11話
スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り26日。
昨日、俺は風呂に入った。
メイド姿の女性に鼻を摘まれたから・・・
スーツも洗濯してくれるそうだ。
迷宮とも言えるこの城といえども、
流石に風呂の場所くらいは覚えられる。
もう抜かりはない。
さて、今日は朝からおかしなことが起きた。
バスローブと革靴のまま、部屋で作業をしていると、
入り口の扉がゆっくりと開く。
朝日が昇ったばかりの時間。
衛兵でも巡回に来たのかと、視線を入り口に向ける。
すると、昨日の鼻摘みメイドがまた来た。
可愛らしい顔をしているのだが、愛想が悪い。
両手を腰の前で揃え、丁寧に一礼をする。
その手には数本の蝋燭が握られていた。
徹夜続きで蝋燭を使いまくっているからか、
気を利かせて補充にきてくれたみたいだ。
俺は視線を机の上に戻すと、
つかつかと歩く足音が聞こえ、俺の横でその音が止まる。
また顔を上げ、鼻摘みメイドを見上げる。
淡々とした口調で「お召し物が乾いた」と知らせてくれたので、
席を立ち、鼻摘みメイドの後を付いて行く。
風呂まで連れてこられた俺は、
脱衣所でスーツを渡されるのだが、メイドがまだ俺の横に立っている。
渡されたシャツもスーツも皺が取れ、高級感を取り戻していた。
甘い花の良い香りがほんのり漂う。
メイドが横に立っているのは気になるが、
早速着替えようとすると、メイドにバスローブを剥ぎ取られる。
「ちょちょちょ、ちょっと何すんのっ!?」
咄嗟に股間を両手で隠す。
両手に持っていたスーツ一式がドサッと床に落ちた。
そのまま出ていくと思いきや、メイドは何故かまだ横に居る・・・
メイドが着替えを手伝うと言い出すので、
股間を押さえたまま、俺はおもいっきり首を横に振った。
・・・が、着替えを手伝うとやたらしつこく。
この押し問答で無駄に時間を取られてしまった。
着替えを終えた俺が部屋に戻ると、何か部屋に妙な違和感を覚える。
目を凝らして部屋の中を見渡すと、その答えは火を見るより明らかであった。
ドギの机の上に積んであった大量の滞納証が忽然と姿を消す。
マギ・チム・ドンの机も全てだ。
なるほど、ついにグレーゾーンに手を出したか。
早朝の押しかけ徴税。
出かける前に訪問して滞納者との接触率向上を狙ったか。
その行動の是非は、この際置いておく。
コンプラ遵守の俺には、思い付いても出来ない方法だ。
いやしかし、知恵を絞るじゃないかあの四人。
考えた事を即時実行する行動力も称賛に値する。
拍手を送りたい程に素晴らしい。
目論見を隠す為、邪魔な俺を部屋から排除するのも作戦の内。
鼻摘みメイドもきっと ” グル ” なのだろう。
なんやかんやで、夕暮れ時。
俺が部屋で作業に没頭していると、
勢いよく扉が開き、ドギが部屋に戻って来た。
ドギは丸めた紙を手に、肩を上下して息を整えている。
かなり走り回っていたのか、顔全体に赤みが広がっており、
額に流れる汗をそのままに、ふらつく足で自席に戻った。
それから、続々と訪問担当者が戻り、
最後に戻ったのはチムであった。
さあ、今日の結果発表だ。
ドギの結果は銀貨4123枚 昨日と合わせて銀貨10186枚
マギの結果は銀貨4255枚 昨日と合わせて銀貨10583枚
チムの結果は銀貨3971枚 昨日と合わせて銀貨9952枚
ドンの結果は銀貨3557枚 昨日と合わせて銀貨9587枚
他のチームも着実に成果を伸ばしている。
だが俺は、兜の緒を緩めるつもりは無い。
俺達に勝ちたいのだろう。
さあ、次に自分の何を犠牲にする?
俺達の成果は、
銀貨7429枚、累計銀貨18016枚。
昨日の成果と殆ど差が無い・・・
今のやり方に限界が来たのか?
