第84話 六人目の容疑者
アークロックとプラネッツの戦いの裏で、もう一つの戦いが行われていた。
「にゃー、にゃにゃ、にゃー」
彼女の名前は、キュロ・マーキュリー。
先日の空錠鍵斗との激闘により、彼女の刀は折れている。戦闘中はそれを見せずとも、帰った後に素振りしたらパキッと折れてしまったのだ。
主君を戦いの終わりまで生かしたと言えば聞こえはいいが、キュロはまだ中学生であり幼いため、
なんで折れたの
と不満を募らせることしかしなかった。
そんな彼女は、悶々としながら中央公園近くを歩く。
来るなと陽真に言われたせいで、見にいくことすら憚られる。
それでも何かしたくて、散歩をしていた。
そんな時に、猫を見つける。
暗めの色の毛に、一際目立つ月のように美しい瞳。抱きしめるというよりは、見つめていたいような猫。
そう、その猫こそ
シャミィであった。
シャミィもまたアークロックを心配したのか付近を歩いており、偶然、
同じ理由で歩いていた一人と一匹は、出会ってしまった。
邂逅した二人は、真っ先に同じ感情を抱く。
キュロは目を輝かせて「猫ちゃんだー!」と喉の奥から嬉しそうな声を噛み締めるように出して、
対するシャミィは全身の毛を逆立たせていた。
「にゃー!!」
そう言って逃げるシャミィだが、キュロは追いかける。
そして猫じゃらしを取り出して、シャミィの気を引いたのだ。
その後はとんとん拍子に進んでいき、
シャミィはキュロに絆された。
「にゃー!」
「にゃー! にゃー!」
猫語を真似して話すキュロ。しかし、彼女が触れようとした途端、シャミィは
「しゃー!」
と威嚇する。
「がーん!」
それにショックを受けるキュロだが、それでも彼女は諦めない。
そう、裏で行われているバトルとは……
シャミィに触れるか、触れられないか
のバトルだった!!
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勝負はついた。結果として、僕と穂火ちゃんの勝ちで、陽向さんのは無効試合となり、
二勝一敗でアークロックの勝ちとなる。
そんなことを話したら、陽真はこう言った。
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
そんな僕は、陽真の言葉を聞く。
彼は仲間のライガーという男に肩を貸してもらっており、ぼろぼろな横顔を見せてくる。その光景は、自分の知らない親友の一面を見たようで、少し複雑な気分になった。
だがそんなことお構いなしで、情報は入ってくる。僕たちアークロックは横並びでそれを聞いて、身を引き締めた。
「オレたちの負けだ。正式にこの件から足を引く。だがこれだけは伝えておきたい。
美佐校に出現しているアークリオンは……
オレたちが関与していない、天然のアークリオンだ」
「……!」
「だからこそ、それには研究価値があった。だけど、約束を破るほど落ちぶれてはいない。あれはお前たちにやる。
そうだな、それともう一つ。
あの日、オレが美佐校に侵入した日。
カメラを一つ、忘れてきたんだ。場所は教えないがな。だが、あれは確かに……事件の様子を捉えていた」
「……!」
僕はその返答に驚きを隠せず陽真を見つめた。
それには確かに、なんで場所を教えてくれないんだ! という思いがあったが、そんな僕に陽真は、
そう簡単に教えてたまるかという悪戯心を感じさせる笑みを見せてきた。
