心宿る人形
木彫りの少年編完結です!
お楽しみいただけたら幸いです!
「私の愛を邪魔する者は排除するまで!」
ゼフェルの狂気に満ちた叫びとともに、工房の木彫り人形たちが不気味な関節音を立てて合体。数メートルにおよぶ異形の巨大ゴーレムとなって、狭い工房の天井を破って襲いかかってきた。
「……させねぇよ」
巨大な丸太腕が振り下ろされる直前、ゼノンが踏み込み、寸分の狂いもなく完璧な『魔法障壁』を展開した。
ドゴォォォンッ!!
凄まじい衝撃波と木屑が舞い散るが、障壁の内に守られたピノ、ジミル、そして捕らわれた村人たちや、レイクの背中の木箱にはかすり傷一つ付かない。
「うぉ〜! さすがゼノン!」
レイクが拍手を送る。
「感心している暇はないぞ! ここでは狭すぎるうえ、村人や魔結晶が巻き込まれる! 外へ押し出すぞ!」
すぐさまエギルが鋭く指示を飛ばす。
「あぁ。『突風の衝撃』」
ゼノンが短く応じると同時に、手から『突風の衝撃』を解き放った。
ミリアも素早く杖をかざした。
「『氷の槍』!!」
ミリアの『氷の槍』も同時に巨大ゴーレムの胸元を直撃し、壁ごと外の広場へと豪快に弾き飛ばした。
「よし! 外へ出たぞ!!」
広場へ躍り出た四人。だが、吹き飛ばされたゴーレムは不気味な魔導の光を放ち、村中に飾られていた無数の木彫り人形を磁石のように引き寄せていく。
カチカチカチカチ……!
グォォォォォン
パーツが何重にも重なり合い、やがて岩石をも超える超極厚の木質装甲が完成した。
「ちっ!喰らいやがれ!!」
レイクが『物体浮遊』で広場の巨石を叩き込む。
ドッガァァァン!!
凄まじい衝撃音が響くものの、極厚の装甲は表面が僅かに削れるのみでビクともしない。
「なら、これならどうだ!!」
レイクは地を蹴り、一瞬で間合いを詰めると、右拳に魔力を凝縮させた拳を深々と叩き込んだ。
ドカァァァァン!!
しかし、あまりの装甲の硬さに、レイクの拳は弾かれた。
「くっそ、硬ぇな……!」
「フン……無駄に図体がでかいだけだな。静寂の森での演習から、おれがどれほど研鑚を積んできたと思っている」
レイクと交代するように、エギルが静かに前へ歩み出た。
腰の鞘から静かに剣を引き抜く。その刀身に、これまでとは桁違いの密度と輝きを誇る魔力が一気に集束していく。白銀の眩い光が溢れ出し、周囲の空気が激しく振動を始めた。
その圧倒的な威圧感に、ゼノンが目を見張る。
「ほう……」
「バルカーン流魔導剣術『白煌千閃』!」
シュバババババババババババババッ……!!
疾風どころか、一瞬で影すら消え去るほどの超神速。一瞬のうちに、数千の白銀の光が交差する斬撃がゴーレムへと叩き込まれた!
ガガガガガガガガガキィィィンッ……!!
超極厚の装甲も、関節も、結合パーツすらも関係ない。圧倒的な斬撃の嵐はゴーレムを一網打尽に切り刻み、一瞬にしてただの「細切れの木片」へと解体してみせた!
「うぉぉぉっ!! すっげぇ!! やるじゃん、エギル坊ちゃん! いつのまにそんな凄ぇ技覚えたんだよ!?」
大絶賛するレイクに、エギルは背を向けたまま、フンと鼻を鳴らした。
「坊ちゃんと言うな!由緒正しき騎士王国の王子たるおれが、一度折られた鼻をそのままにしておくわけがなかろう!」
だが、安堵したのも束の間。壊れた工房の奧でゼフェルが狂気に顔を歪め、カラクリ装置のレバーを限界まで押し下げた。
「まだだ……! 村中の人形どもよ、全て立ち上がれ!!」
ガコンッ……! ギギギギギ……ッ!!
