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9話

 スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り29日。


集計結果の確認。

不正防止と見届けという理由を付けてアルクさんを呼んでおいた。


一人目、管理者ドギ。

机の上に一枚一枚金貨を並べ始める。


俺は机を指差しアルクさんに尋ねる。


「あのぉ~、あれっ、何で金貨を並べてるんですか?」


「あぁ、勇者様は通貨についてご存じないですよね。

 この国の通貨では、銀貨百枚で金貨一枚に相当します」


「あ~、なるほど。

 お教え頂きありがとうございます」


・・・金貨・・・きんっ!?

老犬四世が確か金貨百枚とか言ってたな・・・


いかん、いかん。

今は目の前の事に集中せねば。


机の上には金貨が17枚と銀貨60枚が置かれた。

そこから賃金の銀貨11枚が引かれる。


ドギの結果は銀貨1749枚。


エバン達の予想は当たっていた。


20人近く雇って銀貨11枚。

1人に銅貨50枚で22人という事か。


続け様に成果発表が進んだ。


マギの結果は銀貨1641枚 


チムの結果は銀貨1592枚


ドンの結果は銀貨1710枚


訪問担当一人当たりの平均回収額は銀貨80枚といったところか。


それでは俺達の番だな。

俺の代わりにアルクさんが硬貨を並べてくれた。


金貨4枚と銀貨30枚。

つまり銀貨430枚が集まった。


室内にどっと笑いの渦が巻き起こる。

揃いも揃って膝を叩き、腹を抱え、大声で笑っている。


管理者達は思うがままに俺を、

いや俺達をあざけののしった。


スキル”不動明王ふどうみょうおうゆるし”が自動発動。


すまない、俺はスキルで何とかなるが、

皆は辛く苦しいはずだ・・・


五人は俺を見ている。

その表情に卑屈さは感じられない。


そうか、今日の結果に意味は無いと分かっているから・・・

なかなか優秀な部下じゃないか。


俺はつい笑みがこぼれた。

これは戦略的な愛想笑いでは無い。


俺は両腕を挙げて手を打つ。

パンっと乾いた音が響くと笑い声は止む。


注目を集めた俺は堂々とルールの追加を宣言する。


「すまない、言い忘れていたのだが、

 最終日に俺よりも下の順位の管理者は即時解雇とする」


再度、笑いの渦が巻き起こる。

アルクさんは”何がなんやら?”という顔をしている。


そりゃ、そうだ。

俺が勝手に決めただけだからな。


さて、賃金についての発表だ。

俺は部屋のすみまで届くように声を張り上げた。


「賃金は・・・銀貨11枚」


訪問担当者達の笑い声がピタッと止まり、

俺に向けられていた視線がエバン達に集まる。


先程までの憐憫れんびんの眼差しはどこへやら、

今はその目に、表情に、怒りが宿っている


そりゃそうだ、

訪問担当者の人数が少ないのに、賃金は他のチームと同等。

なんで、” 成果の少ないあいつらだけ賃金が高いのか ” と思うのだろうよ。


賃金の内訳はこうだ。


エバンが集めた銀貨は110枚。

賃金は基本給銀貨1枚に歩合で銀貨2枚。


他の者は銀貨80枚を集めたので、

基本給銀貨1枚に歩合で銀貨1枚


それで計11枚となった。


俺は”歩合制”を取り入れた。

だが、うちの子達のやる気を出す為の策では無い。

本領を発揮する明日からの為に必要な布石。


今日の俺の結果は銀貨419枚

実に良い結果だ。



 部屋で聞こえるのは、紙の上を滑る羽ペンの音のみ。

俺はひたすら地図を作る。


明日から、必要な地図の数が増えていく。

準備には時間が掛かるが、まだ疲労はそこまででは無い。


俺は黙々と作業を続ける。


スキル”煉獄に耐えし者”の自動発動。

スキル”堕天使の夜明け”の自動発動。



 スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り28日。


今日も今日とて戦いが始まる。

管理職チームの訪問担当者は部屋をゆっくりと出ていく。

明らかに昨日の勢いが見られない。


これは良い兆候だ。


俺のチームメンバーには、

高滞こうたい ” の地図とは別に、” 低滞ていたい ” の地図を多めに渡す。


それと、地図では無い ” 別の紙 ” も渡した。


そしてまた、みんなに耳打ち。

元気よく出発していくメンバーを見送った。


空いた時間にひたすら地図を作り、みんなの帰りを待つ。

仕事に没頭していれば、時間なんて直ぐに経っているものさ・・・


ふと、何かにれられている感覚に気付く。

後ろに立つマーシャが俺の肩に手を乗せている。


そうか、もうそんなに時間が経っていたのか。


さあ、お待ちかねの夕方だ。

昨日と同様にアルクさんお越しいただいた。


しかし、管理職の四人はこの時間まで何をしていたのか。

頬が赤く染まり、随分と上機嫌じゃないか。


ドギの結果は銀貨1309枚 昨日と合わせて銀貨3058枚


マギの結果は銀貨1341枚 昨日と合わせて銀貨2982枚


チムの結果は銀貨1492枚 昨日と合わせて銀貨3084枚


ドンの結果は銀貨1210枚 昨日と合わせて銀貨2920枚


想定通り、昨日と比較して成果が軒並み下落している。


それは、そうだ。

管理職が現場を回らず遊んでいたなんて事があれば、

当然、やる気の無い奴は仕事をしない。


ましてや、業務中に酒をあおる醜態をさらす様では、

真面目な奴ですら、まともに機能しなくなる。


その上で、賃金の格差はモチベーションを確実にむしばむ。


だからこそ、

モチベーションの維持に別のアプローチが必要だった。

それをどのチームも怠ったと言えよう。


敵である俺のチームに脅威を感じない。

そこまで頑張らなくてもと全て者が油断をする。


うちの会社だったら有り得ない話だ。

” 敵が何もしない ” などど、何故思い込めるのだろうか。


まさか、ずっと訪問担当が五人のままであると、

本気でそう思っているのか・・・



 さあ、俺達の成果を確認してみよう。


アルクさんが金貨を机に並べる。

その様子を見てさえいない者も居る。


また数枚だろうとたかくくり、笑う準備でもしているのか。


机の上に金貨が10枚並んだ辺りで、

皆の余裕の笑みが消える。


「これで最後ですね」


アルクさんが最後の金貨を置く。

30枚、金貨30枚が机に置かれた。


つまり、銀貨3000枚。

管理者達の表情は、時が止まっているかの様に凍り付いた。


ドンが間違いではないかと言い掛かりをつけるが、

アルクさんは首を横に振った。


場は嘘の様に静まり返っていた。

次は賃金発表の時間だ。


俺に注目が集まっている。

また”俺達の倍以上を貰うのか?”と、

他のチームの奴らは、そう思っているのだろう。


どいつもこいつも、気になって仕方が無いと顔に書いてある。

それならば、心して聞いて欲しい。


「賃金は・・・」

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