16話
城の廊下のど真ん中で跪くアフォウ将軍。
俺は片膝を突き、目線を合わせた。
「将軍としての権威が損なわれる真似は御止め下さい。
ただ、バルガス様に何があったのかを知りたいとは思っています」
アフォウ将軍はフッと笑い、俺と共に立ち上がった。
「国も守れぬ将軍に、何の権威がありましょう。
ですが、勇者様は ” どうにか出来ると ” 信じていらっしゃるのですね。
父も勇者様の想いと同じであれば・・・」
そう言うと、アフォウ将軍はバルガス四世の壮絶な過去を語る。
父がまだ幼かった頃。
その勇猛さで名を馳せた祖父バルガス三世は、
後に英雄の象徴となる金色の重鎧を身に纏い、
自身の精強さもさることながら、軍の指揮にも長けておりました。
そして、その戦いぶりに畏怖と敬意の念を抱いた民衆は、
いつしか祖父を ” 金狼の英雄 ” と呼ぶ様になりました。
各地で幾多の激戦を繰り広げながら、
行く先々で味方を大いに鼓舞し、敵を恐怖で震え上がらせておりました。
ただ、いくつもの戦地で奮戦を続けていた祖父も一人の父親。
胸元には家族の似顔絵を忍ばせて、遠い故郷を思っていたと・・・
英雄と名高い祖父に会えない淋しい思いを抱えつつも、
いつかは自分も戦場に出て、祖父と轡を並べたいと、
父は剣術の稽古に励み、日々の厳しい鍛錬を怠らなかった。
ですが、父の願いは叶いませんでした・・・
ある日の事、激しい風雨に晒されながら、
空を裂く稲光と轟く雷鳴の中を祖父の一団が行軍していると、
前方に魔王軍の一団が立ちはだかったのです。
その一団から黒い馬に乗り、前に進み出る者がおりました。
手には漆黒の槍、兜から具足までも黒く覆われた男。
祖父の様子を伺う様に、ずっと睨みつけていたそうで、
「一騎打ちを所望であれば」と祖父も前へ出ました。
その風貌から、相手は魔王軍の新進気鋭の将軍、
黒槍のボスコであると分かったそうです。
打ち付ける激しい雨と轟く雷鳴の中、馬上で睨み合う二人。
決着は一瞬の出来事でした。
落雷の音を合図に二人は同時に駆け出し、
手綱から手を離し、両手で武器を強く握る。
すれ違い様に互いが全力で繰り出す一撃。
「その時に祖父は・・・」
アフォウ将軍の俯き、拳を強く握る。
「まさか・・・」
「えぇ、そのまさかです・・・
祖父は腰をやってしまい、敢え無く英雄を引退する事となりました」
この話し方・・・
やはり丸投げ四世の実子で間違いないと確信した。
「敵将はどうなったのですか?」
「その・・・語る程の相手では無かったと、
以前に釣りをしながら祖父が話してくれました。
腰をやったのは、馬から降りる時に水溜まりで滑ったのが原因です」
「・・・」
「祖父の引退の日には人々が集まり、皆が感謝の意を込めて、
その日を ” 金狼感謝の日 ” と定めたそうです」
・・・取り敢えず、話の続きを聞こう。
弱冠十八歳で王位を継いだ父は、
偉大なる祖父の期待・・・いえ、民衆の期待に応えようと必死でした。
父は王としての責務をこなしながらも勉学に励み、
弛まず心身を鍛える日々。
誰しもが、父はきっと良い王になると期待をしておりました。
そんな努力家の父の姿に母は運命を感じ、そして私が生まれた。
昔は子煩悩な父であったと私は記憶しております。
だが、そうせざるを得なかっただけだったのかもしれません。
辺境の国であるヨツンヘイムは、
魔王軍に攻められる事も無く穏やかなものでした。
政務は優秀な官僚が動かしておりましたし、
祖父と肩を並べる程の武の才が無い父は、
他国に救援で呼ばれる事はありませんでした。
父の溢れ出る想いとは裏腹に、
力を注げるものが子育てしか残らなかったのです。
それでも、日々の研鑽を怠らなかった父でしたが、
その強い心を圧し折ったのは私が六歳になった時。
他国の貴族が開催する晩餐会での事を、今でも忘れられません。
その晩餐会は、若くして活躍する者が一堂に会し、
意見交換や親交の場として設けられたそうで、
若き王として呼ばれた父も、さぞかし鼻が高かったのだと思います。
私を連れ、同年代の輪に入ってはみたものの、
