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魔瘴  作者: 三重川智也
二章
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6/7

2-2 休憩

第二章第二節です。ちょっと短いかも

 男と少女は、小さな灯りを追って樹海を歩いていた。少女は巨大な三角帽子をふわふわ揺らして男の前を行く。彼女の裸足はみるみるうちに土や葉で汚れていった。

「なぁ、足、気持ち悪くないのか?」

「ん?ああ……」

 少女は一度立ち止まって、自分の足を見た。彼女が魔法を使えていた時は、その白い素肌には汚れの「よ」の字も無かったが、今は膝の方にまで土がはねている。彼女は男の足と見比べた。

「お前さんのそれは、随分便利そうじゃないか。足を保護するのか?」

「そうだ。“靴”っていう、足を守るものだよ。裸足のままじゃ不衛生だし、安全じゃない」

「それは私も同感だな。今までは魔法でどうにでもなっておったが……そうだ!お前さんはもうそんなの必要ないではないか!私にそれを寄越すのだ」

「なんでだよ」

「かっかっか!まったく、ちょっとばかし考えればわかることだ。私はもう魔法を使えない。お前さんは魔法を使える。だからお前さんのその“くつ”とやらを私が使い、お前さんは魔法でどうにかすればいい!」

「……嫌だな」

「なぜだ?最も合理的だと思うが」

「そんなことより、とっとと歩け。かなり距離があった気がする。このままだと朝になるぞ」

「むぅ……やはりお前さんは何を考えているかわからんな」

「はいはいそうかよ……」

 なんやかんやと言いつつも、二人は暗い森の出口を目指して進んでいく。

 ――男が魔法を使いたがらないのには、理由があった。それは、力が強大で身に余るからではなく、それによって自分が“化け物”であると意識するのが嫌だったからでもなかった。むしろ、魔法が使えること自体には感動すらしていた。

 子供の頃は、誰もが夢見る“魔法”。自分の思い通りに世界が塗り替えられていく妄想――それが今や、否定するのが難しいほどの現実となって目の前に現れている。“なんでもできる”と言うなら、もしかしたら……もしかしたら“生き返らせる”ことだってできるかもしれない。

 ただ、そんなことより今は少女の――ヤツの言いなりになるのが気に食わなかった。無知なくせに頭は切れる。飄々として、こっちの言うことを全く聞かないかと思えば、意外と素直だ。何を考えているかわからない。そして何より、精神年齢ではずっと年上のはずが、見た目は可憐で儚いただの少女であること。その生脚は無防備にも土で汚れ、布切れ一枚も同然のローブを着ているだけ……。

 ――許せなかった。今言ったようなことが、たとえ頭ではわかっていても、結局人間の感覚機能というものは視覚刺激によるところが大きく、眼前の情報で判断してしまう。男は自分の目を潰してしまいたかった。もっとヤツが醜くて、穢れていて、人目をはばかれる“魔女”のような容姿だったら、きっと男の心持ちはもっと楽になっていたのだろう。


 それから結構経ったころ、男は少女よりも前を歩いていた。彼が振り返ると、少女の足取りが先程の勢いを失っていた。下を向き、肩から腕を下ろして小さな歩幅で歩いていた。

「おい、何やってる。行くぞ」

「待つのだ……お前さん、進むのが早いぞ。はぁ、はぁ……少し休ませてくれ」

「どうした?さっきまでよく喋っていたじゃないか。ほら、行くぞ。早く現代社会を拝みたいだろ?」

「うーむ……それはそうなのだが」

 少女は木の幹に腰掛け、ひゅうひゅうと息をした。

「疲れたのか」

「ほう、“疲れ”……そうか。この、胸が詰まって呼吸が浅くなり、全身の筋肉が上手く機能しなくなる不便な感覚……これも生命ある者の運命(さだめ)ということだな?かかっ!ならば、悪くない」

「何を大袈裟に言ってるんだ……」

 少女は額に汗を滲ませながらも、呼吸を整えている。一方の男は、息一つ上がらず平然としていた。確かに体格の差こそあれど、彼女がここまで軟弱だとは。

「はぁ……お前さんが魔法で運んでくれれば、楽なのだがな」

「やらん。喋る元気があるなら、さっさと行くぞ」

「もうちょっと待たんか!……この体が随分使いにくいことはよぉくわかった。早速だが、それがもう恋しいよ」

 少女は、ワイシャツで隠れている男の胸元を見た。

「……魔法は使わない。自分の足で歩け」

「いや、魔法云々(うんぬん)の前にその体は“疲れ”など無いだろう?だから羨ましいのだ」

「“疲れない”?不老不死で魔法を使えるだけじゃないのか?」

「当たり前だ。本質は“固定”であるとさっき言ったであろう。体の成長、及び生理的機能も“止まって”いる。だから死なんし、老いもせず、無尽蔵の体力を有し……それと、魔法も扱えるのだ」

「……なるほどな」

 想像以上に自分が人外であると、この時男は認知した。


「まだか?」

「まだに決まっておる!せっかちなヤツめ」

 かれこれ男は、五分は待っていたが、少女はいっこうに歩こうとしない。

「……最初に早く来いって言ってたのは、いったい誰だよ」

「ん?私だが。いや私以外居ないのではないのか?ここにはお前さんとふたりだけ。お前さんが疑問に思っておるならそれは私だろう。そんな簡単なこともわからなくなったのか?かかっ!なんだ、お前さんも疲れているのではないか」

「……」

「おい、待たんか!暗いぞ、暗い!黙って勝手に行くんでないわ!」


魔女ちゃん、愛おしいですね。おしゃべりなようです。

2章なのにまだ森の中ですが、もう一悶着あります。許してください。書きたいんです。

何卒よろしくお願いします。

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