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格の違い

 荒れ果てた王宮の一角。


 そこでは、ゼノンとネビュラスの戦いが続いていた。


「『幻惑世界(イリュージョン・ワールド)』」


 ネビュラスが指を鳴らす。


 瞬間――。


 景色が一変した。


「……!」


 ゼノンの足元に広がっていた石造りの床が、乾ききった砂へと変わる。


 見渡す限りの砂漠。照りつける太陽。灼熱の熱気が肌を包み込む。


「また幻術かよ……!」


 ゼノンが周囲を見渡した、その瞬間――。


 ズバッ!!


「ぐっ!」


 背後から鋭い攻撃が襲いかかる。


 ゼノンは咄嗟に身を捻って避けるが、完全には避けきれず、肩を掠めた。


「ちっ……!」


 振り返る。しかし、そこには誰もいない。


「どこだ……!」


 キィン!!


 今度は頭上。


 ゼノンは腕を交差させて防ぐ。


 ドォン!!


 その身体が砂の上を大きく滑った。


「くっ……!」


「ふふふ……」


 ネビュラスの声だけが、砂漠に響き渡る。


「どうしました?先ほどまでの威勢は」


「うるせぇ……!」


 ゼノンは立ち上がる。


 その瞬間――。


 景色が再び歪んだ。


 砂漠が消え、今度は一面の海へと変わる。


「なっ……!」


 ゼノンの身体が海の中へ沈んだ。


 上下すらわからない。視界も利かない。


 そして――。


 ザシュッ!!


「ぐっ!」


 水中から鋭い氷の刃が襲いかかる。


 ゼノンは魔法で弾き飛ばす。


「こんなところで……!」


 しかし、次々と氷の刃が迫る。


 ガギン!


 ガキン!


 ガァン!


 防ぐ。


 避ける。


 弾き飛ばす。


 それでも、完全には防ぎきれない。


「ぐっ……!」


 腕に一撃。


 続いて脇腹にも突き刺さる。


「ぐはっ!」


 ゼノンは口から血を吐いた。

 

 ゼノンは歯を食いしばった。

「……クソッ!」


 その直後――。


 世界がまた歪んだ。


 海が消える。


 今度は、赤く燃え上がる火山地帯。


 地面から炎が噴き出し、溶岩が流れている。


「はぁ……はぁ……」


 ゼノンは荒い息を吐きながら周囲を見渡す。


「どこにいやがる……」


 ゴォォォォ……。


 地面が揺れる。


 その瞬間――。


 背後からネビュラスが現れた。


「ここですよ」


 ドン!!


「ぐはっ!」


 強烈な一撃がゼノンを吹き飛ばす。


 ゼノンは地面を転がり、なんとか立ち上がった。


「はぁ……はぁ……」


 身体には少しずつダメージが蓄積していた。


 ネビュラスは、その姿を見下ろすように笑う。

◇

 その頃――。


 王宮の別の場所では、リゼットが王族の囚われている地下牢へと辿り着いていた。


「リゼット……!」


「皆様、もう大丈夫です!」


 リゼットは急いで牢を開き、王族たちを解放する。


「よかった……!」


 しかし、その直後――。


「そこで何をしている!!」


 廊下の奥から大量の衛兵が押し寄せてきた。


 リゼットは剣を構える。

「……まだ終わっていません」


 王族を背に庇い、鋭い眼差しで衛兵たちを睨みつけた。

◇

 ゼノンへ風の針が襲いかかる。


「うわぁー!!」


 針はゼノンの体を切り裂き、無数の傷を負わせる。

「はぁ……はぁ……」


 ゼノンは膝をつく。


「やはり所詮はガキ」


 ネビュラスが手を掲げる。


「大したことないな」


 膨大な魔力が集まっていく。


「これで終わりだ!!」


 巨大な魔力の塊が、ゼノンへと放たれる。


「――!」


 ゼノンは動かない。


 いや――。


 動けないのか。


 ネビュラスが勝利を確信した、その時だった。


「……そんなもんか」


「……は?」


 ゼノンがゆっくりと顔を上げる。


 迫り来る攻撃へ手をかざした。


「ふっ!!」


 ドォン!!


