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14話

 スキル”時の番人”の自動発動 魔王軍の襲撃まで残り24日。


翌朝、無駄に広く、豪華な調度品が並んだ城の廊下を進む。

俺は丸投げ四世に用があるのだ。


昨日、ライナーさんの話を終えた後に、

城下町での視察に出たが、色々と収穫があった。


城下町に点在する小さな商店を虱潰(しらみつぶ)しに廻った。

商店の前で商品を品定めするフリをしながら、

店主との世間話に花を咲かせる。


どの店主も口揃えて不満を漏らしていたのは、

戦時下における物資の不足感はどこも深刻で、

食料品は勿論、鉄や木材などの資材もかなり高騰しているそうだ。


商売を続けていけるのが、もはや奇跡といった具合。


魔王軍との戦いが無いこの国ですらこれでは、

他の国はさぞかし困窮しているのであろうと推察出来る。


それが解れば充分だった。



 次に会う必要があるのは、この国の将軍様だ。


長い廊下を進んで行くと、

視界の先に豪華に飾り付けられた扉が姿を現す。


大きな扉の横に居た護衛が俺に気付き、

会釈をしてからゆっくりと扉を押す。


「ありがとう」と護衛に一声かけ、

扉を抜けて部屋に入る。


赤い絨毯(じゅうたん)の中央をズケズケと遠慮無く進み、

玉座の前で跪(ひざまず)き、首(こうべ)を垂(た)れる。


運よく丸投げ四世はそこに居た。

重役出勤をするタイプでは無い様だ。


頭を上げた俺は、挨拶の言葉を口にする。


「おはようございます、バルガス様」


「・・・ああ、お主かぁ~」


人様の前で気の抜けた顔を見せたり、

手で目を擦(こす)るものではない丸投げ四世よ。


頭の上に乗せた王冠が右側にずれ、

小洒落た灰色の髪があらぬ方向へ跳ね上がっている。


人を紹介して貰う以外に、この男には使い道が無い、

さっさと済ませよう。


「本日もお願いがございます」


「ふぁ~・・・なんじゃ?」


大口を開けて、あまり興味の無さそうな態度だが、

俺の願いを聞こうとする姿勢がある。


丸投げ四世の人物像がいまいち捉(とら)えにくいが、

この国王・・・意外に大物なのか?


人間観察もそこそこに、

国王ににっこりと笑顔を向け、俺は用件を伝える。


「この国の軍を司る者。

 つまり、この国の将軍とお引き合わせ願いたい」


「なんじゃ、そんな事か・・・

 朝早くから来るものだから、どんな要件かと思えば」


丸投げ四世が気怠(けだる)そうに手招きをすると、

一人の兵が玉座の前で跪(ひざまず)く。


「・・・息子を呼んでまいれ」


「はっ!!」


丸投げ四世の言葉に、兵士は一言だけ返事を返し、

一礼をして駆け足で部屋を出た。


俺は自分の両耳の穴に小指を突っ込んだり、

「あー、あー」と声を出し、耳の調子を確認した。


特に問題が無いとは思うのだが、

今しがた、丸投げ四世の言葉を聞き間違えてしまったみたいだ。


慣れない環境に来てまだ数日だが、

自分で思う以上にストレスが溜まっているとは。


丸投げ四世の口から ” ムスコ ” と聞こえた気がした・・・


そうかっ!!” ムスコ将軍 ” という名なのであろう。


窓を吹き抜ける涼しい風が心地よいはずなのに、

何故だか、汗が額(ひたい)を伝い、背中がじっとりと濡(ぬ)れている。


玉座で頭を上下に揺らしながら、

目を瞑(つむ)っている男を俺は見上げ、そして思う。


これは似ている、あの時の不安に・・・


それは、忙(せわ)しなく鳴く蝉(せみ)の鳴き声に慣れて来たある日、

空調の効いたオフィス内での話だ。


クライアントである結婚相談所が、

集客目当てで、突如企画した ” 野外での婚活イベント ”


白長(しらなが)部長と俺を呼びつけた経営者は嬉々として語るが、

開催日を聞いた瞬間に流れる不穏な空気。


成果に拘(こだわ)る白長(しらなが)部長でさえ、

イベントの開催は秋まで待った方が良いと勧めたが、強引に開催を決定した。


イベント当日。

横殴りの強い雨と吹き荒ぶ風の中、俺と部長はイベント会場の控室に居た。

折角用意した会場には誰もおらず、窓から外を眺める部長が一言。


「どんなに周到に用意していたとしても、

 たった一つの要素で、全てが崩れ去るなんてことはいくらでもある」


あぁ、嫌な事を思い出してしまった。


目を半分開いたまま、丸投げ四世がこちらを見ている。

締まりの無い口に手を当て、丸まった背中を伸ばす。


「ふわぁ~、勇者よ、何をそんなに難しい顔をしている?」


・・・!?


