15話
繊細さと豪胆さを兼ね備えた金色鎧の偉丈夫。
立ち振る舞いは ” 優 ” だが、血筋は ” 不可 ” と評価する。
勝手ながら、落第かどうかは ” 話を聞く ” 以外ないだろう。
「失礼、将軍。
お名前をお聞かせ願えないだろうか」
俺は軽く会釈をし、手を差し出すと、
大柄な男は俺の手を握り返し、はっきりとした口調で名乗る。
「あぁ、そうでした。
私、この国の軍を預かるアフォウ・バルガスと申します」
アフォウ将軍は左手の拳を胸に当て、スッと上半身を傾けた。
簡素ながらも、その礼は実に軍人らしい。
「私は会社 尽と申します。
呼ぶときは勇者で結構でございます」
「畏まりました勇者様。
して、私にどの様なご用件でしょうか?」
「そうですね、まずはこの国の軍事力について。
兵士の数や戦いの経験などを知りたいと思っています。
あと、魔王軍についても、一からご教示頂きたい」
「それでしたら、練兵所にあります私の執務室までお越しください。
詳しい話はそちらでご案内致します」
「宜しくお願い致します。
それでは、執務室まで向かいましょう」
「早速で御座いますな、勇者様。
そうだっ!!少々お待ち頂けますか?」
アフォウ将軍は王の護衛の兵士を手招きし、
目の前に立ち止まった者に声を掛けた。
「すまないが、勇者様に魔族についてお教えするので、
書庫から魔族に関する蔵書を執務室まで持ってきてくれ」
「将軍、魔族大全などで宜しいでしょうか?」
「うむ、それで構わん。
ライオットに渡しておいてくれ」
兵士は将軍に一礼し、駆け足で部屋を出た。
アフォウ将軍は俺に向き直し、
「お待たせいたしました。
さあ、行きましょう」
と俺に声を掛け、颯爽と歩き出す。
俺はその大きな背中を追い、
丸投げ四世をその場に残し、将軍の後に続いた。
広い廊下に飾られた調度品を見ながら将軍と並んで歩く。
見るからに重量感のある鎧から響く金属音。
悠然と歩くその姿から、軍人としての頼もしさを感じる。
暫く、二人共押し黙ったまま歩みを進めていると、
廊下の先からメイドがパタパタと駆けて来た。
アフォウ将軍の傍まで来ると、会釈をして廊下の脇に控える。
将軍は手を挙げ、通り過ぎ様に挨拶を投げ掛けた。
その後もアフォウ将軍は、使用人の会釈に都度、挨拶を返した。
気軽に声を掛けて来る者には、労いの言葉まで用意している。
第一印象から今までに ” 不快感 ” を覚えない・・・
この人は本当に丸投げ四世の実子なのであろうか?
俺はいつの間にか、左手の親指と人差し指で顎を挟み、
考え事に没頭してしまったみたいだ。
アフォウ将軍に声を掛けられ、ハッと意識が戻った。
「勇者様、やはり気になりますか・・・」
突然の質問に俺は首を傾げた。
「何がでしょうか?」
俺の問い掛けにアフォウ将軍は、
廊下の棚に飾られた濃い紫色の珍妙な壺を指差す。
「いえ、状況が切迫している上に国庫も乏しい、
あの様な壺など売り払ってしまえば良いものを・・・」
苦々しく話すアフォウ将軍は、
城を飾るだけの豪華なインテリアを不要と感じている様だ。
確かに、豪華な調度品などは売却して資金にでもしない限り、
戦時中ではその価値は無いに等しい。
だが、国の中枢が資金繰りに物を売却し始めたら、
状況の深刻さを暴露しているのと何ら変わりはない。
俺は小さく頷きながらも、否定的な意見を述べる。
「将軍の仰りたい事は分かりますが、
城の調度品を売却していると民衆に知られたら、
余計な不安を与える事になり兼ねませんよ」
アフォウ将軍は額に手を当て、
「確かに、その通りですな。
はぁ・・・その話が父の口から出ていればと思いますよ」
と苦笑いをするアフォウ将軍に、
俺の中で ” 血筋 ” への疑いが薄れていった。
期待に胸を膨らませた俺は、
父と子で認識に差異があるのかを確かめたくなり、
アフォウ将軍にちょっとした質問をしてみた。
「バルガス様・・・えーと、将軍の御父上ですが、
此度の件についてお話をされているのでしょうか?」
丸投げ五世となるか?