 魔力の塊が弾き飛ばされる。


「なっ――!?」


 ネビュラスの顔から笑みが消えた。


 ゼノンは立ち上がる。


 そして、鋭い眼差しでネビュラスを見据えた。

「なるほどな……」


「な、何……」


「お前のパターン、わかったぜ」


 ゼノンが口元を吊り上げる。


「こうだろ?」

ゼノンが手をかざす。


「……!」


 景色が歪んだ。


 火山が消える。


 辺り一面が、深い森へと変わった。


「なに……!?」


 ネビュラスが驚きの声を上げる。


 その背後から――。


 グルルル……。


 巨大な魔獣が姿を現した。


「なっ……!」


 魔獣がネビュラスへ飛び掛かる。


「こんなもの!」


 ネビュラスが魔力を放つ。魔獣は霧のように消えた。


「私に幻術など効か――」


 ズドン!!


「ぐぁっ!?」


 背後から魔法の一撃が炸裂した。


 ネビュラスが吹き飛ばされる。


「な、なぜ……!」


 ゼノンが森の中から姿を現す。


「幻術だけじゃねぇ」


 ゼノンは拳を握る。


「幻術で意識をそらして、その隙に本物の攻撃を叩き込む」


「……!」


「それがお前のやり方だろ?」


 ネビュラスの表情が引きつった。


「ば、馬鹿な……!」


「お前が最初にやったことを思い出せば、意外と簡単だったぜ」


 ゼノンは一歩踏み出す。

「幻術で場所を変える、相手の意識を惑わせる」

 

 ゼノンはまた一歩踏み出す。

「そして――死角から攻撃」


「……!」


 ネビュラスが後退する。


 ゼノンは、まるで先ほどまでの苦戦が嘘だったかのように冷静だった。

「お前の戦い方……意外と簡単だな」


 ゼノンはニヤリと笑い問いかけた。

「他にはねぇのか?」


 ネビュラスの顔が怒りに歪む。

「なんだと……!!」


 ネビュラスが手を掲げる。

「ならば――!」


 再び世界が歪む。


 森が消え、今度は荒々しい岩山へと変化した。


「どうだ!」


 しかし――。


「それはもういい」


 ゼノンが手をかざす。


 突如、岩山が崩れ、世界そのものが塗り替えられていく。


「なぬっ!?クソッ!!」


 ネビュラスが別の幻術を展開する。


 今度は巨大な城。


 しかし、それすらも――。


 バシュン!!


