 無我夢中で敵へと向かっていく姿。拳に魔力を練り上げ、凄まじい威力を叩き出す姿。


 そして――。


 その拳から生まれた、強烈な衝撃波。


「……!」


 エギルの目が見開かれた。


(そうか……)


 エギルは自分の剣へ視線を落とす。


(おれは魔力を剣に込めている。ならば……敵はどうだ?)


 エギルはセルグレイブを見る。


 黒い魔力を纏った身体。


 その速度は、闇の魔力を纏った瞬間に跳ね上がった。


(速度を上げたのは、黒い魔力が身体を覆った時)


 エギルの脳裏に、一つの考えが浮かぶ。


(もし……剣以外に魔力を込めれば)


 腕。脚。身体そのもの。


 そして――。


(さらに、その先……)


 エギルは剣を握る手に力を込めた。


(膨大な魔力を剣に乗せ、それを飛ばせたら)


 エギルはレイクの拳から放たれた衝撃波を思い出す。


「……ふっ」


 エギルの口元に、僅かな笑みが浮かんだ。


「なるほどな……」


 ゆっくりと立ち上がる。


「遠回りをした」


「……何?」


 セルグレイブが眉をひそめる。


 エギルは剣を構えた。そして、全身から膨大な魔力を剣へと流し込む。


 ゴォォォォ……!!


 セルグレイブは鼻で笑う。

「何をするつもりだ?血迷ったか」


 エギルは静かに目を細めた。

「バカめ……」


「なに……?」


 次の瞬間――エギルが剣を振り下ろす。


「はぁぁぁ!!」


 ズバァァァン!!


 巨大な斬撃が、剣から放たれた。


「なに……!?」


 目視できるほど巨大な斬撃が、廊下を一直線に駆け抜ける。


 ゴガガガガガ!!


 石造りの床を切り裂き、壁を削りながら進んでいく。


「くっ……!」


 セルグレイブは横へ跳んだ。


 しかし、斬撃はそれだけではない。


 広く速い。逃げ場がない。


「ぐっ……!」


 セルグレイブは紙一重でかわし、さらに後方へ跳ぶ。


 その瞬間――エギルの姿が消えた。


「……!」


 セルグレイブが振り返る。


「なっ――」


 シュン!!


 エギルが眼前に迫っていた。


 足へ込められた魔力が、これまでとは比較にならない速度を生み出している。


「遅い」


 スパッ!!


「ぐぁっ!!」


 セルグレイブの身体に一閃が走った。


 ブシャッ!!


 血が飛び散る。


 だが、エギルは急所を外していた。


 セルグレイブは傷口を押さえながら、信じられないものを見るようにエギルを見つめる。


「な……なぬ……!?」


 エギルは剣を構えたまま、静かに口を開いた。


「お前の戦い方。学ばせてもらった」


「……!」


 エギルは自らの腕へ視線を落とす。

「剣技だけではない。心身にこそ、魔力を灯す」


「なに……!?」

セルグレイブの顔が強張る。


 エギルは静かに笑った。

「一つ礼を言わせてもらう」


「……?」


「近くで見ていたものを、気づかせてくれた」


 エギルの瞳に強い光が宿る。

「お前はもう、おれには勝てんぞ」


「なにをぉぉぉ!!」


 セルグレイブが激昂する。


「ならば――これでどうだ!!」


 シュン!!


 再び神速。


 黒い魔力を纏った斬撃が、四方八方からエギルへ迫る。


 だが――。


 ガキィン!!


 エギルが受け止める。


 シュン!!


 ガギィン!!


 また受ける。


 右。


 左。


 背後。


 上。


 そのすべてに――。


 エギルは対応していた。


「なん……だと……」

セルグレイブの顔から、余裕が消える。


「防がれた……」


 エギルは一歩踏み込む。

「騎士として、敬意を払おう」


 剣を静かに構える。


「この一閃がおれの全てだ」


「……!」


 セルグレイブも刀を構え直す。

「フン!!返り討ちにしてくれる!!」


 エギルは全身へ魔力を巡らせる。


 腕。


 脚。


 そして、剣へ。


「魔導剣術――」


 魔力が一気に膨れ上がる。


「『聖煌一閃(せいこういっせん)』!!」


 シュピーーーーン!!


 一瞬だった。


 セルグレイブが瞬きをした時には――。


 エギルは、すでにその背後に立っていた。


「……え?」


 セルグレイブの身体に、一筋の赤い線が走る。


 ズバッ!!


「ぐ……!」


 ブシャー!!!


 セルグレイブの体から血が舞った。


 セルグレイブの身体がゆっくりと崩れ落ちた。


 エギルは剣に付いた血を払い、静かに鞘へ収める。


「すまない」


 エギルは背を向ける。


「……速すぎたな」


 ――エギルVSマルフィア三魔将、セルグレイブ。


 勝者、エギル。

◇

 玉座の間へ続く長い廊下。


 レイクは一人、先へ進んでいた。


「ミリア……!」


 その前方に――。


 一人の男が立っていた。


「来たか……」


 ゆっくりと男が立ち上がる。


 その瞬間――。


 バーン!!


 凄まじい衝撃波が巻き起こった。


「うわっ!」


 レイクは咄嗟に腕で顔を覆う。


 風圧が廊下を駆け抜け、周囲の壁を震わせる。


 男は静かに口を開いた。


「若き命よ……名乗れ」


「あぁ?」


 レイクは腕を下ろす。


「人に名乗る前に、まずてめぇからだろ?」


 男は少しだけ目を細めた。


「……確かに」


 そして、意外なほど素直に頭を下げる。


「すまなかった」


「……あれ?」


 レイクが拍子抜けしたような顔をする。


「意外と素直?」


 男は胸を張った。


「我が名は――グラドス」


 その声が、廊下に響き渡る。


「マルフィア三魔将が一人」


 レイクの表情が変わった。


「そして――三魔将を束ねる者」


「……!」


 レイクの脳裏に、リゼットとの会話が蘇る。


『三魔将は三人いる』


『その中に、奴らを束ねる男がいる……』


『あいつとは別格だ』


 そして――。


『――グラドス』


「……へぇ」


 レイクの口元が、ゆっくりと吊り上がった。


 グラドスはレイクを見据える。


「我は名乗ったぞ」


 静かな声。


「ならば、貴様も名乗れ」


 レイクはニッと笑った。


「ああ」


 拳を握る。


「おれの名は――レイク」


 一歩、前へ出る。


「英雄を超える男だ」


 グラドスの瞳が細くなる。


「ほぉ……」


 その口元に、僅かな笑みが浮かんだ。


「楽しませてもらうぞ」


 レイクも拳を構える。


「上等だ」


 王宮最深部。


 最後の戦いが――始まろうとしていた。

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