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アークロック  作者: 加鳥このえ
第三章 女子校潜入編
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第82話 問いの返事は

 空錠鍵斗(くうじょうけんと)封刄陽真(ふうじんようま)の戦いの裏で、ある一つの戦いは進行していた。


(れい)くん、やっぱり君は美しい。それゆえに悲しくなるわ。


 あなた一人が美貌を独占していることに」


「こっちだって、好きでこの顔してるわけじゃないんだ!」


 零は事前に鍵斗に開けてもらっておいたアークを使用して迎撃しようとするが、ユスティアが臆さず近づいてくることで、うまくアークを使用できずにいた。


 ユスティア・ヴィーナスは女性であり、水沢零(みずさわれい)の天敵である。


「アーロイドから聞いていたよりも弱いわね。遠慮しているのかしら?」


「……く!」


「お姉さんが全てを受け止めてあげるから……」


 ユスティアは色気のある投げキッスをして、こう言った。


「本気出しちゃいなさい」


「……!!」


 零は青ざめて鳥肌を立たせた。そのせいで足を止めてしまい、距離を詰められる。


 ユスティア・ヴィーナスは美人である。


 胸も尻も、背丈もデカく、髪はサラサラで、背筋も伸びている。良い匂いがするし、スタイルもほどほどに肉感的で男受けするものだ。


 まさに、悪いところが見つからない理想の女。


 しかもバーテンダーという手に職までつけており、自分の店を持つほどの実力を備えた才色兼備な女。


 そんな理想の女ゆえに……零はいつも以上に肝を冷やしていた。


 背中に嫌な汗が流れる。


「……!」


 香水の匂いがそっと香るほどの至近距離まで、ユスティアは潜り込んだ。


 零はそれを感知して、意識を飛ばしそうになる。


 でも、諦めたくない。


 そう思った零は、アークロックのみんなの顔を思い浮かべた。


 刹那、接続された神器が目を覚ます。


 青と白の線が零の腕を回り、『桃太郎の腕輪』をテレポートさせた。


「……!」


 ドクンッ、と心臓の鼓動が重なった。


 脳に浮かぶのは、男の後ろ姿。桃色の陣羽織(じんばおり)に身を包み、ポニーテールのように髪をまとめ、白い鉢巻をつけている者が、そっとこちらへ振り返ろうとした。


 同時に、ユスティアがキラキラ輝いていた『桃太郎の腕輪』を掴んでこんなことを言う。


「あら! 綺麗な腕輪ね!」


 それから逃げるように、『桃太郎の腕輪』はシュッ! とテレポートし、零の腕から姿を消した。


 そしてユスティアは零の腕を掴んで……それをジーっと眺めた零は、事実を理解したのか……。


「がは……!」


 女性耐性の無さを突かれ、泡を吹いて気絶した。


「え、え!?」


 ユスティアは困惑しながらも、倒れる零を抱きしめる。


 豊満な胸に顔を埋めた零は、悪夢を見た。


「あ、あらあら……」


 そしてユスティアは虚偽の世界を解除して、現実世界のベンチに座り、零をぎゅっと抱きしめた。


「……すごいわ、寝顔も美しいのね」


 水沢零VSユスティア・ヴィーナス、勝者! ユスティア・ヴィーナス!!!


 零は罰ゲームのように抱きしめられ続けて、耳元で「かっこいいわ〜」と(ささや)かれ続けた。


 □■□■□


 時は少し(さかのぼ)り、陽向灯里(ひなたあかり)はアーロイド・マーキュリーにこう伝えていた。


「食べ歩きしない?」


「な、なんだと?」


 アーロイドはもちろん混乱するが、陽向は自分のお腹をさすりながらこう言った。


「ほら、腹が減ってはなんとやらというやつですよ! 今日は日曜日だから、あっちで市場、やってるはずだよ!」


「……何を言っているんだ」


 当然のように困惑するアーロイド。


 しかしこれが強引なことは陽向も理解していた。


 だが、これ以外に手はない。


 陽向灯里はアークが使えない。理由は定かではないが、使えないのだ。


 ゆえに、正面戦闘では勝ち目はない。


 それを理解しているがゆえに、一つの()けとして食べ歩きを提案したのだ。


「それになによりさ……」


 でも本当の理由は他にあって、陽向はこう続けたんだ。


「わたし、プラネッツのこと知りたいの。私たち、なんでぶつかってるのかな?」


「……そういうことか」


 パチンっ! と指を鳴らしたアーロイド。周囲に浮かんでいた物体は力が抜けたように、ガシャンと落ちた。


 そしてアーロイドは静かに歩きながらこう言う。


「まったく君は不思議な人だ。空錠鍵斗(くうじょうけんと)は警戒対象。水沢零(みずさわれい)は天才。山田穂火(やまだほのか)は……まあ、あれだ。そして陽向灯里は、規格外のアークの才能を持つ危険物。そう考えていたのだが、


