10話
スキル ” 時の番人 ” の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り28日。
訪問担当者が固唾を飲んで見守る中、
俺は残酷な現実を告げた。
「銀貨65枚」
その場に居る誰もが言葉を失った。
他のチームの賃金累計額を1チームで超えていた。
「なんでだっ!!」と叫ぶ者や、
管理者に詰め寄る者もいた。
数人が怒りのあまり、その場を去った。
それを見ても俺は表情を崩さない。
結果、俺のチームの累計は銀貨3354枚
二日目にして早速の一位だ。
これで少しは管理者達の酔いも覚めるだろう。
ドギ達は顔を青くする。
マギが他の管理職を手招きして、
部屋の隅に集まり、何か密談をしている。
どうしてここまで成果が伸びたのかを考えているのか。
よく考えればいい、答えは案外単純なはずだ。
勝負を持ち掛けた日、この時点で俺は考えた。
どうやって人手を集めればいいのか。
人海戦術はシンプルだが強力なパワープレイだ。
短期戦での有効性は高い。
だが、人の数に応じてトラブルのリスクも跳ね上がる。
俺の直下に置くのは信用出来る人間で構成したい。
異国の地とも言えるこの場で集められるのは、
せいぜい部屋に居る数人ぐらい。
だから、騒ぎに見向きもしない実直な者を選んだ。
噂話に聞き耳を立てず、見向きもしない。
そういった奴は総じて口が堅い。
しかし、これだけでは足りない。
なら、現地調達するしかないと朧気に考えていた。
初日にあの五人には一つのお願いをした。
地図に記載された高額滞納者を回り、
払えないならば ” 訪問担当 ” に誘えと。
本業に差支え無い程度のお手伝い。
所謂ところのスキマバイトだ。
五人は真摯に取り組んでくれたようだ。
皆、数人ずつの協力者を見つけた。
初日の終わりに、困り事が無いか尋ねると、
ハンクからこんな話があった。
「訪問担当をするのは構わないが、
どうやって話せばいいのか分からない」
訪問担当に誘った一人からそんな声があったと言い、
ヨグもそれに頷いていた。
言われてみれば確かにそうだ。
素人が「ほら、払え」で、「はい、どーぞ」となるはずがない。
ハンク達には対応について検討すると伝え、
その夜、俺は応対マニュアル作りに取り掛かった。
そして、もう一つ良い事を聞いた。
魔王軍の到来に絶望していた老人を訪問した時、
マーシャはつい俺の話を出してしまったらしい。
泣きそうな顔をして頭を下げるマーシャ。
肩に手を置き、何も問題無い旨を伝えた。
老犬四世は俺を ” 無かった事 ” にしているのがよく分かった。
すると、安心したマーシャは続きを話してくれた。
老人は子供の頃から勇者に憧れていたが、
長い人生の中で、まだ一度もその姿を見た事が無く、
悲嘆に暮れる日々を送っていたそうだ。
” 勇者様 ” が町を救おうとしてくれていると告げると、
是非会わせて欲しいと懇願され、了承をしてしまったそうだ。
” 勇者 ” の看板。
これは使えると直感した。
それで今日の朝。
チームの五人には、
昨日と同様に ” 高額滞納者 ” への訪問担当の勧誘。
勧誘出来た者には応対マニュアルを渡すように言った。
更に、今日からは ” 自爆営業 ” を許可した。
高額滞納者が ” 自分の税金を支払った場合 ” でも、
それは ” 成果としてみなす ” と伝えるよう指示。
賃金についても、基本給銀貨1枚と、
銀貨50枚回収で銀貨1枚の歩合を約束した。
チームメンバーにも、
勧誘した訪問担当者の歩合と同額を支払う。
早い話が ” 下請け ” を集めた。
発表した賃金の額が高いのは、
下請けに払う分も含まれていたから。
そして、類は友を呼ぶ。
集めた下請けが別の高額滞納者に ” 儲け話 ” を持ち掛け、
自分も一枚嚙ませて欲しいと希望する者は更に増える。
参加希望者には、最低一か月以上の滞納金を払わせ、
それを下請けの成果に加算させた。
当たり前に払うべき物だが、
紹介する下請けにも旨味が無くてはいけない。
参加希望者も、払った滞納金以上からが儲けとなるから、
黒字になるまで必死にやるだろう。
”高額滞納者”のリストについては ” 老人 ” と ” 暇そうな人 ” の割合を高め、
老人には勇者の降臨の奇跡を、
暇そうな人には ” スキマバイトでちょっと良い生活 ” の話させた。
新しく ” 低額滞納者 ” の地図も作った。
勧誘した訪問担当者はマニュアル片手にこれを廻る。
失敗するのを前提で巡回させた。
ここは数で勝負すればいい。
低額滞納者の地図には、
主に”子供を持つ世帯”がメインターゲット。
そこでは ” 語り継がれた勇者の英雄譚 ” をダシにして子供に懇願させた。
きっと、” 税金の支払い ” が ” 子供への贈り物 ” にでも思えたであろう。
これを ” 人の道を外れた愚策 ” と呼ぶ者も居るだろう。
大いに結構、愚策と後世に語り継ぐには、歴史が続く必要があるからな。
こういった、汚れ仕事に真面目な者は不向きだ。
だから、” 目的が明確 ” な高額滞納者が適任となる。
どちらにも”勇者”という大義名分の旗が大いに役立った。
しかし、あいつらがここから巻き返しを図るのに、
充分な時間があると思っているのであれば草も生えない。
時間をリソースとして見ていなかった、たったの一日。
俺にとっては、この国が亡ぶかもしれない期限の一日。
この積み重ねが明暗を分ける事になる。
スキル”煉獄に耐えし者”の自動発動。
スキル”堕天使の夜明け”の自動発動。
スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り27日。
今朝はドギ・マギ・チム・ドンの目の下が黒い。
ここに来て初めて危機感を覚えたみたいだ。
昨日、わざわざ地図を散らかしたまま席を外してみるものだな。
四人の机には束になった滞納証が並び、上に地図を乗せている。
成果が出ているやり方を真似するのはビジネスでは基本だからな。
さあ、今日の結果が楽しみだ。
夕方になると憔悴しきった管理者四人が結果を発表した。
ドギの結果は銀貨3005枚 昨日と合わせて銀貨6063枚
マギの結果は銀貨3346枚 昨日と合わせて銀貨6328枚
チムの結果は銀貨2897枚 昨日と合わせて銀貨5981枚
ドンの結果は銀貨3110枚 昨日と合わせて銀貨6030枚
これは見違える様な結果だ。
人手を増やしたのは勿論、
巡回ルートの最適化まで意識し始めたな。
それでは、俺達の結果だが。
予想してたよりもかなり多い。
エバンとマーシャは訪問担当の勧誘がかなり上手だとハンクから聞いた。
誠実さというのは、ある種のスキルではないだろうか。
今日は銀貨7233枚だから、累計銀貨10587枚。
しかし、一番恐ろしいのは、
これだけ回収しても、まだまだ滞納者が山ほど居る事だ。
この国の人口も把握しておかなければ。
あぁ、商人や将軍とも面識が欲しい。
そんな時はやっぱり権力者だ。
老犬四世かアルクさんに紹介を願い出てみるか。
スキル”煉獄に耐えし者”の自動発動。
スキル”堕天使の夜明け”の自動発動。




