天才
(ゼノンは天才だ。奴なら必ず狙ってくるはずだ……おそらくレイクもな)
観客席のエギルが固唾をのんで見守る中、学年主任の大声が演習場に轟いた。
「ゼノン vs レイク——試合開始!!!」
(先手を叩き、流れを握る……!)
開始の合図と同時に、ゼノンは前に掲げた手から一瞬で高威力の攻撃魔法を繰り出した。
「やっぱそう来たか!」
レイクも負けじと魔法を放ち、正面からぶつけ合う。
バン! バン! バン! バン!!
開幕早々の激しい魔法の応酬に、演習場には立ち込めるほどの煙が舞い上がった。
ブワッ!
その煙を切り裂き、ゼノンが突如としてレイクの目の前に姿を現す。
(!? 早い……!)
「悪ぃな、手加減しねーぞ」
バーーーーーン!!!!
至近距離から叩き込まれる魔法の衝撃。 だが、煙が晴れたそこにレイクの姿はなかった。
(!? 外した……!?)
驚愕するゼノンの背後、白煙の中から逆にレイクが躍り出る。
(あの至近距離から避けやがったのか……!)
拳に凄まじい魔力を凝縮させながら、レイクが不敵に笑う。
「悪ぃな、手加減しねーぞ」
ドーーーーン!!
「っ……!」
レイクの魔力拳がゼノンの顔面に迫る。ゼノンはとっさに展開した魔法障壁で衝撃を殺し、体制を保ちながら後ろへと大きく滑り退いた。
ザザーーーーッ!
一瞬の攻防に、周囲の生徒たちは言葉を失う。
「う、うそだろ……あいつ、ゼノンくんと互角に渡り合って……!?」 「ありえない……一体どうなってんだよ!?」
(ちっ……! 魔法の速度、威力、咄嗟の判断……)
拳を引いたレイクは、冷や汗を流しながら敵を見据えた。
(こいつ……強い!)
「危ねぇ危ねぇ……」
ゼノンは首を鳴らし、楽しそうに目を細める。
「やっぱりお前、やるな」
「お前もな」
「……もう少し、本気でやれそうだ」
(? なにか来る……!)
ゼノンが静かに地面へ両手をついた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
突如、演習場全体が激しく揺れ始める。
「『地裂大津波』!」
大地が裂け、高さ数十メートルにも及ぶ巨岩と土砂の壁が立ち上がり、津波となってレイクへ襲いかかった。
「まじかよ!?」
ドーーーーーーーン!!!
激しい落石と土煙が収まると、レイクは荒い息を吐きながら立っていた。両手を前に突き出し、自身の周囲の攻撃だけを力任せに粉砕して防ぎ切ったのだ。
「ハァ……ハァ……っ」
「……これを防ぐか」
感心するゼノンに対し、エギルは険しい表情で戦況を分析していた。
(まずいな……今のは自分の範囲の土壁のみを撃破して凌いだが、この規模の範囲攻撃を連発されたら、レイクはゼノンへ近寄ることすらできない。さて、どう戦う……レイク)
「近寄れねぇってか……へっ、むしろ好都合かもな」
「?」
グォーーーーーーーー!!
レイクの掲げた両手に、異様な密度の魔力が集束していく。
(なんだ……? この膨大な魔力は……)
「『ファイアーボール』!!!!」
手から放たれたのは、基本魔法とは思えないほど巨大な火の玉だった。
ドカーーーーーーーン!!!!
大爆発が巻き起こり、凄まじい爆風が演習場全体に吹き荒れる。
「おいおい……なんだこの威力!?」
息を呑む観客たち。だが、エギルだけは顔を曇らせていた。
「ハァ……ハァ……クッソ……!」
爆煙が晴れた中心には、無傷のゼノンが静かに立っていた。真っ向から相殺されたのだ。
「こんな初歩の魔法でこの威力か。……やるな、お前」
(ハハハ……こいつ、まじでやべぇな)
(レイクの高威力の攻撃を簡単に相殺した……。しかもレイクは使える魔法の種類が多くない。あれが現時点での最大火力だろう。対してゼノンはまだまだ手札を残している。このままじゃまずいぞ……!)
エギルの焦りを余所に、ゼノンは不敵に煽ってみせる。
「まだこんなもんじゃねーよな? ガッカリさせんなよ」
「当然だっ!」
レイクは集中力を高め、ゼノンが先ほど隆起させた土壁の破片を空間に浮遊させた。
「食らいやがれ!!」
無数の土塊や岩石が、一斉にゼノンを目がけて飛翔する。
バン! バン! バン! バン!!
ゼノンは最小限の防壁でそれらをことごとく弾き返す。
「おらぁ!!!」
その隙を見逃さず、レイクは間髪入れずに巨大な火弾を連発した。
「れ、連発!?」
ミリアが驚愕の声を上げる。
「あの威力を連発するのか! これなら……!」
「あめぇよ」
バーン! バーン! バーン!!!!!
「ハァ……ハァ……っ」
「こんなもんなのか、お前は」
「!?」
煙の向こう側、ゼノンは微動だにせず立っていた。すべての火弾が無力化されていたのだ。
「『黒鉄の針林』」
ゼノンの周りに無数の鉄の針が生成され、一斉にレイクへと降り注ぐ。
「くっ……!」
間一髪で身を翻して回避するレイク。だが、ゼノンの追撃は止まらない。
「『真空の刃』! 『突風の衝撃』!」
ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!!!
鉄の針と同時に、不可視の風の刃と衝撃波が襲いかかる。
「うぁあーーーっ!?」
回避しきれず、レイクの体が浅く切り刻まれて血が舞う。
「すごい……同時にあれだけの魔法を……!?」
ミリアはゼノンの技術に驚愕する。
「『絶対熱線』」
ゼノンの指先から、眩い白光を放つ激しい熱線が一直線に放たれた。
「クソッ!」
レイクは咄嗟に足元の土塊を前に引き上げ、盾にして直撃を防ぐ。
「……必死だな」
「!?」
「簡単に隙を作ってくれてよ……正直、ガッカリだ」
ゼノンの周囲に、これまでとは比べものにならない異様な魔力が渦巻き始めた。何もない空間から、激しく巨大な水の渦が巻き起こる。
「これは……っ!?」
観覧席で見守っていたラルクの目が、驚愕に見開かれた。
(まさか……あり得るのか。あの若さで——)
「終わりだ」
ゼノンの冷徹な声が響く。
「『渦潮の咆哮』」
巨大な水の渦が、まるで牙をむく龍のような津波となって、レイクの一点を目がけて解き放たれた。
(やべっ——)
ズドーーーーーーーーーーン!!!!!!
演習場が爆破されたかのような重低音が轟き、大量の水と泥煙が舞い散る。
「な、なんだあの桁違いな威力の魔法……!?」 「あんなのまともに喰らったら……!」
会場が騒つく。
「あれは……」
驚く教師に対し、ラルクが重い口を開いた。
「あぁ……高難度の『A級魔法』だ。世界でも扱える者の方が少ない」
荒れ果てた演習場の中央で、ゼノンが静かに佇む。
「……ゼノン。紛れもない天才だな」
(レイクくん……っ!)
やがて泥煙が晴れていく。
「残念だったな」
そこには、全身傷だらけで倒れ伏すレイクの姿があった。
「——おれの勝ちだ」




