第91話 からげんき
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
そんな僕は、零くんからの報告を受け取っていた。
「容疑者六名、全員が関与していたイジメ事件があった!?」
横に立っていた陽向さんの耳がぴくりと動いた。
零くん、そして零くんの横にいる穂火ちゃんは同時に頷く。
僕は彼らに「お手柄だよ! そうか、事件だもんね! やっぱり動機があるんだ」と言う。
ふと陽向さんに頼んでいた動機探しについて思い出し、僕は陽向さんを見た。
彼女の顔は陰になってよく見えなかったが、明るい声でこう言っていた。
「そっか、流石だね! じゃあこれからは詳しくそれを探っていくんだね」
零くんはこう返す。
「はい、そのつもりです。巳鶴から聞いた噂では、まだ詳しいイジメの状況はわかりませんから。これから聞き込み調査をして進めるつもりです」
陽向さんは「いいねいいね〜!」と返していた。
でもどこか寂しさを感じた僕は、こう付け加える。
「それじゃあ、陽向さんもそっちに合流してもらおうかな」
「お、いいの?」
陽向さんは軽い感じでそう言った。僕が「いいよ」と言うと「ありがとうツンツン!」とか言いながら僕の腕をツンツンし始めた。
奇行が戻ってきてくれて、なんだか安心する。
穂火ちゃんはそこへ「私はこれから図書室に行きます! いのちゃんと仲直りするプランを再び立てるんです!」と言ってきた。
相変わらずマイペースだな、と思いながらも、僕はそれを快諾する。
「わかった。僕はこのまま、他にも鍵が開いている人がいないかのチェックに移るよ。それじゃあ、零くん、陽向さん、そっちは任せたよ」
「任せろり!」
陽向さんは自信満々にそう言った。零くんは「はい」とうっすら喜んでいるのか微笑みながら言ってくれた。
窓から入り込んできた陽の光が僕たちを照らす。
どうやら未来は明るいようだ。
でも、陽向さんが立っている場所だけは陰で暗くなっていて、僕は彼女の表情が、うまく見えていなかったんだ。
□■□■□
空錠鍵斗たちと別れた陽向灯里と水沢零は、二人で廊下を歩いていた。
「きゃー! あのお二人が一緒に歩いてますわー!」
「陽向お姉様、どうやってレイナ様と仲良くなられたのですか!?」
「流石ですわー!!」
などと言われながら、陽向は「あははー」と困ったように笑う。
それもそのはず。陽向たちの目的はチヤホヤされることではなく、イジメについての真相解明であった。
陽向は零にこう訊く。
「改めて整理するけど、今イジメについてわかっているのは、六名がどのようにして関わっていたのか、だよね?」
「はい。『シロちゃん』『宮弐先生』『昂月さん』『忍者ちゃん』『巳鶴』『保健室の先生』……それぞれについてですが、
まず『シロちゃん』は、いじめられていた本人であるという情報がありました。
『宮弐先生』はよくその相談を受けていたらしいです。
『昂月さん』は『シロちゃん』と同じクラスで、傍観者としてクラスにいたらしく、
『忍者ちゃん』も同じくクラスメイトで、彼女はクラスで行われていたイジメを止めようとしたらしいのですが、それで暴力沙汰になり、三ヶ月の休学をしていたという情報がありました。
『巳鶴』はいじめっ子の一人と知り合いであったと言っていました。今は縁を切っているようです。
そして『保健室の先生』は、イジメを事件たらしめた、『シロちゃん』の負傷事件が起こった場所にいました。保健室で、『シロちゃん』が顔をナイフで切られたようです。
こんなところですかね」
陽向はうむむ、と言ったあと「じゃあ、重要度的には、『シロちゃん』『保健室の先生』『巳鶴』『忍者ちゃん』『宮弐先生』『昂月さん』になるのかな」と返す。
零は「そうですね」と淡々と返していた。
陽向は言う。
「でも、直接本人に聞くのは難しいかも。特に『忍者ちゃん』と『シロちゃん』。『忍者ちゃん』は無気力の被害者になっているっぽくて、『シロちゃん』は……ごめん、私たちがミスって嫌われてます」
「全然いいですよ。『巳鶴』もさっき言ったこと以上のことは言いたがらなかったですし、『宮弐先生』はこれから職員会議らしいですから」
「聞いたところによると、『昂月さん』もこれから特別補習で会えないらしい」
「じゃあ、『保健室の先生』だけですけど……」
「うん。『保健室の先生』は容疑者としては、一番不明瞭だからね。私も話したことないし、こればかりは焦ったら失敗しそう」
「そうですね、じゃあ地道な聞き込みです」
「わかった、そうしよう」
陽向は、
流石零くん、決断力あるな〜
と、笑顔を見せながら考えていた。
そして二人は聞き込みを始める。陽向の巧みなアイスブレイクと、レイナとしての零の魅力が重なり、その効率は最高潮に達していた。
陽向が場を作り、零が切り込む質問で情報を集める。
「つまり、イジメっ子は全員同じクラスだった?」
「は、はいですわ〜!」
目をハートにしてそう答える女生徒。
「その生徒の名前はわかりますか?」
「は、はい! 私も同じクラスでしたわっ!
イジメに加担していた生徒の名前は
暁幸代。東雲羅針。曙民莱。
ですわ〜!」
どばー! っと鼻血を流しながらそう答える女子生徒。
「暁幸代。東雲羅針。曙民莱。
この三名について何か知っているのか……しら?」
「は、はい! その三人なら、無気力症候群事件の被害者でありますぅぅう!!」
眼鏡姿の新聞委員の女生徒は興奮しながらそう答えた。
それを、零の後ろで手を組んで見ていた陽向は、
流石だね〜!
と笑顔で思っていた。
陽向の心が、ちくりと痛む。
もちろん、陽向も話しかけてはいる。なんなら、女の子が苦手な零のために、全ての聞き込みにおいて話しかけているのは陽向だ。
でも、場作りが終われば零の鋭い質問が飛び、情報を得ているこの状況。
陽向は、陽向は……
すごいな。
としか思えなかった。
本来なら自分がやるはずであった……
いや、やりたかった動機探しも、
零が持ってきた『イジメ』という情報によって大きく進み、その聞き込み調査も、支える側でしか活躍できない。
そんな状況に、陽向は自分でも気づかないうちに、小さな小さなダメージを受けていた。
アーロイドの質問がふと陽向の脳裏をよぎる。
「君はどうしてアークロックにいるんだ?」
陽向は、聞き込みで活躍する零を見ながら、スカートをギュッと、汗を拭くように握りしめた。
(ああ、なんでだろうな……)
アークも使えない、事件解決の役にも立たない。
陽向灯里は、自分の不必要さを見せつけられたような気がして、そっと息を呑んだ。
(アークロックにいる理由、わかんないや)
それでも、彼女は笑顔を無くさない。
動く太陽によって、陽向の足元に影が伸びた。




