第92話 心待たず進む解明
各々が頑張っているこの状況で、僕は空に向かってこう叫んでいた。
「誰も、開いてないじゃないかー!!!」
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
そんな僕は、六時間かけて美佐校の生徒の体にソフトタッチしていたが、得られたのは不審者という称号と、
誰もアークは開いていなかった。
という結果だ。
「見てあれ、変態鍵子よ」
「きゃー!」
「気持ち悪いですわー!」
僕はそんな叫びを聞いて肩を落とす。どうやら僕はもう、聞き込み調査はできないらしい。
嫌われてしまったからだ。だが、変な意味で入り込めたため、外部の人間だとは疑われなくなった。
「みて、変態よ!」
「鍵子こっち見るなー!」
空錠鍵斗という僕が不名誉を受けないように咄嗟に名乗った、鍵子という名前。
それが浸透して、イジられキャラになってしまった。そのおかげで後半の皮膚への接触はかなりやりやすくなったのだが、なんだか大切なものを失ってしまったような気がする。
だが、それで得られたのは
容疑者絞りが間違っていたわけではなかった。
ということだ。
アークは、今日来ている生徒は誰一人として開いていなかった。一度開いた痕跡すらなかった。
今日はもう直ぐ新学期ということもあり、用務員や外部の点検業者も多く、さりげなく触れたが、彼らも開いてはいなかった。
生徒も同様の理由でいつもより多く来ており、もはや来ていない生徒を探す方が難しい始末。
つまり、
容疑者を新たに探すのではなく
なぜ、
アークが開いていないのに『捕食のアークリオン』がいたのか
という思考に移らざるを得ないのだ。
これはあり得ないことだ。
つまり、
召喚型であった場合はアークが開いていないとおかしいし、
アークリオンであったならば、アークリオンと人が一緒にいるのはあり得ないからだ。
なぜなら、閉まっていると仮定するとそれは第二形態であり、宿主との接続が切れてしまい、それによりアークリオンは自らの存在意義を失いその恐怖で暴れるからだ。
つまり、人と一緒にいるなどあり得ない。
しかもあの映像では指向性を持たせたように獲物を狙っていた。
桃木島にいた『支配のアークリオン』のように外部からエネルギーを得て、自立している存在なのか?
でもそれは、神器という死ぬまでに見れるかわからないレベルの貴重品があってこその芸当。
いや、その前提がおかしいのか?
僕はモヤモヤしていた。
「……てか」
そして一つの結論に辿り着く。
「アークリオンかどうかなんて、大切じゃないんじゃないか」
『捕食のアークリオン』の映像を見て、そいつを探そうと躍起になっていたが、これは事件なんだ。
そして謎の女の子もその場にいた。
つまり、凶器であるアークリオンの解明よりも、犯人の人物像の推理の方が大切なのではないだろうか。
考えてみれば当たり前のこと。でも、僕は……アークに触れてきた人間としてそれから離れられずにいた。
だから犯人探しを陽向さんに託してまで僕はアークに固執した。
僕だけは一応と。
でも、それは本当に必要なことなのか?
考えれば考えるほどモヤモヤする。
でも、それでもなんか、
なんか……引っかかるんだよなぁ。
僕はそんなことを考えながら、中庭のベンチに座った。
昨日からずっと、何か勘違いしているようでモヤモヤするんだ。
そしてそれは、僕じゃないと気づかないような気さえする。
でも、僕はそれがなんなのかわからなかった。
□■□■□
時刻は19:00。空錠鍵斗は走っていた。
息を切らして、夕焼けの中、ほのかに温かいアスファルトを蹴る。
そして向かった先は病院。
そこで、鍵斗は焦りを飲み込みこう言った。
「陽向さん!!」
そして陽向は、けろっとこう返す。
「お、来たね〜」
そう、別に陽向灯里が事故にあったわけではない。陽向灯里は水沢零と別れた後、あることを調べるために病院に来ていた。
そんな一足先に来ていた陽向は、案内も兼ねて鍵斗を待っていたのだ。
そして陽向は、病院を案内する。
鍵斗は言った。
「被害者本人に会って、状態を確かめるところまで頭が回っていなかったよ、流石だね」
「あー、まあ、零くんが調べた方がいいって言ったの」
「そうなの!? でも零くんいないけど」
鍵斗は驚きながら周囲を見た。陽向は気まずそうにこう返す。
「うん……まあね」
珍しくはぐらかしたなと気になった鍵斗だが、今はもっと気になるものがあった。
陽向は言う。
「ここ、今森病院にいる被害者は全六名のうち五名。一人目の被害者、暁幸代。二人目の被害者、東雲羅針。三人目の被害者、曙民莱。四人目はいなくて、五人目の被害者、芽忍心路。そして、ゼロ人目の被害者」
鍵斗はそれぞれを見て回った。
全員同じようにベッドに寝転んでおり、その姿は悲惨そのものであった。願いが消えたからなのか、虚ろな瞳を見せながら、よだれをポツポツと垂らしている姿。
生きる気力でもある生命力を感じられないその状態は、幸せとは程遠い状態であった。
情報として理解していても、現実を見るとこうも実感してしまうとは、鍵斗は改めて息を呑んだ。
そして、芽忍心路を見た瞬間、他の者たちとは違う、元気な姿との比較をしてしまい、胸を打たれる。
忍者という夢を捨てたような彼女。ベッド横に置かれた荷物置きに、ポツンとあった撒菱は、哀愁すら感じさせた。
彼女は他の者と同じような症状であり、他の者と同じようにアークが開いていないか一応確認してみる。
そして、事件が進展しないことに嫌気がさしながらも
どこか諦めたように「この子も閉じてる。『捕食』に何をされたんだ……」と言った。
刹那、彼女の体がぴくりと動く。そして、心電図モニターの波形が激しく乱れ始めた。
「なんだ!?」
「ああ、怖い、怖い! ああああああああ!!」
叫び始めた芽忍心路を見て、鍵斗たちは急いでナースコールを押した。
駆けつける看護師。彼は冷静に、「いつもはこうじゃないのに」と呟き、鍵斗たちが原因であると考えた看護師は鍵斗たちを病室から、追い出す。
心配しつつも、鍵斗たちはその部屋前を後にした。
そして、最後に向かったのは……。
「この子が……」
それは、陽向灯里が探し出した8/10に無気力になった、謎の生徒。
見た目は普通。だが、意識はあった他の者とは違い、この子は意識不明の重体である。
そこに理由を求めようとも、手の中に鍵はない。
鍵斗は悔しさを覚えながらも、こう言った。
「この子も他の被害者と同じなのかもな」
そして、そっと彼女に触れる。
それは、あらゆる事実を否定する、究極の一手。
これまでの推理が、流れが、想いが、
突然のように始まったこのイベントによって、崩壊した。
彼女の首元に触れた鍵斗の指がぴくりと止まる。
そう、それは、その理由は!!!
「あ、あ……アークが」
彼女は意識不明の女の子。動くことはおろか、食事も身の回りのことも、自力ではできない存在。
なのに、なのに、
彼女のアークは……。
「開いている?」
それは、捜査を定める明確な一手。
陽向灯里が数日前に言った言葉が鍵斗の脳裏をよぎる。
『考え方が間違っているから矛盾が生まれているだけで、これまでの歩みは無駄じゃないよ』
鍵斗の脳に刺激が走る。
これは、彼女の存在は!!
事件解決に、王手をかけた。
「なんで、なんだ??」
だが、その詳細は……まだわからない。