 どうやらペテン師と評価を改めた方がよさそうだな。


 何を企んでいる?」


 片方の目を細め、挑発的な笑みを浮かべるアーロイドは、陽向の近くでそう問う。


 陽向は、「ペテン師なんて壮大なもんじゃないよ。私はただ、お話したいだけ。気持ち悪いじゃん、理由を知らずにぶつかるなんて」と返す。


 その瞳には、嘘偽りないような、屈託のなさを思わせるものが宿っていた。


 アーロイドは目を細めて疑いながらも、「なんなんだ、君は」と言いながら、指を鳴らした。


 そしてこう続ける。


「まあいい。罠だろうが乗ってやろう。私も……君のことが知りたかったんだ」


 アーロイドは背中を見せて、虚偽の世界を崩す。そして、歩き始めた。陽向はニコッと笑って、その後をついていく。


 ここは商店街であり、様々な店が並んでいる。


 今から向かうのは市場であり、そこに行くまでにいろいろな店があったため、まず二人はドリンク店に行き、


 アーロイドはタピオカミルクティを、

 陽向はスパーキングオレンジスカッシュを、


 頼んだ。


 二人はプラスチック容器に入った飲み物をストローで飲みながら、会話する。


「ひとつ聞きたい、君は特別な過去でもあるのか?」


「ないよ。生まれてこの方凡人です。アークロックに入って、アークが強いことを知ったの」


「そうか。なら君の番だ。質問はあるか?」


 陽向は、炭酸ジュースである、スパーキングオレンジスカッシュを飲んで、くぅー! となりながらも、こう()いた。


「プラネッツは、何をする組織なの?」


「プラネッツの主な目的は人類の進化だ」


「人類の進化?」


「ああ。想像してみてくれ。アークは超常的な力だ。


 水沢零が武器を生み出すのだって、山田穂火が炎を操るのだって、普通に考えてみればすごいことだろ?」


「確かに」


「アークは願いから生まれる力。つまり、不幸をなくす可能性なのだ。


 歩けない者は歩けるようになり、不治の病は治り、空だって飛べる。


 私たちはそう考えているから、全人類のアークを開き、人類の進化を目的としているのだ」


 陽向は飲み終わったスパーキングオレンジスカッシュと、近くに落ちていたゴミと一緒に拾ってゴミ箱に入れながら、こう返した。


「凄く良いことに聞こえるけど、私は見てきたの。アークの暴走性、アークの危険性について」


「ああそうだな。だから我々は無差別にアークを開け、どのような条件で暴走するのか、どのような頻度で暴走するのか、あらゆるデータを取っている」


 アーロイドはアークをこっそり使い、空になったジュースのゴミを遠くのゴミ箱へ投げ入れた。


 そして次の店を指差してこう言う。


「あれは美味そうだ。今川焼き、どうだ?」


「おお、大判焼き」


「今川焼きだろ」


 そんな会話をして、二人はあんこの入った回転まんを買った。店の名前は、『回転まん』である。


 二人は紙袋に入ったそれを、肉まんを食べるように食べながら、再び話を始めた。


「なるほどね〜。安全に使えるように、アークを研究しているんだ」


「その通りだ」


「でもさ、無差別に、無許可にやるのは酷いんじゃないかな……」


「仕方ないだろ、志願制にしたら、現状に満足していない人しか集まらない。我々は、より幅広い人々を、それも、開けられたと認識していない人を対象に研究したいんだ」


「でもさ、アークの暴走って、簡単に日常を破壊しちゃうものじゃない?」


 ホクホクな回転まんを、「うまっうまっ」と食べながら陽向はそう言う。


 アーロイドは、「熱っ」と言いながら一口、また一口と食べる。


 陽向は、あんこを飲み込んだ後こう言った。


「私たちアークロックは、目の前の人を悲しませたくなくて、アークを閉じて回っている。たぶん、プラネッツが開けたアークを。


 私たちが来なければ、被害が出ていたことだってある」


 陽向は、穂火のアークリオン事件のことをふと思い出していた。


 あのまま放置していれば、学校は燃えて、負傷した生徒も現れていただろう。


 それを危惧してそう言ったのだが、アーロイドは予想外の返答を述べた。


「仕方のないことだな」


「……!?」


「我々だって、できるだけ犠牲は出したくない。だが、犠牲を出すことでデータが得られるなら話は別だ」


 陽向は食べ終わった回転まんのゴミを捨てながら、こう言った。


「鬼畜だねぇ……。人の命よりデータか……」


「そうだな。


 考えてもみろ。今、数百の犠牲を出すだけで、未来の数千万の人間がアークを使用でき、幸せを享受(きょうじゅ)できるようになるんだ。必要ある犠牲だろ」


「……うーん」


 陽向は頭を悩ませながら、ふと人混みを見た。


「あ、市場についたみたいだよ」


「だな、行くか」


 そう言って、陽向とアーロイドは市場へ向かう。


 この市場は日曜日だけ道路上で行われている市場で、様々な新鮮な食べ物が売られている。


 そんな場所で、陽向はこう言った。


「でもやっぱり、今ある幸せを崩してまでやることじゃない気がする。アークを安全に運用できる保証もないわけだし」


「……そういう考え方もあるな。


 ただ、私たちは信じているんだ、人の未来を、人の可能性を。


 やらなきゃ、いつまでも進まないままなんだからな」


「……そっか」


 陽向はそう返す。


 静まった空気を壊すように、市場でアーロイドが「あれ美味そうだぞ」と言うと、陽向もノリノリで「いいね〜!」と返し、二人はいも天を買って、食べ始めた。


 そんな中で、アーロイドはこう訊く。


「それよりも私は君に興味がある」


「わたしに?」


「ああ。君はどうしてアークロックにいるんだ? アークロックは、どういうチームなんだ?」


 陽向は、その質問に戸惑う。


「……私が、なんでアークロックにいるのか?」


 それは、陽向灯里が無意識に目を逸らしていた疑問。


 なぜ、陽向はアークロックにいるのか。


 それは、彼女自身にも言語化できない、複雑な感情。


 ふと口にしたいも天は、甘くて陽向を励ますような味だった。


 足を止めた二人の横を進むのは、多くの人々。


 まるで時が止まった二人を置いていくように、世界は流れていく。


 陽向はこの時初めて、返事を詰まらせた。

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