街の至る所から不気味な関節音が響き渡り、無数の木彫り人形が合体。なんと三体の巨大ゴーレムが立ち上がり、広場を包囲するように立ちはだかった。
「なに……!? 複数体だと!?」
「チッ……数が多すぎる!」
レイク、エギル、ゼノンの三人は咄嗟に身構え、襲いかかる巨腕に応戦を開始する。
一方、後方ではミリアが必死に氷の結界を展開し、恐怖に震えるピノやジミル、動けない村人たちを守り続けていた。
(みんなを守らなきゃ……! 私がしっかり防御しないと……!)
全神経を後ろの保護に注ぐミリア。だが、激しい乱戦の最中、三人が取りこぼした一体のゴーレムが、無防備なミリアの死角から剛腕を振り下ろした。
「え……!?」
ハッと振り向いた時には、巨大な木の拳が目の前に迫っていた。
死を覚悟したその瞬間——ミリアの前へ素早く躍り出たレイクが、両手を前にかざし、真正面から剛腕を受け止めた。
ドッッガァァァンッ!!!!
「ぐぎぎぎッ……!!」
「レイクくん!?」
真正面から強烈な一撃を受け止めながらレイクは振り返りニッと笑ってみせる。
「大丈夫か? ミリア」
「うん……っ!」
そして、前線で交戦していた二人に向けて、腹の底から大声を張り上げた。
「やれーーーっ!!」
「任せろ!!」
「言われなくてもだ!!」
レイクの叫びに、エギルとゼノンが同時に地を蹴る。
「バルカーン流魔導剣術——『白煌一閃!」
「『絶対熱線』!!」
銀色の閃光と白光の熱線が同時に貫き、ミリアを襲ったゴーレムと残りの巨体を一瞬で焼き穿ち、粉砕してみせた。
◇
ドガァァァン……!!
爆煙が晴れる。だが、ゼフェルはなおも諦めず、壊れたカラクリ装置の出力を限界突破まで引き上げた。
「だめだ……だめだだめだ! 息子の『心』を完成させるまでは……死んでも終わらせん!!」
装置から青紫色の不気味な魔力が暴走し、粉砕された木片や細切れのパーツが強引に引き寄せられ、禍々しい異形の木彫り巨像が形作られていく。
装置の暴走で心を奪われた村人たちが苦しげに顔を歪める中、その惨状を見たピノは、弱々しく膝をついた。
「ボクのせいだ……。ボクなんて、生まれてこなきゃよかったんだ……。ボクに『心』がないから……ボクが心が欲しいなんて、人間になりたいなんて思わなければ、誰も傷つかなかったのに……!」
自分を責め、絶望に押し潰されそうになるピノ。
身体を起こしたレイクが大声を張り上げた!
「バカなこと言ってんじゃねぇ!!」
「っ……!?」
「生まれてこなけりゃよかった奴なんて、この世にいてたまるか!!お前は今、自分の意思で悲しんで、悩んでんだろうが!そいつが『心』じゃなかったら、なんなんだよ!!」
レイクの叫びに、ピノは息を呑んで振り返った。ミリアも優しく腰を落とし、ピノの木の手を包み込む。
「そうだよ、ピノくん! 嘘をついて自分を偽らなくても、今のピノくんは誰より一生懸命で、温かい心を持っているよ!」
「ボクの……心……」
その瞬間、木彫りの少年のガラス玉の瞳から、出ないはずの透明な涙がボロボロと溢れ出した。
「お父さん……もうやめてぇぇぇっ!!」
ピノは叫びながら暴走するカラクリ装置へ飛び付き、必死にレバーにしがみついた!
「ピノ!? なにをする、退きなさい!」
「やだ! ボク、本物の人間になれなくてもいい! お父さんがこれ以上みんなを傷つけるのを見る方が、ずっと辛いんだよっ!!」
ミリアのかけた魔法の光を帯びたピノの鼻先は一切、伸びることはなかった。
何ひとつ偽りのない、ピノの魂からの本当の叫びだった。
ピノの涙の叫びと阻止によってカラクリ装置の制御が完全に崩壊し、内部で不気味に輝く核が露わになった!