若しくは、英雄五世となるか?の質問だ。
アフォウ将軍は真っすぐ前を見つめ、
周りに聞かれる事を気にしてか、少し声を落す。
「勇者様はもうお気づきになられているのでしょう・・・
我が父、ググレ・バルガス四世は王の器に無いと」
激しく同意したいが、同意して良いのか分からぬ質問。
こういった場合は、曖昧に回答するのがベストである。
まさか、将軍は王位の簒奪を画策しているのか?
それとも、庶民には分からない、王族ならではの冗談なのか?
しかし、真顔だし、あまり冗談を言うタイプにも見えないが・・・
恐ろしい事に丸投げ四世・・・あなたのご子息には野心が有りそうです。
「バルガス様がどんな方であろうと、今は雇われの身。
与えられた役目を果たす以外に興味はありませんね」
クライアントが杜撰で計画性が無く、
当事者意識が欠けており、全てを丸投げしてこようと、
それをどうにかするのが俺の務めである。
俺は簡単にクライアントを裏切るつもりはないぞ。
さあ将軍、どう出て来るつもりだ?
俺はチラッと横目でアフォウ将軍の様子を伺うと、
手の平で顔を隠し表情を見られない様にしている。
すると突然、アフォウ将軍の肩が上下に揺れだす。
「ふふふふっ、うわぁっーはっはっはー」
咄嗟に俺は飛び退き、アフォウ将軍と距離を取る。
碌に戦えもしないが、両手を上げてファイティングポーズ。
それっぽく迎撃の体勢を整えた・・・つもりだ。
しかし、将軍が笑っている意図を理解出来ない。
いきなり、斬りかかったりしてこないだろうか!?
アフォウ将軍は顔から手を放し、
「いやはや、申し訳ございません。
アルクの言う通りですね、勇者様は本気でこの国を救うつもりだ」
俺の方へ向き直すアフォウ将軍の晴れやかな表情に敵意は感じない。
この御仁は何が言いたいのだ?
構えを解かずに、俺の意思を伝えてみる。
「この国が亡んだら、私も家に帰れませんから当然です」
「数日前にお呼びしたばかりで、
この国を救いたいというのはいささか不安ではありましたので」
腕を組んだまま、大きく頷くアフォウ将軍。
「つまり、本当にそう思っているのか試したという事でしょうか?」
「失礼ながら、その通りです。
だが、 ” 家に帰りたいからやる ” と言うのが勇者様らしくないですね」
「それがなんだ?」
しまった、クライアントの御子息につい ” ため口 ” を。
「いえ、理由はどうであれ、勇者様の意思に揺らぎは無い。
私はそう感じる事が出来ました」
明るい表情で豪快に語るアフォウ将軍。
スキル ” 不動明王の赦し ” が自動発動
俺は構えを解き、肩をすくめる。
「それなら、素直に問い詰めれば済む話でしょう。
何故、こんな回りくどいやり方を?」
アフォウ将軍は緩んだ口元を引き締め、眉を顰める。
「父を見たでしょう・・・
この窮地に何もせずに投げやりな態度、
王としての責任感に欠け、問題は勇者様に頼りっきり」
ここは頷いていいのだろうか?
将軍の目は真っすぐ俺に向けられている。
「勇者様を召喚する様にと父へ進言したのは、この私なのです」
そうか、わざわざ禁忌となる ” 勇者召喚 ” に触れる。
丸投げ四世が自ら決断するとは思えない。
とはいえ、どちらにせよ勝手に呼びつけられた。
損害賠償の請求先については検討すべきであろう。
「それでは、あなたも勇者頼りというのは変わらない。
そう仰っているんですか?」
やはり丸投げ五世というところなのか?
家族経営だと、思想は家族内に伝播するものだ。
「そう思われるのは至極当然です。
身勝手な行いであるとは重々承知しております」
「そうですね、その件については否定は出来ませんよ」
すると将軍は跪き、頭を垂れる。
「勇者様にはお詫びの言葉も御座いません。
数年前の出来事がきっかけで父は変わってしまったのです」
止めてくれ、感情に直接訴えかけるのは。
だが、数年前の出来事・・・
何があったのかは気になる。
バルガス四世があの様になってしまった理由とは。




