三人の悪ガキ
夜。
レイクたちは、学園に戻り学園長室にいた。
ラルクは、学園長へ一連の出来事を報告していた。
「エストレア王国から、突然ミリアの返還を要求された……か」
学園長は険しい表情で目を伏せる。
「しかも軍まで率いて、学園の生徒を連れ去ったというわけじゃな」
「はい」
ラルクが頭を下げる。
「ミリアは連れ去られました。私がついていながら……申し訳ありません」
「いや、気にするな」
学園長は首を振った。
「君達が砦にいる間、この学園にも軍を率いて訪れとってな。どの道、明け渡す他なかっただろう。戦争でもする勢いじゃった」
部屋に重い沈黙が落ちる。
エギルもゼノンも、異常な状況だと認めざるを得なかった。
学園長が髭に手を添え思案する。
「しかし……自国の王女を、あれほどの強行策で連れ戻すとは……普通ではないな」
そして、レイクへ視線を向けた。
「レイク。君の様子を見ていれば、大体の考えはわかる。だが……堪えろ」
「……」
「まだ機ではない」
レイクは何も答えない。
「今は事実の確認。そして、なぜそこまで強行策でミリアを連れ去ったのか――自国の姫君をな。そこを調べる必要がある」
「……」
その時、ゼノンが口を開いた。
「あいつの国には、いばらの魔女を名乗る者がいるようです」
「なに!?」
学園長の目が見開かれる。
「先の演習に現れた魔族か?」
「えぇ」
エギルが頷く。
エギルは続ける。
「私は一度、演習内で相見えています。レイクもです。そして……ミリアは、あの魔女と知り合いであったように見えました」
ラルクが険しい表情を浮かべる。
「なるほど……なんでそんな重要なことを、今まで黙っていた?」
エギルは俯き静かに答える。
「……ミリアの意思を尊重しました。レイクが言わないのであれば、おれも言えません。判断が間違っていたことは……お詫びします」
レイクは、ずっと黙っていた。
学園長はしばらく三人を見つめた後、深く息を吐いた。
「とにかく……その魔族がエストレア王国の中枢に関わっている可能性は高い」
学園長は机上の資料へ視線を落とす。
「周辺国にも協力を仰ぎ、調査するしかあるまい」
◇
その夜。
レイクは自室の中で、ベッドに腰掛けていた。
何度考えても、納得できなかった。
ミリアの困惑した顔。
助けを求めるように伸ばされた手。
そして――あの魔女の言葉。
『王国へ帰れることになったのですよ』
レイクは拳を握る。
「クソっ……」
やがて、レイクは静かに立ち上がった。
身支度を整え、寮の外へ出ようと廊下を歩く。
「どこへ行く気だ?」
「……!」
レイクの視線の先には、腕を組んだエギルとゼノンが立っていた。
「……お前ら」
ゼノンが目を細める。
「まさか、単身で乗り込む気じゃねーよな?」
レイクは少しだけ笑った。
「その『まさか』だったら?」
エギルが深く溜め息を吐く。
レイクは二人の間を通りながら言う。
「悪いな。先生たちには上手く言っといてくれ」
エギルが口を開く。
「まったく……相変わらずのバカだな。少しはおれらの話を聞いたらどうだ?」
「……?」
レイクが振り返る。
ゼノンがレイクに向かって歩きだす。
「上手く言い訳するなんて、そんな口が達者じゃなくてな」
そして、横に並ぶと穏やかに笑う。
「お前一人で行かせねーよ」
「お前ら……」
エギルは胸を張った。
「学年の首席として、生徒の安否を案ずるのは当然だ」
そして、レイクを真っ直ぐ見据える。
「それに――お前は言ったはずだ」
「……?」
「『仲間を見捨てるのが騎士なら、そんな騎士辞めちまえ』とな」
レイクの目が見開かれる。
「へっ……!」
口元に、いつもの笑みが戻った。
「……ありがとうな」
拳を強く握り締める。
「っしゃ!!行くぞ!!エストレア王国!!」
エギルとゼノンも、その後に続く。三人の足音が、静まり返った廊下へ響き渡った。
――ミリアを待つ、知られざる王国へ。三人の新たな旅が始まった。




