剥がれる仮面と木彫りの足音
建物の影を脱兎のごとく逃げていくファルクス。その背中を追いかけながら、ゼノンが隣を走るレイクへ静かに声をかけた。
「……浮かない顔してんな」
「……え?あぁ、ちょっとな」
レイクは神妙な面持ちで応えた。
ゼノンはそんなレイクを見て、何かを感じ口を開く。
「お前、変に鋭いところがあるからな。後で聞かせてくれ」
レイクは真っ直ぐ目を据え応える。
「あぁ」
「……」
すぐ後ろを並走するエギルもまた、二人の短いやり取りを聞きながらレイクの真剣な横顔を見つめ、黙って言葉を呑み込んでいた。
昨夜から漂うこの村の不自然さに、レイクが何かを勘付いていることを、二人は正確に悟っていた。
二人がレイクの異変と洞察を確信したまさにその時、路地裏の行き止まりへと追い詰められたファルクスが、壁に背中を押し付けて青ざめた顔で悲鳴を上げた。
「待て!頼む、話を聴いてくれ!俺はただの詐欺師で、あのジジイに利用されてただけなんだよ!ゼフェル爺さんに言われてやってるだけなんだよ!」
「戯言を!あのような聖人のごとき方が黒幕なわけがないだろう!」
エギルが即座に怒号を飛ばし、ミリアも信じられないといった様子で首を振る。だが、レイクの横顔を見つめていたエギルとゼノンは、一瞬だけ静かに目配せを交わした。
「…!?」
ミリアはそんな二人とレイクの表情を見て、何かを悟った。
レイクが前に躍り出る。
「まあ待てよエギル。……だったらよ、直接あの爺さんに聞きに行こうぜ。本人に確かめりゃ一発だろ」
先ほどまでの固い表情を消し、レイクがふっと口元を緩めて提案する。その試すような態度に、エギルとゼノン、そしてミリアは察したように無言で頷いた。
◇
四人がファルクスを連れて工房へ戻ると、驚いたことにゼフェルはまるで一行の到着を予期していたかのように、入口の前で静かに待ち構えていた。
「おや、みなさん。もう村を立たれたはずでは?一体どうされたのです?」
穏やかな笑顔を浮かべるゼフェルに対し、レイクは静かに息を吐いた後、ニッと笑ってみせた。
「よう、爺さん。いやさ、このインチキ野郎があんたのことを悪者だって言うんだよ。まぁ外じゃ立ち話もなんだし、お茶でも飲みながらゆっくり話そうぜ?」
一見すればいつもの軽いレイクの態度。だが、その瞳の奥には冷ややかな観察眼が光っていた。
「……ええ、もちろんですよ。どうぞ中へ」
ゼフェルが静かに扉を開けた。
全員が工房の中へと足を踏み入れる。
「え!みんな!どうしたの!!もしかして、また村にいてくれるの?」
ピノがレイク達が戻ってきた喜びで無邪気に瞳を輝かせた。
「一体これは……?」
ジミルはレイク達の様子に違和感を覚え呟いた。
レイクは静かにピノへ微笑む。
静まり返った室内。一同が息を呑む中、レイクはおもむろに口を開いた。
「なあ、爺さん。あんた昨日、ピノが他所の人と話すのを初めて『見た』って言ったよな?どうも引っ掛かってな……あんた、おれたちがピノと会ったあの夜、あの広場にいなかったはずだ」
ゼフェルの笑みが、かすかに引きつる。レイクは構わず淡々と言葉を重ねた。
「それに、あんたなんでおれ達がここにやってきた途端、騎士学園の生徒って知ってたんだ?
おれたちが素性を名乗ったのは、この家に来るほんの直前にピノとジミルに伝えただけだ。
あんたには、伝えてねぇ。
なのに、あんたは知ってた……おかしいよな?いや、おかしいどころじゃねぇ。あんたが知る手段なんて、ねぇはずだ」
レイクの目が鋭くなる。
「……あんた、ずっと見てたんじゃねぇか?この村中に転がってる、人形の目を使って」
ゼフェルの笑みが引きつった。そしてふと、工房の最奥へ視線を向けた。そこには頑丈な鍵と分厚い布で厳重に覆われた木扉。
レイクはそのゼフェルの視線を見逃さなかった。
「ここか……?」
レイクが扉を指差し不敵に笑う。
「さっきからあんた……あの部屋を気にしてんな」
ゼフェルの表情が凍りつく。
レイクは最奥の「開かずの部屋」へと踏み込み、分厚い木扉を力任せに蹴り飛ばした!
ドゴォンッ!!
崩れ落ちた扉の先——暗がりの部屋に並べられていたのは、怪しく輝く魔導装置と、心を抜き取られて人形のように虚無を見つめる村人や子供たちの姿だった。
「そんな……子供たちや村の人たちが……!」
ミリアが息を呑み、ピノは血の気を引かせて膝から崩れ落ちた。
「お父さん……?ボク……ボクのために、みんなを……!?」
「ふふ、やはり気づかれていましたか」
温もりを完全に失った冷酷な瞳で、ゼフェルが狂気の笑みを浮かべる。
「そうだピノ。お前の願いを叶えるには――どうしても必要だったのだよ」
「……何が?」
「人間の心だよ」
絶望に泣き叫ぶピノの前で、レイクは鋭い眼光でゼフェルを射抜いた。
「……てめぇこの村で何をした??」
「残念だ。知らずに君らは葬られる。私の愛を邪魔する者は排除するまで!」
ゼフェルが装置のレバーを引き下げると、村中の木彫り人形たちが不気味な関節音を立てて合体・巨大化し、異形の木彫りゴーレムとなって襲いかかってきた!
「行くぞお前ら!!」
レイクの叫びとともに、四人は一斉に身構えた!




