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いばらの魔女とさらわれた王女

今回から新章「いばら姫編」です!


ミリアの呼び名「いばら姫」にはどのような背景がー

彼女にかけられた呪いとは?


お楽しみいただけると幸いです!

「へぇ。ヤツら四人、西に向かって行きやした」


 山道の木々の陰で、ファルクスが狐のような目を細め、へりくだった笑みを浮かべていた。


 その視線の先に佇むのは、黒いローブを纏ったいばらの魔女。


「そうですか。ヤツらの教師……引率の騎士はいましたか?」


「いえ、ガキどもだけでございやした」


「……なるほど」

 魔女は静かに目を細めた。


「頃合いですね。よく働きましたよ」


 そう言って、魔女が指を軽く鳴らす。すると黒い魔力が渦を巻き、何もなかった空間から袋いっぱいの金貨や宝石が現れた。


 ファルクスの目が輝く。

「おおっ!こいつはすげー! ありがとうございます!」


「では、いずれまた会いましょう」


「へぇ。金さえ貰えれば、なんなりと!」


 ファルクスは上機嫌に袋を抱え込む。


 魔女はそんな男を一瞥すると、黒い靄へと姿を変え――その場から音もなく消え去った。

◇

「……お、見えてきたな」


 西方の防衛拠点――『ヴェエスト砦』。巨大な砦を見上げ、レイクが声を上げた。


 四人がその門をくぐると、そこには腕を組んで待ち構える一人の男の姿があった。


「えらく時間がかかってるな。どこをほっつき歩いてた」


 ラルクだった。


「先生、実は……」


 エギルは、道中で立ち寄ったリグナ村で起きた出来事を簡潔に説明した。


 話を聞き終えたラルクは、深く息を吐いた。

「そうか……また、ずいぶんと面倒なのに巻き込まれたな」


 そして、四人の頭を順番に眺める。

「駆けつけてやれず、すまなかった。……よくやったな、お前ら」


 その言葉に、レイクたちはそれぞれ頷いた。


「で……『魔結晶』は無事か?」


「おうよ!この通り!」


 レイクが背負っていた木箱を下ろす。厳重に封をされた箱を開けると、中には淡い光を放つ魔結晶が傷一つなく収められていた。


「……問題ないな」


 ラルクが確認すると、レイクは満足そうに笑った。


「だから壊してねぇって言っただろ?」


「その言葉を信用するまでが仕事だ」


「ひでぇ!」


 そんな二人のやり取りを、エギルとゼノンが苦笑しながら見つめる。


 ――任務は、無事に終わった。


 その様子を、遠く離れた空から見下ろしている者がいた。


 黒い靄をまとった女――いばらの魔女。


「……あれは」


 魔女は目を細める。


「どうやら、後ほど合流する手筈だったようですね。詐欺師など使ったツケが回ってきましたか」


 視線を落とすと、砦の入口でレイクたちと話すラルクの姿があった。


「それに……やつは……少々やっかいですね」


 その瞳に、初めて警戒の色が宿った。


「さて……どうしましょうか」

◇

 無事『魔結晶』を届け、ラルクが砦での所用のため、その場を離れていた時だった。


「――止まれ!」


 砦の門前に、突然、大勢の兵士たちが押し寄せていた。


「な、なんだ!?」


 レイクが驚いて振り返った。


 鎧に身を包んだ兵士たちが、一糸乱れぬ隊列を組んでいた。その先頭に立つ兵士が、ミリアへ視線を向け跪く。


「ミリア・エストレア王女殿下ですね?」


「……え?」


 突然、自分の名を呼ばれたミリアが目を丸くする。


「エストレア王国より、王女殿下をお迎えに上がりました」


「わ、私を……?」


 ミリアの顔から血の気が引いていく。


「待てよ!いきなり何言ってんだ?」」

レイクがすぐさまミリアの前へ出た。


「これは正式な命令です。王女殿下には、直ちに王国へお戻りいただきます」


ミリアが戸惑いながら一歩後ずさる。


 「ちょっと待ってください!私、何も聞いてません!一体どういうことなんですか!?」


 しかし兵士たちは答えない。

「王女殿下をお連れしろ!」


「なっ……!?」


 数人の兵士がミリアへと手を伸ばす。


「ふざけんな!」

レイクが腕を掴んでいた兵士を振り払った。


「レイクくん!」


 エギルとゼノンも瞬時に構える。


