7話
スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り30日。
納期が三十日。
魔王軍を撃退する方法を考え、準備する必要がある。
孫氏の兵法に関する書籍を読んだ事はあるが、
これはあいつでも「時、既に遅し」と白旗を揚げそうだ。
この商談を成立させるべきか判断に迷う。
損害賠償を諦める事を視野に入れなければ。
「大事な確認なのですが、
勇者召喚をされた者を元の世界に返す方法はあるのですか?」
「あるぞ~、勇者帰還の法が。
ただ、魔力の充填に四十日位掛かるぞ~」
老犬四世の目の焦点は合っていない。
もう帰還までに間に合わない。
撤退の芽は摘まれた。
何て事だ、手続きを介さず強制的な契約締結。
詐欺師紛いのやり口。
いや、詐欺師はもっと小利口で狡猾だ。
これはただ流れに身を任せたに過ぎない。
聞くしか無いのか。
勇者召喚をする程の悲惨な状況を。
「お聞きしますが・・・
バルガス様のお話ですと、
勇者が居なくても魔王軍と渡り合えていた様に聞こえたのですが」
「当然、魔王軍と同等の戦力があれば戦える」
「でっ、現状の戦力は?」
「我が軍が総勢千名、魔王軍が一万じゃ」
ほぼ、俺と老犬四世の死が確定した。
「徴兵とかしたらどうですか?」
「金が無い・・・」
まさかの資金不足。
その理由を問い詰めたい所だが、
翻訳するだけ今日が終わりそうなので財務担当を呼んで貰った。
老犬は”ハウス”。
俺が暫く茶を啜っていると、応接室の扉が開く。
数人の大人を引き連れた子供が部屋に入って来る。
ダボついた濃い青の法服に左手の分厚い本。
年の頃は中学生ぐらいだろうか、顔に幼さが残る。
俺に向かって一礼すると、子供だけが椅子に腰を掛けた。
「お待たせして申し訳ございません。
私、財務大臣のアルクと申します」
俺は油断をしていた。
相手に礼を欠いてしまった。
人を見た目で判断するなと白長部長に何度言われた事か。
席を立った俺はすぐさま頭を下げる。
「アルク様、失礼を致しました。
お呼び建てをして申し訳ございません」
小柄な少年は手を左右に振る。
その穏やかな物腰に安心感を覚えた。
「いえいえ、国家存亡の危機。
出来る限り勇者様のお力添えが出来ればと」
「ありがとうございます。
早速で恐れ入りますが、国の財政状況をお聞かせ願えますでしょうか」
「畏まりました。
まず税収についてからになります・・・」
アルクさんは手に持った本を机に置き、ページを捲り始めた。
税収は主に国民からの”住民税”と、
商人からの”法人税”で成り立っているそうだ。
他にも税の種別はあるのだが、主たるものはその二つ。
財政悪化の一番の元凶は住民税の滞納であった。
もともとこの国の住民は税金の滞納者が多く、
それでもなんとかやってこれたから尚更質が悪い。
魔王軍が攻め込んでくると聞いてから、
やけくそになって滞納者が更に増えているそうだ。
「徴税担当はどうしているのですか?」
「頑張ってはいるのですが、あまり成果は芳しく無くて・・・」
アルクさんが少し言い淀んでいる。
その苦笑いから苦労が推し量れるな。
「それ、私にお任せ頂けませんか?」
「徴税など勇者様のお手を煩わせる事ではありません」
「これからの戦いに資金が必要なのでお願いしております」
スキル”道化師の仮面”の自動発動。
真剣な眼差しでアルクさんを見つめた。
「分かりました。
私程度では勇者様のお考えを推し量るなど出来ない様ですね」
俺はアルクさんに連れられて徴税担当部署まで行く事になった。
徴税担当部署に案内された俺は、部屋で働く者の様子を伺う。
仕事に従事する者がそれなりには居るが、どうにも活気が感じられない。
ただ、徴税という嫌われ者を務めている以上、
そこまで士気が上がらないのは当然なのかもしれない。
部屋の机には山の様に書類が積み上がり、
本棚までもその置き場となっている。
あくせく働く三十人程の部署。
その中の四人だけ動きが違う。
手は動かしているものの、
その動きは見て分かる程に遅く、覇気も感じられない。
だが、目まぐるしく動く視線は職員に向いているが、
手元の書類には目もくれていない。
そうかあいつらか・・・
俺はアルクさんにお願いし、その四人を集めてさせた。
集められた四人は揃って視線を俺に向ける。
いいね、不満そうなその目。
欲望に染まった ” 濁りを持つ目 ” だ。
だが、俺達の目と濁り方が違う。
心を滅し、疲労に耐え、戦い抜くと決めた ” 覚悟 ” の目では無い。
この期に及んでも、まだ目覚めぬ ” 怠惰 ” と ” 諦め ” の目だ。
俺はアルクさんに大きな声で問い掛ける。
「滞納者が多い原因はこの四人の ” 管理職 ” 、
こいつらの能力不足では無いのですか?」
アルクさんは言葉が出ず、指で頬を掻いている。
俺の言葉に不満があったのだろう、
四人の男共は一斉に口を開いた。
「精一杯やっている」だの「俺達の苦労を知らない」だの、
知恵を出さずに愚痴や言い訳がよく出て来るものだ。
それならと、俺はある提案を持ちかける。
「明日から五日間で徴税額で勝負をしよう」と。
更に、
「もし、俺が負けたら君たちは頑張っていると認め、
私は謝罪し、君達の昇給をアルクさんに願い出よう」とも伝えた。
四人の濁った瞳孔が大きく広がるのが分かった。




