激突の火蓋
「Aクラス、ヒージョ! Dクラス、ミリア! 双方構え——試合開始!!」
学年主任の合図とともに、ヒージョが嘲笑を浮かべて杖を掲げた。
「サクッと終わらせちゃうよ〜! せいぜい頑張ってね!」
ビュンビュンビュンビュン!!!!
「『突風の衝撃』!」
不可視の暴風の衝撃波が、容赦なくミリアへ襲いかかる。
「キャッ!?」
ミリアは間一髪で体を捻り、地面を転がりながら回避する。
「あはは! 逃げてばっかじゃ勝てないよ〜? ほらほらほら!!!」
矢継ぎ早に放たれる風の弾幕。演習場の土煙が舞い上がり、ミリアは防戦一方に追い込まれていく。 それを見た他クラスの観客席から、心ない嘲笑が上がった。
「ハハハ! 逃げるしかできねぇのかよ!」 「最下位クラスじゃ当然だな。かわいそう〜〜〜」 「やっぱ『魔物と戦った』ってのもウソなんじゃねぇの?」
口々に罵声を浴びせる生徒たち。そんな中、レイクだけが目を輝かせて戦況を見つめていた。
「へ〜、あんな魔法もあるんだな。風か」
「ちょっと〜、これじゃ私がいじめてるみたいじゃん! ちゃんとやって……よっ!!!」
ドーーーン!!
「うわあっ!?」
直撃こそ免れたものの、至近距離で弾けた風の衝撃波に煽られ、ミリアの小柄な体が派手に吹き飛ばされた。
「あーあ、もう飽きちゃった。トドメね!」
ヒージョが冷酷に魔法陣を展開する。
「『真空の刃』!」
鋭利な風の刃が、倒れ込んだミリアに向かって一直線に迫る。
「『ファイアーボール』!!」
バーーーーーン!!!
とっさに立ち上がったミリアが放った火弾が風の刃と激突し、爆炎とともに相殺された。
「は……??」
目を丸くするヒージョ。爆煙の向こう側で、ミリアは強く瞳に光を宿していた。
(大丈夫……通用する。できることをやるんだ。……レイクくんみたいに、私も!!)
すっと息を吸い込むと、ミリアの足元からキンと澄んだ冷気が漂い始める。
(? なに……これ……?)
急激に下がる周囲の気温に、ヒージョの肌が粟立った。
(あの時より威力を抑えて……出力だけを絞る……!)
ミリアが両手を前へと突き出す。
「『星屑の絶対零度』!!!!」
パーーーーーーーン!!!!!!
一瞬にして激しい極寒の冷気が吹き荒れ、白銀の霧が演習場全体を覆い尽くした。視界が真っ白に染まり、先ほどまで嘲笑していた生徒たちが悲鳴を上げる。
「な、なんだ!?」 「急に寒気が……あ、あんな魔法、霧で見えないぞ!?」
「フッ……」
静まり返る会場の片隅で、エギルだけが満足げに口角を上げた。
やがて、白煙のような冷気がゆっくりと晴れていく。
「あ……が……あ……っ」
そこに立っていたのは、首から下をがちがちに凍結され、ガタガタと震えるヒージョの姿だった。彼女の足元を中心に、巨大な氷の結晶が美しく咲き誇っている。
(やるな……あいつ)
ゼノンが静かに目を細めた。
「よっし!!」
レイクが拳を突き上げる。 静寂に包まれていた演習場に、学年主任の声が響き渡った。
「ヒージョ戦闘不能! 勝者、ミリア!!!」
「な……なんだあの魔力……!?」 「ほんとに最下位クラスかよ……!?」
騒然となる周囲の反応も耳に入らない様子で、ミリアは慌てて氷へ駆け寄った。
「ご、ごめんなさい! 今、氷溶かしますから……っ!」
「う〜……い、痛いよ〜……っ」
観客席のエギルが腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。
「圧勝だな」
「当然! さすがミリアだ!」
息を弾ませながら控えエリアへ戻ってきたミリアに、レイクがパッと右手を開いて掲げた。
「やったな、ミリア!!」
「う、うん……っ!」
パーンッ!
弾けるような音を立てて、二人は笑顔でハイタッチを交わした。
◇
その後も、対人模擬戦は順調に消化されていく。
「おれも負けていられんな」
大演習場に踏み込んだエギルは、圧倒的な速度と洗練された剣技で相手を翻弄した。
シャキシャキシャキーンッ!!
「勝者、エギル!!」
「エギルさん、すごい……! 相手も最高クラスの人なのに、あんなにあっさり勝っちゃうなんて……」
戻ってきたエギルは、満足する様子もなく首を振る。
「いや、まだまだだな。歯ごたえのない試合だった。……やはり奴らとやらなければな」
「……始まるね」
「あぁ」
二人の視線の先で、学年主任が巨大な名簿を掲げ、声を張り上げた。
『では、続いて第8試合——ゼノン、レイク、前へ!』
歓声と静寂が入り混じる中、二人が演習場の中央へと歩み出る。
「よう。お前のツレも結構やるな。……お前ら、本当に最下位クラスか?」
「まぁな。最下位クラス特有のきつい体力メニューをこなせば、こうなるんじゃねーの?」
軽口を叩くレイクに、ゼノンは不敵な笑みを浮かべた。
「ガッカリさせんなよ?」
「さぁ、どうだかな。おれはただ……やれるだけやるだけさ」
静かに構えるゼノンと、拳を握りしめるレイク。二人の視線が交錯し、空気が激しく張り詰める。
「——両者、構え! 試合開始!!!!!」