「王国軍だろうと、説明もなく連れさるとは。いささか強引では?」


「同感だ」


 だが――。


「我々は王国の命令に従っているだけだ!」

兵士たちは怯むことなくミリアを取り囲む。


「やめて……!待って……!」


 ミリアの声が響く。


 レイクが手を伸ばした。


「ミリア!!」


「レイクくん……!」


 一瞬だけ、二人の視線が重なる。だが、その距離は瞬く間に引き離されていく。


「離せぇぇぇっ!!」


 レイクたちが追いすがるが王国軍はミリアを連れたまま砦を離れていった。


「待ちやがれぇぇぇっ!!」


 レイクの叫びが、砦に響き渡った。


 その時だった。


 レイクの目に黒い靄。その中に浮かぶ、見覚えのある人影が映る。


「……あいつは……!」


 レイクは迷うことなく駆け出した。


「おい、レイク!」


「待て!」


 エギルとゼノンも後を追う。

◇

 砦から少し離れた森。


 黒い靄が木々の間へと消えていく。


「止まりやがれ!」


 レイクたちが追いつく。


 木々の向こうに、いばらの魔女が立っていた。


「ほう……」


 魔女は振り返る。


「お久しぶりですね。まさか、ここまで追ってくるとは」


 レイクが鋭く睨みつける。


「てめぇ……ミリアをどうした!」


 魔女はクスリと笑った。


「なるほど。あなたは随分と鼻が利くようですね」


 魔女は静かに告げる。


「ミリア王女は王国を追い出された、お可哀想な姫君なのです」


「……!」


「ですが、もう心配はいりません。ようやく王国へ帰れることになったのですよ」


 その言葉に、レイクは拳を握り締める。


「……帰れる?」


「ええ。あなた方が余計なことをする必要はありません」


 魔女の声が低くなる。


「それが彼女のためにも――そして、あなた方自身の命のためにも得策ですよ?」


「……っ」


 レイクは一歩踏み出そうとした瞬間、魔女の周囲に黒い靄が広がった。


「いずれまた会いましょう」


「待て!」


 レイクが手を伸ばした瞬間――魔女の姿は、黒い靄とともに消え失せた。


「……チッ!」

レイクは悔しそうに拳を握り締めた。

◇

「お前ら!!」

 そこへ、遅れてラルクが駆けつけてきた。


「何があった!?」


 エギルが振り返る。

「先生……ミリアが、エストレア王国軍に連れ去られました」


「何……?」

ラルクの表情が険しくなる。


「砦でも騒ぎになっていた。エストレア国が軍勢を率いてきたと。」


 ゼノンが淡々と説明する。

「どうやら王国から正式に返還を要求されていたようですが……事情が普通じゃねぇ」


「……そうか」


 ラルクは黙ってレイクを見る。


 その拳は、強く握り締められていた。


 目は血走り、歯を食いしばっている。


「レイク……」


「……自分の国の王女を誘拐する国が、どこにあんだよ……!!!」


 ラルクは何も言わず、レイクを見つめた。


 レイクは震える拳を見つめながら、絞り出すように言葉を続ける。


「先生……あいつ、いつも何かに怯えてて……でも無理して笑って、取り繕って……」


「……」


「多分、おれらに迷惑かけると思って、何も事情を話さなかったんだ。おれも……あいつから話すまで聞かねーようにしてた」


 レイクの声が震える。


「あいつ、おれが困った時でも……折れそうになった時でも、横にいてくれた」


 拳に力が入る。


「あいつが一緒に歩こうとしてくれたから、おれはここまでやれたんだ……」


 そして、真っ直ぐにラルクを見る。


「……いいやつなんだよ。あいつは」


 レイクは一歩踏み出した。


「先生。おれは、あいつの国に行かなきゃならねぇ!」


「ダメだ!!」


 ラルクは即座に答えた。


「国同士の話だ。外交の問題もある」


「でも……!」


「まず学園へ戻って状況を整理する。それからだ」


 エギルがレイクの肩を叩いた。


「……今は仕方ない。落ち着け。戻るぞ」


「……」


 ゼノンもレイクを気にかけながら歩き出す。


「今のお前が一人で行っても、何も変わらねぇ」


 レイクは黙ったまま、その場に立ち尽くしていた。

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