見送る背中
深夜。
王立騎士学園の寮は、すっかり静まり返っていた。
昼間は生徒たちの声で賑わう廊下も、今は魔導灯の淡い光が照らすだけ。
そんな静寂の中、三人の少年たちは足早に廊下を進んでいた。
「こっちだ」
エギルが小声で言いながら、手にした地図を広げる。
レイクとゼノンも、その地図を覗き込んだ。
「エストレア王国へ行くなら、正門は避けた方がいいな」
ゼノンが地図を指差す。
「夜でも見張りがいる。裏門から出て西の街道へ抜ければ、しばらくは人目につかないはずだ」
「よし。じゃあ裏門だな!」
レイクが即座に頷いた。
「待て。エストレアまでは距離がある。途中で一度、山道を越える必要があるぞ」
「んなもん、ホウキで飛んでけばいいだろ」
「簡単に言うな……王国に着く前に魔力を使うんだぞ」
エギルが呆れたように息を吐く。だが、その顔には微かな笑みが浮かんでいた。
「まあ、確かに今さら引き返す気もないがな」
「だろ?」
レイクがニッと笑う。
ゼノンも地図を覗き込みながら口元を緩めた。
「なら、さっさと行こうぜ。ミリアを待たせるわけにもいかねぇ」
「ああ!」
三人は地図を畳むと、誰にも見つからぬよう学園の裏門へ向かって歩き出した。
――ミリアを助ける。
その目的だけは、三人とも同じだった。
◇
やがて、学園の裏門へと辿り着く。
しかし――。
「……?」
レイクが足を止めた。
門の前に、人影がある。
月明かりに照らされ、腕を組み、三人を待ち構えるように立っている。
「……先生」
そこにいたのは、ラルクだった。
「こんな夜中に、三人揃って裏門とはな」
「……」
レイク、エギル、ゼノンは顔を見合わせる。
「どこに行く気だ?」
ラルクの問いかけに、レイクが口を開いた。
「……エストレア王国」
言い訳も、取り繕いもなかった。
ラルクは黙って三人を見つめる。
「そうか」
それだけだった。
「先生……」
エギルが何かを言いかける。
だが、ラルクは手を上げて制した。
「止めても、お前らは行くんだろ?」
「……ああ」
レイクは真っ直ぐに答えた。
「だったら、無駄な説教をするつもりはない」
「え?」
レイクが目を丸くする。
ラルクは小さく息を吐き、レイク達を鋭く、それでいてどこか温かみのある目で睨みつけた。
「ただし、勝手に死ぬな」
「……!」
「エストレア王国がどういう状況なのか、俺にもまだ分からん。だが、ミリアが複雑な事情を抱える王女であることは周知の事実だ」
ラルクは三人の顔を順番に見る。
「生きて連れて帰ってこい……!」
「はい……!!」
三人が力強く返事をする。
そして、それぞれ箒を取り出した。
「行くぞ!」
レイクが箒に跨る。
「おう!」
「急ぐぞ!」
エギルとゼノンも続く。
三人は裏門を抜けると、そのまま夜空へ舞い上がった。
箒に乗り、エストレア王国へ向けて一気に駆けていく。
その背中を、ラルクは黙って見送った。
「フン……すっかりホウキに乗れるようになりやがって……」
やがて三人の姿が夜の彼方へ消える。
ラルクは一人、静かに踵を返した。
(さて……こっちはこっちで、できることをやらないとな)
その瞳には、教師としての覚悟が宿っていた。