いや、昨日の成果が良すぎただけとも思える。
訪問担当者達は圧倒的な差に打ちひしがれ、
膝から崩れ落ちる者もいれば、瞳が潤んでいる者も居る。
ドギはじっと机の上に置かれた金貨を見下ろしているし、
椅子に座って項垂れているマギも口が開いたままだ。
そうだ、それでいい。
ドギ達も必死にやった、よく頑張った。
それでも結果は見ての通り。
真剣に物事に向き合った者しか味わえぬ、
” 己への憤り ” と ” 勝利への渇望 ” を心に留めて欲しい。
勝ってもはしゃぐ者がいないのが、うちのチームの良いところだ。
しかし、信頼とはこうも胸に響くものなのか。
打ちひしがれている者を掻き分け、近寄って来るマギ。
その表情を暗く歪めているのは後悔なのだろうか。
俺の前でマギは立ち止まる。
俯いたまま拳を握り、押し黙っている。
暫くすると、顔を上げる事も無く、
蚊の鳴くような声で話し始める。
「もう、どうすればよいのか分かりません・・・
明日、負けたら、本当に解雇されるのでしょうか・・・」
俺は敢えて感情を込めずに答える。
「そうですね、明日の結果次第です」
マギの手が見て分かる程に震えている。
余りにも重苦しい雰囲気に包まれていた。
だが、マギの様子を見兼ねたアルクさんが割って入る。
「いくら勇者様と言えども、余りにも横暴です。
私は解雇を許可致しません」
アルクさんは短い両手を目一杯広げてマギを庇う。
「そうですね、じゃあ解雇は取り止めで結構です」
「えっ!?」
圧し掛かる重しが外されたかの様にマギの頭が上がった。
その瞳は涙で滲んでいる。
俺は話を続けた。
「勝負もここで終了です。
この調子で資金集めをお願いします」
「勇者様・・・」
マギの瞳に光が戻って行く。
「軍備増強に資金が必要ですからね。
正直、どのくらいの費用かがさっぱりなのですが・・・」
少々呆れ気味に見えるアルクさんから、
当たり前の質問が飛ぶ。
「じゃあ、何故こんな事を?」
「やってくれとお願いして、やるのを待つ程、
悠長にしている時間はありませんよ」
誰も何も言い返しては来なかった。
この後、
ヨグ、ロイド、マーシャ、ハンク、エバンに礼を伝え、
今のやり方を管理者四人に伝えて貰う様にお願いした。
ただ、緊急時の対応につき、
平時ではあまりやらない方が良いとも付け加えた。
感動的な場面だったら大変申し訳ないが、
俺には最優先で終わらせなければいけない事がある。
俺は金貨を手に取った。
直径2cmくらいで、厚さ2mmくらい?
何グラムか皆目見当もつかない。
仮に、金貨一枚で金が5gと想定した場合、
金の相場は1gで25,000円くらい・・・それが5g。
一枚125,000円にもなる。
それを100枚くれると言うのか老犬四世よ。
つまり・・・
12,500,000円だとっ!!
俺の給料を差し引いても、一か月でこのお値段。
賠償金額としては充分だ。
さっそく玉座の間に行かなくては。
そっ、その前に準備だ。
俺は鞄を漁り、適当な資料の束から紙を一枚千切り、
黒の油性ペンを取り出した。
机に紙を置き、必要事項を箇条書きに連ね、
日付や会社名とサイン欄も手書きで書き込んだ。
内容を再度確認した後、
俺は紙とペンを持ったまま部屋を飛び出した。
玉座の間の場所はなんとなく分かる気がする。
ただ、この城の無駄な広さの必要性が分からない。
スキル”韋駄天の化身”を任意発動。
”歩行速度”が50%上昇。
早い、確かに早い、次から次へと足が前に出る。
だが、これは俺の匙加減ではないのか?
玉座の間に着いた俺は扉を勢い任せに開け放つ。
ドーンと轟音を響かせ、部屋内をずんずんと進む。
そして、俺は玉座の前に跪く。
「バルガス様、お聞きしたい事が御座います」
玉座に座る男は、
この数日で更に老け込んだように見えた。
目に生気の無い男が細い声で呟く。
「な・・ん・・じゃ・・・?」
「以前バルガス様に、勇者には金貨100枚を与えるとお伺いしました」
「そう・・・じゃ~・・・」
「でしたら、魔王軍を追い返した暁には、
その報酬を頂けるという認識で間違いは無いでしょうか?」
「で・き・・る・・の・・・か?」
「やりますっ!!
つきましては、こちらの契約書にサインを」
俺は手に持った一枚の紙とペンを差し出す。
老犬四世は振るえる手で紙とペンを受け取りサインした。
契約書を受け取った俺は、
依頼主四世にうやうやしく一礼をした。
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