そして、陽真たちプラネッツは背中を見せてこの場を去る。
走らずに、ゆっくりと歩いて。
そして僕たちアークロックの四人も目を合わせて、こう言った。
「とりあえず……帰ろうか」
「うん」
□■□■□
突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今、アークロックの基地でお話をしていました。
「冗談でしょ、食べ歩きしたの?」
「うん!」
「冗談でしょ、詠唱だけで勝ったの?」
「は、はい……」
鍵斗くんは私と穂火ちゃんに向けて、なんなんだコイツらと言わんばかりの視線を向けながらそう言った。
だけどガチ凹みしていた零くんに対しては「零くんは……仕方ないね」と言う。
そんな贔屓をしたせいで、零くんはさらに傷ついていた。
鍵斗くん、慰めが下手すぎるよ。
私はそんなことを考えながら、目の前の小さなバスケットに入ったお菓子の個包装を開けた。
サクッとしたクッキーは私のほっぺたを癒してくれた。
そんな簡易的ないつもの会議をしながら、話題はバトルから報酬へと変わる。
鍵斗くんはこう言った。
「でも正直、プラネッツとのバトルに勝って『無気力症候群事件』についての捜査が進むとは思わなかった」
「だね」
私は笑顔でそう返した。鍵斗くんは頷いてこう続ける。
「アークリオンがいることはなんとなく分かってたけど、それが明確にいると言われたこと。そして、プラネッツが関与していない天然のアークリオンなこと。これは桃木島の『支配のアークリオン』みたいなものだね」
私はそれに付け加えてこう言った。
「そして最後に」
「うん。謎のカメラだね」
「だね」
私たちは同時に笑みを見せる。鍵斗くんはこう言った。
「そのカメラは、陽真の言葉が真実なら……事件を映している」
「それが手に入れば、事件現場、事件の様子、犯人の雰囲気、色々なことがわかるね」
「だね。でもそのカメラの場所は教えられなかった」
私はその言葉に、ふと引っ掛かりを覚える。でもなんのことだかわからずに、この場はそっと流した。
穂火ちゃんはこう言う。
「でも、カメラを探すってなったら、結構大変ですね」
零くんはこうツッコミを入れる。
「普通に変人に思われそうだしな」
私は、おやおや? と思いながらその会話を聞いた。
そこへ、「にゃ〜」と鳴きながらシャミィが私の太ももの上に乗ってきた。
「おお! 久しぶりのシャミィ」
私はそう言いながら彼女を抱きしめる。シャミィは良いことがあったかのように私の太ももでくつろいでいた。
本当にシャミィの目は綺麗で、見ているだけで惚れ惚れする。
まるで、こちらを覗く月のよう。
「……」
まてよ?
なぜ……プラネッツはカメラを仕掛けた?
それは研究のため。
プラネッツにとって研究とは?
それは人類を幸せにするため。
でも、そのために今の幸せは蔑ろにするのがプラネッツ。
だからカメラを仕掛けるのは理解できるのだけど……でもさ、
美佐校側はそれを容認するかな?
しない、絶対しない。
そして、陽真さんは言っていた。オレがカメラを忘れてきたと。つまり入ったのは男?
なおさら美佐校の生徒はそれを受け付けないだろう。
そして……。
「……!」
刹那、脳裏をよぎったのは、零くんが持ってきた噂。
最近、謎の男性の目撃情報が上がっている。
これが陽真さんと仮定すると、美佐校がカメラなんてものを放っておくわけない。
じゃあカメラなんてとっくに取り除かれている?