内政が主な父とは違い、語られていたのは戦場での思い出話や高度な戦術論。
そのどれもが父とは関係の無い ” 煌びやかな世界 ” でした。
同世代の者の胸に輝く幾つもの勲章を見た後に、
父の手が・・・そっと王冠に伸びておりました。
そんな父の姿に、私は胸元を掴んだ手に力が入っておりましたよ。
ですが、そんな父の元に、一つの勲章を持たぬ、
幾人もの護衛を引き連れた若者が近づいて来て、
「 失礼、バルガス四世であられるな。
あなたの国は平和と聞く、その若さで見事に国を治めておいでだ」
そう声を掛けて来たのです。
これは私の推測ですが、
父には「お前の所は平和で良いよな」と悪態にでも聞こえたのでしょう。
父は何も答えずに、私を連れその場を去りました。
いっそ ” 戦わぬ臆病者 ” と罵られた方が、まだ良かったのかもしれません。
一夜にして、音も無く静かに崩れ去ってしまった父の心。
それから魂の抜けた父は一切の鍛錬を止め、
怪しい陶芸家や占い師の作品を買い漁る様になりました。
アフォウ将軍の声が徐々に力を失っていく。
そうか、丸投げ四世も元は立派な父親であったのだな。
広い廊下の真ん中で延々と立ち話になったが、
アフォウ将軍の話は、分からなくも無い話ではあった。
もし、俺が同じ立場だったら、
丸投げ四世と同じになっていたのだろうか?
あれ!?
そう言えば、ここに来てから王妃様を一回も見ていないが?
俺は気になって将軍に尋ねる。
「アフォウ将軍。
その、王妃様はどうされたのですか?」
アフォウ将軍の声は更に小さくなり、
俯く巨体に哀愁が漂う。
「母は・・・そんな父を見限り実家に帰りました。
それが数年前の話です」
そうか、丸投げ四世へのとどめはそれだな。
済まないが、妻に見限られる悲しみが俺には分からない。
しかし、プライベートが仕事に悪影響を及ぼしている。
俺としては理解に苦しむ内容だ。
だが、皆が俺と同じ感覚では生きていないのだ。
そして、丸投げ四世が自暴自棄になっている理由。
それは心に留めておこう。
廊下での立ち話が過ぎたので、
改めて俺達は練兵所に向かって歩き出す。
丸投げ四世の過去を話したのは、
当然、何かの意図があるのだろう。
「それで・・・
将軍は御父上に何を望んでいるのでしょうか?」
将軍の目が少し吊り上がり、フンッと鼻を鳴らす。
「本来なら、父が先頭に立ち、
戦う意思を民衆に示せば、国と民が一致団結出来ると思うのです」
アフォウ将軍の意見に俺は首を捻る。
「それは希望的観測が過ぎるというものです。
民衆が今のバルガス様をそこまで支持しているとお考えで?」
将軍はまた項垂れている。
感情の起伏が激しいタイプだな。
「その件は後日として、
本日お伺いしたいのは魔王軍・・・いや、魔族についてです」
「勇者様は魔族については、全くご存じ無いのでしょうか?」
魔族と言われても、
人気漫画の ” 緑色の肌 ” と ” 世界征服 ” というイメージに尽きる。
流石に同じタイプでは無い事を祈ろう・・・
俺は少し唸りながら考えて、
「私の知っている魔族は架空のもの。
この世界の魔族について知りたいのです」
と答えると、アフォウ将軍が頷く。
「それでは、詳しくお話させて頂きますが、
どの様な点をお聞きたいでしょうか?」
「主に、私達人間とどう違うのかが知りたいと思っています。
見た目や身体機能、文化の違いなどがあれば色々と」
「そうでしたか・・・
それでは、執務室にて魔族についてお話しましょう」
「えぇ、お願い致します」
俺と将軍は足早に練兵所まで向かった。
本作品を御覧下さり、ありがとうございます。
この物語を読んだ方で、
親戚がくれた” お年玉 ” が ” 日清カップヌードル ” だった方は”★”
人様の家に” お呼ばれ ” したら、だいたい ” 嫌いな物 ” が出る方は”★★”
” 闇バイト ” を ” 属性の話 ” だと思っている方は”★★★”
” サザエさん ” が始まると ” 胸がざわつく ” という方は”★★★★”
” 言葉は通じる ” のに ” 話が通じない ” 人が会社に居るという方は”★★★★★”
をお願い致します。