「あれは……ミリア!!」
「任せて!! 『星屑の絶対零度』!!」
ミリアが放った極寒の冷気が、露出した核と異形の木彫り巨像の足をガチガチに凍結し、完全な隙を作り出す!
「これ以上、あいつの心を踏みにじるんじゃねぇぇぇッ!!」
空中へ高く跳躍したレイクが、全魔力を右拳に集束させ、一直線に殴りつけた!
ドォォォォォンッ!!!!
眩い衝撃とともに、怪しい装置と巨像は完全に粉砕された!
◇
カラクリ装置が破砕されると同時に、不気味な魔力の光は消え去った。
心を奪われていた村人たちが次々と正気を取り戻し、「う、ううん……私たちは一体……?」と顔を見合わせる。
「……ああ……あああ……」
膝から崩れ落ちたゼフェルは、己の犯した罪の重さに涙を流していた。
そこへピノが駆け寄り、そっとその手に自分の木の手を重ねる。
「お父さん……ボク、分かったよ。ボクにはもう、お父さんからもらった『心』があるよ。だから……もう悲しまないで」
「ピノ……! すまない……すまない、ピノ……っ!」
泣き崩れるゼフェルを、ピノは温かく抱きしめた。それを見つめるジミルや村人たちの目にも、優しい光が戻っていた。
静かになった広場で、エギルがレイクの背中の木箱を検分し、ふっと息を吐いた。
「……フン、木箱は無傷のようだな。正座は免除してやる」
「へへ、だから壊さねぇって言ったろ!」
ヘラヘラと笑うレイクに、エギルも呆れつつ口元を緩める。ゼノンも満足そうに頷いた。
ミリアはピノの前へ優しく歩み寄ると、小さな杖でピノの鼻先をちょんと叩いた。
「えいっ」
ふわりと小さな光が弾け、ピノの鼻に宿っていた魔法が消えていく。
「ふふ、おまじない解除! もう嘘をついても鼻は伸びないからね、ピノくん」
「あ……! ほんとだ!」
自分の鼻を両手で触りながら、パッと顔を輝かせるピノ。
しかし次の瞬間、ピノは何かを思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべると、ミリアの耳元へと顔を寄せた。
「ねぇねぇ、ミリア……」
「ん? なあに?」
「ミリアってさ……レイクのこと、好きなんでしょ?」
「ふぇっ……!?!?!?」
唐突すぎる問いかけに、ミリアの顔が一瞬でリンゴのように真っ赤に染まった。
「な、ななな……なに言ってるのピノくんっ!?? ち、ちちち違うよ!? 私はただ……その……っ!!」
両手をぶんぶんと振って大パニックになるミリア。ピノはクスッと笑ってからかう。
「うっそだー!あ! 鼻伸びてない、ずるいぞー!ミリアも嘘つきなのにー!」
「も、もうっ!! せっかくおまじない解いてあげたのにっ!!」
「やれやれ、相変わらず余計なことを……」
顔から火が出そうなほど真っ赤になって照れまくるミリアを見て、離れた場所にいたジミルがと呆れ顔で溜め息をつく。
「ん? なんだ? 何の話だ?」
背中の木箱を揺らしながら、呑気に首をかしげて覗き込んでくるレイク。
「なっ、なんでもない! 何でもないからね、レイクくん!!」
「?? なんだよ……急に大声出して……」
あからさまに焦るミリアの様子に、ゼノンは呆れつつもふっと口元を緩め、エギルは「やれやれ……」と腕を組んで天を仰いだ。
「さぁ、一件落着ってことで出発するか!」
レイク達はピノとゼフェル、そしてジミルや村人たちに見送られながら、四人は晴れやかな笑顔で『ヴェエスト砦』への街道へと一歩を踏み出したのだった。
その晴れやかな別れを、少し離れた物陰から見つめる狐目の男がいた。ファルクスは誰にも気づかれぬようそそくさと走り去っていった。ーーー




