12話
スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り25日。
人が変わった様に元気を取り戻す依頼主四世。
足を組み、肘掛けに腕を置き頬杖を突く様に、
国の王としての威厳が感じられる・・・と錯覚しそうだった。
玉座から俺見下ろし、偉そうな物言いを始める。
「それで勇者よ、魔王軍には勝てそうなのか?」
まあ、契約した以上、当然の質問だ。
「そうですね・・・
100回戦ったら、運が良ければ1回勝てるぐらい」
現状、魔王軍に勝てるという明確な理由は一つも無い。
だが、依頼を受けた以上 ” 絶対無理 ” とは口が裂けても言わない。
残り25日で1%以下の可能性をどこまで伸ばせるか。
それが俺の手腕の見せ所になる。
「なんじゃ!?何も変わっておらぬではないか」
丸投げ四世は小指で耳を穿り、指先に息を吹きかけた。
他人事の様な物言いとその仕草・・・
スキル”不動明王の赦し”が自動発動
準備の段階で勝利を確信するなどありえない。
・・・というのが分かる相手では無いので諦めよう。
丸投げ四世と話しても得られるものがあるとは思えないが、
念の為に、幾つか質問をしておこう。
跪くのを止め、
丸投げ四世を見上げ、質問を投げ掛けた。
「バルガス様にお伺いしたい事が御座いまして、
この国の人口の事な・・・」
「分からん」
俺の質問に被せて、食い気味の返答。
丸投げ四世が、右手をヒラヒラと左右に動かしている。
「はっ!?」
なんだって?
「だから、分からんと申しておる」
今度は、首を少し左に傾けて ” さあ? ” みたいな顔をしながら、
両腕の肘を曲げ、手の平を上に向けている。
まさか、国の王が人口を把握していない!?
国の最高責任者とは思えぬあまりの発言に、
俺は眩暈を覚え、少しだけ足元がふらつく。
皺の寄った眉間を指で押さえ、
「それでは、誰か分かる方をお願いします」
俺は零れ出そうな溜め息を押さえ、
どうにかして言葉を絞り出した。
「これ、ライナーを呼んでまいれ」
丸投げ四世は玉座の横で護衛をしている兵士に声を掛けると、
兵士は一礼をして、部屋の出口へ向かった。
話す事が無くなった木偶の坊を相手を前に、
立ったまま、ただ待つという苦行を強いられる事になる。
無為に時間が過ぎるのを待つよりも、
記憶の底から適当な情報を引き摺り出している方がマシだ。
以前に、何かのネットニュースで、
中世について書かれた記事を読んだ記憶がある。
中世の人口に対する兵士の割合は1%にも満たないと書いてあったような・・・
この国の兵は一千と聞いている、つまり、人口は約十万人位となるのか?
その中で、二十代から三十代の男性がどの程度の数が居るのだろうか。
最終手段として、俺は ” 徴兵 ” も視野に入れている。
手を尽くしても、 ” 術が足りない ” 事もある。
その時は、戦時下を理由に法律を捻じ曲げてでも・・・
暫くすると、濃い青の法服の爽やかな青年が部屋に入って来た。
この人も大分若い顔をしている。
爽やかな青年は、丸投げ四世の前に跪く。
「陛下、ご用件はいかようで?」
「うむ、この勇者が国の人口を教えろと言っておる」
契約が決まった途端、
態度が横柄になるクライアントは多い。
「お忙しい所お呼び建てをして申し訳ございません。
出来れば年代の割合なども含め、お教え願えますと有難いのですが・・・」
俺は頭を下げ、必要な情報について話す。
「それでしたら勇者様、戸籍管理課までお越しを」
ライナーさんは礼儀正しい人の様だ。
俺は丸投げ四世をその場に残し、
ライナーさんと共に戸籍管理課に向かった。
戸籍管理課の扉を開け、部屋の中を見渡す。
壁際の木製の棚には、蔵書がびっしり。
色ごとに分けられ、背表紙に書かれた数字の順番通りに並んでいる。