その問い掛けに、俺は顔を撫(な)で回す。


指先に伝わるピクピクと痙攣(けいれん)している右頬の感触。

口周りの筋肉も妙に硬い。


この俺の・・・

表情が崩れている!?・・・


「なななな、なんの事でしょうバルガス様」


あぁ、呂律(ろれつ)も回らなくなっている。


「いつもと違い、なにか慌てているのか?」


丸投げ四世は半分しか開いていなかった目を更に細めて、

俺の様子を伺っている。


「めっ、滅相もございません。

 何を根拠にそんな事をっ」


「そうか?まあ、気のせいだったかのう・・・」


そう言うと、丸投げ四世は暇潰(ひまつぶ)しとばかりに、

指の薄皮を捲(めく)り始める。


俺がそっと胸に手を当てると、鼓動が妙に早い。


それもそのはず、

もし、将軍があの血を受け継いるのであれば、

全てが ” 詰む ” 可能性がある・・・


辺りを見回しても、この部屋に時計は見当たらない。

なのに、俺にはチク・・・タク・・・と時を刻む音が聞こえる。



 永遠とも思える時が流れ、将軍の到来を待つ。

だが、まだ ” ムスコ ” が来ない・・・


人を見た目で判断するべきでは無いが、

今回ばかりは第一印象で全てが決まる。


足元の絨毯(じゅうたん)、鮮やかな赤が濡れて暗い色に変わる。

また鼻摘(はなつま)みメイドに風呂に連れていかれそうだ。


そんな俺を見兼ねた兵士が、水が注がれた器を手渡してくる。

それを飲み干した俺が器を兵士に返した時、背後でバタンと音がした。


俺は直ぐに振り向き、扉の先にいる男に目向けた。


胸に獅子の装飾が施された黄金色(こがねいろ)に輝く鎧。

手甲から具足までもが同じ輝きを放っている。


左腰には二本の長剣を携え、

両肩の金具で留めた青い外套(がいとう)が、歩を進める度にたなびく。


灰色の短髪、凛々(りり)しい眉と大きな目。

右頬に付けられた傷跡に、武人としての凄みを感じる。


精悍(せいかん)な顔つきをしている。

顔は似ていない・・・


だが、丸投げ四世と同じ髪色。

確率は半々といったところか・・・


” 金色(きんいろ)の半々(はんはん) ” が俺の前で立ち止まる。

俺よりも頭二つ分は高い、その顔を見上げた。


すると、左腕を腹に当て俺に一礼してきた。

礼儀正しい男だ・・・確率は七割で有利になった。


頭を上げた男が重みのある声で穏やかに語りかけてくる。


「勇者様、お噂は耳にしております。

 この国を何卒宜しくお願い申し上げます」


男の真剣な表情と、その目に憂いを感じる。

その憂いは、きっとこの国の守るという責任感からのもの。


この男は本物の将軍。

” ムスコ ” は間違いなく名前だっ!!


杞憂(きゆう)に振り回された俺はホッと胸を撫で下ろす。


男は跪(ひざまづ)くこと無く、玉座に顔を向け、声を発する。


「父上っ、公務の際は将軍と呼んで下さい」


「今、お主も父上と呼んでいるであろうが」


チ・チ・ウ・エ?


まさか、丸投げ四世は、

チチウエ・バルガス四世という名前なのか?


俺の脳裏を過る、白長(しらなが)部長の一言。


「たった一つの要素で、全てが崩れ去るなんてことはいくらでもある」が、

何度も頭の中に響く。


まだ、確定したわけではない。

一縷(いちる)の望みに賭けるのだ。


「あの・・・」


俺の声に二人の視線が集まる。


「お二人は、その、親子・・・なのですか?」


「うむ」と「はい」が重なり、

俺の意識は天に昇っていった。



 目の前を金色の何かが行き来している。

遠くから誰かの声が聞こえる。


「・・・勇者様~、大丈夫ですか~?」


目の前を上下に通り過ぎる金色の手甲。

ぼやけていた視界が鮮明になっていく。


まさか、意識を失っていたとでも言うのか!?


俺は手を翳(かざ)し、意識が有る事を伝えた。


「すいません、少しぼーっとしていたようで」


「お疲れなのではないでしょうか?

 アルクからも勇者様はイカれ・・・無理をすると聞いております」


この気遣い・・・

人を ” 血筋だけ ” で判断するのは早計かもしれない。

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