 瞬く間に別の景色へと変わる。


「なっ!?」


 ネビュラスが目を見開く。


「なんだ」


 ゼノンは呆れたように言った。

「お前、パターン少ねぇんだな」


「このガキがぁぁ……!!」


 ネビュラスが怒りに任せ、幻術を次々と展開する。


 砂漠。


 海。


 火山。


 氷原。


 森林。


 しかし――。


 そのすべてをゼノンが塗り替えていく。


「なぜだ……!」


 ネビュラスが叫ぶ。


「なぜ私の幻術を……!」


「悪いな」


 ゼノンは静かに答える。

「三魔将とか言うから、技を盗もうと思ったんだが……お前のはいらねぇや」


「なにを~~……!」


 ネビュラスが怒りに震える。


 ゼノンは一瞬だけ目を伏せた。

「……あいつと戦って、おれも学んでな」


 脳裏に浮かぶのは、レイクとの対人演習での戦い。


 スマートではない。魔法だけでもない。相手を見据え、考え、最適な一手を選ぶ、泥臭い戦い。


 ゼノンは拳を強く握り締めた。


「おれも止まるわけにはいかねぇんだ!」


「訳の分からないことを……!」

ネビュラスが魔力を爆発させる。


 ゼノンは笑った。ゼノンはネビュラスを真っ直ぐ見据える。


「お前を倒すのなんて簡単だ、力でゴリ押しすりゃいい」


 ネビュラスが怒りで目が血走る。

「……なんだと!」


「相手がおれでよかったな」


 ネビュラスが歯軋りを立てながら言う。

「あぁん……!?」


「あいつら二人なら――」


 ゼノンが口元を吊り上げた。


「お前、瞬殺だ」


「な、なにぃぃぃ!?」


 その瞬間――。


 ネビュラスの前方に、巨大な竜巻が一つ、また一つと出現した。


「……!?」


 轟音を響かせながら、複数の竜巻が荒れ狂う。


 ネビュラスが大きく笑った。

「へっ!なんだ!お前も幻術か!」


 ゼノンは息を吐きながら肩を落とす。

「悪ぃ。現実だ」


「はっ……??」


 ゼノンが両手を広げた。

「発動までに魔力練るので時間かかったが……」


 巨大な竜巻が唸りを上げる。


「――これで終わりだ」


『暴風神の領域(テンペスト・ゾーン)!!』


 ドゴォォォォォン!!


 複数の巨大竜巻が一斉にネビュラスへ襲い掛かる。


「ぐぁぁぁぁぁ!!」


 暴風が周囲を蹂躙する。


 ネビュラスの身体が竜巻に巻き込まれ、身体を切り裂き続ける。なすすべなく吹き飛ばされていく。


 やがて暴風が収まり静寂が戻る。


 ゼノンは荒い息を吐きながら、立ち尽くしていた。


 倒れたネビュラスを見つめる。


「……ごめんな。レベルが違いすぎた」


 ――ゼノンVSマルフィア三魔将ネビュラス。


 勝者、ゼノン。

◇

 一方――。


 レイクとエギルは、玉座の間へ続く廊下を走っていた。


「急げ、エギル!」


「ああ!」


 その時――。


 シャキーン!!


「……!?」


 レイクが振り返る。


 次の瞬間――。


 ガキーーーン!!


 エギルの剣が、レイクへ忍び寄っていた一撃を受け止めた。


「……!」


 エギルが力を込める。


 ギィィン!!


 相手を押し返すと、魔族は後方へと大きく飛び退き、体勢を整えた。


 魔族が感心したように笑う。

「ほぉ~……この『セルグレイブ』の一撃を見切るとは」


 エギルは剣を構え直した。

「……貴様、三魔将か」


「いかにも」

魔族は不敵に笑う。


「マルフィア三魔将が一人――セルグレイブ」


 エギルは目を細めた。

「ほぉ……剣士か」


 その口元に、不敵な笑みが浮かぶ。

「おもしろい」


 エギルは隣のレイクへ視線を向けた。

「レイク。ここはおれに任せて、先に行くといい」


「エギル……」

レイクは息を呑みエギルに言った。


「丁度いい。おれの力を試す時だ」


 レイクはエギル見て笑う。

「フッ!ハハハハハ」


 レイクはニっと笑って言った。

「また後でな!」


 エギルは微笑みレイクに言う。

「ああ。すぐ終わらせる」


 レイクが走り出す。


「待て!」


 セルグレイブが剣へ手をかける。

「我が神速の居合を前に、逃げられると思うか!」


 シュン!!


 一瞬。


 セルグレイブの姿が消えた。


「――!」


 次の瞬間。


 ガキーーーン!!


 エギルの剣が、セルグレイブの一撃を完全に受け止めていた。


「……なに!?」

セルグレイブの目が見開かれる。


 エギルは冷静な表情のまま、剣を押し返した。


「神速の居合?」


 口元に笑みを浮かべる。


「笑わせてくれる」


 エギルは剣先をセルグレイブへ向けた。


「牛歩に見えたがな」


「なに……!?」


 セルグレイブの顔が怒りに歪む。


 その間にも、レイクは振り返ることなく廊下の奥へと走っていく。


 エギルはセルグレイブを見据え、手を軽く前に出す。

「貴様の剣がどれ程のものか――見てやろう」


 そして、指をひょい、ひょい、と動かす。


「次は見せてくれるんだろ?神速を」


 エギルは挑発するように笑った。


「貴様……!!!」


 セルグレイブの殺気が、一気に膨れ上がった。

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