13話
ライナーさんとの穏やかな睨み合いは続いている。
” 徴兵 ” について随分と慎重だが、
国が滅びてしまえば、理想は意味を持たない。
少々苛ついてもらえれば、本音が出やすいと思うのだが・・・
あまり賢いやり口とは言い難いが仕方が無い。
「理想があるのは理解できますが、
なんの策も弄せずに、
勇者に任せればどうにか出来るとお考えで?」
俺は机に両肘を乗せて、左手の拳を右手で握り、
視線を下から抉る様に相手に突き刺す。
ライナーさんは奥歯をグッと嚙み締め、
視線を逸らし、拳を握る。
顔を背けたまま、言葉を絞り出す。
「勇者様頼りでどうにか出来ると思う程、
私はそこまで愚かではありません・・・」
それが分かっていながら、
なお、俺に何を求めているのだ?
これを察する必要は無い、腹の探り合いも必要無い。
ただ素直に聞けばいいの話だ。
俺は片手を胸に当て、穏やかな口調でライナーさんに問う。
「ライナーさん、あなたが見ているのは ” 私 ” ではありませんね。
” 勇者 ” に何を見ているのですか?」
ライナーさんが一瞬目を見開く。
視線を俺の顔に戻してから、また視線を落とす。
そして、苦虫を噛み潰した顔で、
胸に秘めた想いを語り始めた。
「まだ、私が幼かった頃。
私は両親と祖父母の五人で暮らしていました。
勉学の師であった祖父は優しく穏やかで、平和を愛する人でした」
この一言で、背筋がゾクッとする感覚。
俺にはこの話の結末がもう見えている・・・
「ある日、魔王軍との激戦が繰り広げられている国から伝令が来ました。
城下町の広場に集まった人混みを掻き分けると、
”人手不足の為、戦える者を募集する”と高札が立てられたのです。
私は不安で仕方ありませんでしたよ」
「はい・・・」
そうか、俺は判断に寄り過ぎていたんだ。
足りないのは配慮だったのか・・・
「不安な事と言うのは、どうしてその通りになるのでしょうね・・・
父と祖父は戦場に駆り出される事になったのです」
「お話は分かりました、もうそれ以上は・・・」
成果を出す為なら、俺は手段を選ばない。
ビジネスシーンにおいては、非情さは間違いとは言い切れない。
だが、察するべきであった。
若者が何故そこに拘るのかを・・・
ライナーさんは真っすぐに拳を机に振り下ろす。
その衝撃で、詰んであった本が雪崩を起こし床に散らばった。
真剣な眼差しを向け、俺に訴えかける。
「いいえ、最後まで聞いて頂きたい。
父と祖父が戦いに赴くことになった理由を」
この青年の想いを受け止めなけれないけない。
俺はただ黙って頷いた。
「掲げられた高札の最後の一文。
” これは勇者様のたっての希望である ” と書かれていました。
父は兵士、祖父は後方支援として戦いに参加し、
結局、二人は帰って来なかった」
戦争という ” 他人事 ” だったものが現実となって目の前に有る。
得も言われぬ不快感が襲い、込み上げる胃酸が俺の胸を焼いた。
戦える者は兵士として招集されるのが当たり前になっているのか・・・
管理職だけじゃない、エバン達など働いている者の全てが若い。
この国には大人の男が余り残っていない・・・
俺は急ぎ立ち上がる。
そして、怒りで肩を震わせるライナーさんに深く頭を下げた。
「知らぬ事とは言え、大変失礼な物言いをしました。
お詫び致します、大変申し訳ございません」
ライナーさんの気持ちが分からない訳では無い。
だが、勝たねばこの国の ” 生き残った全ての者 ” が同じ悲しみを背負う。
数年前から脳内に住み着いた、濁った目をした己が、
気味の悪い笑みを浮かべ、俺に囁きかける。
” どんな事情が有ろうと、結果が全て ” だと。
あぁ、分かっている。
例え、非情だと思われようとも、言うべき事は言う。
「しかし、勝たねば全てが終わります。
もう悲しむ事すら出来ないのです」
「分かっていますっ!!
ですが、戦いの勝利が私達の全てでは無い。
戦えぬ者まで巻き込まないで欲しいだけなのです・・・」
ライナーさんの表情は悲しみに染まり、声が震えている。
俺は両手を身体の横に揃え、
頭を深く深く下げ、静かに伝える。
「ライナーさんの御意向は、しかと承りました」
結果のみでは駄目だ。
過程にも配慮した上での勝利を目指す。
作業していた者の手がとまり、物音一つしなくなった。
多分、全ての視線はここに集まっているだろう。
「度々、失礼を致しました。頭をお上げ下さい勇者様」
ライナーさんの声は、落ち着きを取り戻しつつあった。
俺はゆっくりと頭を上げる。
目の前に立っているのは、国の先を憂う管理者では無い。
大切な人を失った悲しみに暮れる青年だった。
「このままではいけないと分かってはいます・・・
だが、人の命を軽く見ないで欲しいのです」
戦時下においては ” 温い ” と感じなくも無い。
だからといって、何でも有りにするのは余りにも恥知らずというものだ。
突き放す現実と縋れる希望、どちらも伝えるべきだろう。
けど、あるのだろうか?
戦えない者を巻き込まずに済む方法が・・・
俺は言い難い現実を、まず淡々と伝える。
「戦いにおいては、必ず誰かが死ぬ。
それが他人か身内か、それだけの ” 差 ” だと言えます」
「えぇ・・・分かっています」
俺はぼーっと空間を見つめて、
過去に対応した案件を思い出す・・・
・・・あった!!
商品は良いのに、営業が苦手だった会社の案件。
ここでも同じ事が出来れば問題は無いはずだ。
” 苦手 ” で ” やりたくない ”と思っている人に業務を任せるより、
” 得意 ” で ” やりたい ” 人に押し付ければいいのだ。
出来るかは確認しないといけないから、
期待を持たせない程度で話そう。
俺は薄く笑い、ライナーさんに話し掛けた。
「思い出しました、過去にやった事を。
ライナーさんの話を逆に考えるべきでした」
俺の言葉にライナーさんが微かながら前のめりになっている。
「失礼、話が見えません。逆とは一体何を?」
「目途が立ったら、お話しますよ。
忘れてはいけない、私の依頼主はバルガス様であるのですからね」
良い案を思い出した俺の目尻は下がり口元が緩む。
・・・うっかり目にも力が籠ってしまった。
「そっ、それは、どういう意味でしょうか?」
首を傾げているのに、身体の向きが斜めになていますよ、ライナーさん。
関心と不安が入り乱れているのが丸わかりですね。
「出来るかの確認が必要なので。
詳しいお話はまだ・・・
それより、ちょっとお願いがありまして」
ライナーさんは一歩後ろに下がり、身体が後ろに反っている。
「な、なんでしょうか?」
「いえ・・・
40代以上の男性の情報なのですが、
ちょっと、ある条件に該当する方を希望しておりまして」
俺は手招きをして、その ” 条件 ” をライナーさんに耳打ちするが、
” はて? ” みたいな顔をしないで貰いたい。
「しかし、その人達を集めて何か解決するのですか?」
ライナーさんの問いに、俺は肩をすくめて答える。
「さあ?正直、まだ分かりません。
再現する為の準備が必要ですので・・・」
そう上手く行くかは分からないし・・・
「ライナーさん、三日後です。
三日後にその人達を城門前に集めて下さい。
もしごねるなら ” これは勇者のたっての希望である ” と伝えて下さい」
ライナーさんにそう伝え、部屋を後にした俺は城下町へ向かった。