「ねえ、みんな。私わかったかもしれない」
「……陽向さん?」
鍵斗くんは不思議そうにこちらを見る。私は、「私だけじゃ解けなさそうだから、話そう」と言って、話を続けた。
「カメラを探すのが今の最優先目的、だよね?」
「うん」
「じゃあカメラってどこにあるのかな?」
穂火ちゃんは首を傾げて「わからない?」と答えた。
私は首を横に振る。
「美佐校は厳重な警備があるから、好き勝手に仕掛けられるほど甘くない。そしてカメラなんて物が発見されたらまず取り除かれると思う」
私はそう言ったが、鍵斗くんはこう返してきた。
「でも、夜に忍び込んだのかも。それなら不審者だけど不審に思われることは見つからない限りない」
私は首を横に振って、零くんを見てこう言った。
「でも、噂で陽真さんの姿は見られていることがわかっている」
「……!!」
三人は同時に噂を思い出してハッとした。私はこう続ける。
「つまり、カメラは日中に、それもわからないように仕掛けられたんだ」
「可能なの? そんなこと」
私は首を横に振ってこう返した。
「無理だと思う。さっき穂火ちゃんと零くんが言っていたように、カメラを設置するのは不審だし恥ずかしいものだよ」
「それが日中で見られているなら、間違いなく警備員に捕まる」
「そうなる」
「じゃあカメラなんてなかった?」
零くんがそう言うと、鍵斗くんが「陽真が嘘をつくとは思えない」と返した。
なら、どういうことか。
私はこれまで集めた情報を使って、思考を回した。
正直言って、論理的思考は鍵斗くんの十八番だ。
でも、私は私で、人に寄り添う、心理的思考に長けているから。
なんとなく、違和感を覚えていたんだ。
刹那よぎるのは、一つの言葉。
あの日、特に気にも留めていなかったもの。
私は目の前にあるお菓子の山を見た。いや、正確には……それが入っているバスケットを。
『知らないわよ。でも、六日前とかに見た気がするわ。グラウンドで……
バスケットボールを』
なんであの時気づかなかったのだろう。
バスケットボールが……グラウンドにあるわけがない。
じゃあ? つまり?
「見られても問題ない男性は、学校側が把握している男。かつ、生徒が知らない男」
「……外部の職員?」
「多分、配達員。陽真さんは配達員に変装し、侵入して、あるものを落とした」
「それがカメラ。でも、カメラの形だとバレている。よっぽど極小のサイズなのかな?」
「ううん。その可能性もあると思うけど、私は思うの。
プラネッツは、そんな安易な手は使わない」
私の脳裏をよぎったのは、アーロイドとの会話。彼女たちは、平凡な手は使わない。
世界をひっくり返すような、奇想天外なチームなのだから。
「木を隠すなら森の中。
カメラを隠すなら、日常の中」
「……?」
「つまり、プラネッツが隠したカメラは……!!」
私はシャミィを見た。
君は、すでに答えを持ってきてくれていたんだね。
「バスケットボールだ!」
「……?」
「……??」
「?????」
鍵斗くんたちはフリーズして、頭の上にハテナを浮かべていた。だけど、あの謎のバスケットボールと推理がつながり、急いでバスケットボールを探し始めた。
なぜ、シャミィのような賢い猫がわざわざ持ってきたのか、なぜ、グラウンドにあったのか。
この謎は……発想の転換により解明する。
カメラじゃないとダメだったんじゃない。バスケットボールじゃないとダメだったんだ。
鍵斗くんがバスケットボールを持ってきて、勢いよく机に乗せる。
私たち四人はそのシャミィが持ってきてくれた六人目の容疑者であるバスケットボールをいじり回す。
そしてふと、鍵斗くんがなぞった黒い線が反応し、バスケットボールが変形した。
「……!!」
それはプロジェクターに変わり、ホワイトボードに映像を映した。
場所はグラウンド。時刻は夜。
そこへ、女の子が横たわっていた。
ノイズが走り、映像が乱れる。
だが確かに、素早い動きで何かが通った。
「鍵斗くん!!」
私の声に反応し、鍵斗くんは「任せて」と言って映像を戻す。そして、スローで再生し、その正体を目にすることができた。
まるでスーツを着ているような怪物で、胸にはナプキンを、顔には拘束具のような兜を、手には刀とトライデントを、背中には十字架のようなエネルギーを背負っており、周囲に鎖を漂わせている……アークリオン。
そいつは、ガブリと女の子から引きちぎった七色に光る何かを食べた。
ドンッドンッと心臓の音が高鳴るのが聞こえる。
これが、この事件の犯人。
いや、犯アークリオン。
そして映像は、平然と歩いていたある女生徒の足を映して、ぶつりと消えた。