机は一つ一つ均等に並べられ、通路の幅も見事に揃っている。
業務に従事する担当者の頭の位置までもが並んでいるのには、
少々気味悪さを感じた。
ただ、少し気になる点がある。
徴税課も同様だったのだが、ここでも働く人が随分と若く見える。
丸投げ四世は老人、ドギ達もどこにでも居る大人に見えた。
だが、アルクさんを始め、エバン達やライナーさんがどうみても幼い。
まあ、それは俺の偏見というものだ。
若く才能に溢れる者が多いなんて、羨ましい話だ。
部屋の端、俺は大きな机まで通され椅子に座る。
椅子に腰を掛けたライナーさんの開口一番の鋭い指摘が刺さる。
「人口・・・年代・・・
なるほど、つまり徴兵をご検討で?」
両手の肘を机に乗せ手を組み、笑顔で問いかけてくる。
ここで誤魔化すのは悪手、相手の信用を無くす恐れがある。
「最悪の場合を想定した時、最終手段として検討する必要がありますね」
「最悪の場合とは?」
見た目の若さとは裏腹に、しっかりと嫌な所を突いてきた。
「こちら側で出来る限りの策を以ってしても、
魔王軍に勝てる算段が無い場合ですね」
問い掛けに答えても、ライナーさんの表情は変わらない。
少々やりにくい相手だな・・・
「現状でまだ打つ手があると仰るのですか?」
「私の見たところでは、
まだ ” 足りていない ” と考えております」
この言葉を耳にしたライナーさんはおもむろに立ち上がり、
窓の外に目を移し、つかの間の沈黙に耽る。
彼は振り返る事無く、会話を続けた。
「つまり、私達には ” まだやるべき事がある ” と、
そう主張されている訳ですね」
「言葉を選ばずに言うのであれば、
” 手を全て尽くした ” とは到底思えません」
クライアントに問題を指摘する場合、相手に依っては忖度が必要な時もある。
だが、目の前の男には無礼でもはっきり伝えた方が良いはずだ。
こちらが質問する前に仕掛けて来たのは、何かしらの意図があるはず。
「数日前に来たばかりの方に、
そこまで言われる筋合いがあるのでしょうか?」
「勿論、全てを把握している訳ではありませんが、
” 王 ” から戦う意思が感じられません」
ライナーさんは後ろ手のまま、緩やかに振り返ると、
警戒心を残した表情で言葉を発した。
「それでは、こちらの都合で勝手に呼び出されたあなたに、
魔王軍と戦う意思があると?」
俺の本意、若しくは覚悟を試している様に思える。
「それは、勝手に呼びつけた側が言う事なのでしょうか?」
ライナーさんの瞬きが増えた。
勇者召喚が ” 都合の悪い事 ” である認識があるみたいだな。
「ライナー様、私一個人の意思に関係無く、
やる、やらないの議論をする段階は、疾うに過ぎていますよ」
本音を言い過ぎてしまったか?
だが、俺は ” 勇者 ” として来たのでは無い。
飽くまでも勝手に呼ばれたに過ぎない。
まあ、言いたくなる気持ちも分かる。
丸投げ四世の下で働くというのはそういう事なのだ。
「失礼、言葉が過ぎました。
つまり、魔王軍を退ける事は、勇者様にとって益があると仰っているのですね」
ライナーさんの表情に大きな変化は見られない。
探っている本質に辿り着いていないからか?
「私は与えられた責任を果たす、ただそれだけです」
「つまり、それがこの国に対する、
” 勇者 ” であるあなたの答えであると」
国と書いて ” クライアント ” と読むが、
概ね間違ってはいないか・・・
「ライナーさんは、何を気になされていたのですか?」
「国を救う勇者様と言えども、
むやみやたらに徴兵をされては国の根幹が揺るぎかねませんから」
「そうですね・・・
民あっての国でしょうから」
「勇者様に、そうご理解頂けて幸いです」
やられた・・・
徴兵に”制限”や”条件”を付けてくるつもりだな・・・




