第81話 あの日の続き
なんとなくだけどさ、陽真とのバトルは殺し合いじゃなくて、あの日やっていた格闘ゲームの延長線上にあるようなバトルだなって思うんだ。
だからって手は抜かない。
オレは陽真に、止まって欲しいから。
「……!」
腕にまで熱を覚える。
メラメラと燃えるキーハートの刃を振りながら、オレは陽真の弾丸を切り裂いた。
熱により柔らかくなった弾丸は、易々と切ることができる。
陽真はそれを察したのか、スライド付近についていたダイヤルのようなものを回した。
先ほど陽真が言っていたことが真実なら、あれは威力と射程を調整するもの。
「……!」
って! まじか!
オレは焦ってキーハートを振って弾丸を切り裂いた。だが一歩遅れてしまい、破片が肩を掠める。
「……くっ!」
痛い、血が出た。でも、骨は切れていないし、破片も刺さっていない。
いや、そんなこと考えている場合じゃないぞ。
あのダイヤルを回した瞬間、弾速が上がった。
威力とは速度のことだったのか。いや、そんなことよりもなぜあれを最初から使わなかったかだ。
陽真はアークを使わない代わりに、アーク以外の全てを使うと宣言していた。舐めプじゃない。つまり、あえて使わない理由があったということ。
オレの勘違いじゃなければ、先ほどの弾丸は気持ち重力に引っ張られて下に落ちていた。
なるほど、つまり反比例。
威力ないし速度を上げるほど、空気抵抗やライフリングの影響によって射程距離は落ちる。逆に、射程を伸ばすほど弾丸に重さは加わり、速度は落ちるということか。
「……!」
わかったところで! 対応は厳しい!
オレはキーハートのガードの部分で弾丸を弾きながら、態勢を少し崩した。
弾丸が重い。
弾いているとそのうちキーハートを手放してしまいそうだ。
それに最も厄介なのは、同じ銃を撃つという見た目から、威力、射程が違う弾丸が放たれ、さらに種類の違う弾丸が放たれるところだ。
正直言って、読み切れない。
同じモーションから多岐に渡る攻撃を放つなよ、馬鹿野郎!
そんな悪態をつきたくなるほど、陽真は厄介だった。
でも、勝機はある。
親友だった時、何度も陽真と格闘ゲームで遊んだ。あの日々が教えてくれたんだ。
陽真とオレの戦闘思考は似通っているが、根本が違うと。
オレは受けるをメインに置いた、防御寄りの思考回路だが、
陽真は攻めるをメインに置いた、攻撃寄りの思考回路。
つまり、攻めている最中は絶好調だが、不意の防御展開には弱い。少なくとも、オレよりは。
だから見極めろ。攻撃を捌き続け、勝利へ繋がる微かな隙を。
ガチャン、と銃をリロードする音が聞こえた。
陽真は言う。
「オレが今日持ってきた弾丸は全て見せた。鍵斗は?」
「他に使える鍵はない」
「そうか、ならここからは……」
「ああ」
ここからは、全てが見えた上での、お互いの読み合いが勝敗を制する、思考バトル。
オレはキーハートをグッと握ってこう言った。
「正々堂々やろう」
「だな。ギアを上げるぞ、鍵斗」
「こい……!」
陽真の人工神器『イカロス』の銃口がオレを覗いた刹那、激しい戦いの火花は散る。
放たれたのは爆発弾。オレは咄嗟に切ろうとしていた手を止めて、回避しようとした。
なぜなら、爆発物を切れるほどオレは狂っていないからだ。
だがそれは読み通りだったのか、マガジンを切り替えた陽真は反射弾を放った。それは木に当たり、九十度曲がってオレめがけて突っ込んでくる。
しかし、対応可能。
オレは体を捻って、反射弾をキーハートで切断しながら爆発弾を避けた。
そのまま体勢を崩さずに、陽真を見つめて突き進む。
背後で爆発が起こった。オレは風圧に襲われながらも、アイススケートのジャンプのように回転して周囲に炎を散布する。
キーハートから飛び散ったその炎は、周囲に幾つもの赤い炎の壁を作った。
正直形は万別だし、これに目隠し以上の効果はない。
ただ、目隠しは今の陽真に最も効く技であった。
狙えなければ、お得意の射撃は無意味に終わる。
「……って、考えるよな」
陽真は無慈悲にそう言ったが、オレは重ねるようにこう呟く。
「と、読んでくるだろうな」
『イカロス』から放たれたのは、衝撃弾。それは空中で炸裂し、風圧のような衝撃が炎をかき消す。
「……なに!?」
だが、陽真がオレを目撃することはなかった。
オレの姿は、すでにそこにはいなかったのだから。
「……こっちか!!」
陽真は急いで斜め上を見た。
そのタイミングで、オレは陽真と目を合わせる。
そう、穂火ちゃんの炎は変幻自在であり、その炎を縄のように伸ばし、近くの石で作られたオブジェクトに繋げていた。
そして衝撃弾にあえて近づき、衝撃を受けたオレは吹き飛ぶ。
ただし、炎の縄によって引っ張られ、弧を描くように吹き飛んだ。
それにより、地面から上へ移動し、陽真へ近づくことを可能にした。
そう、あの炎の壁はこれらを勘付かせないための壁。
衝撃弾で炎の壁をかき消すと予想した、オレの勝ちだ。
「……!!」
ドゴンッと、痛みが走った。
「がはっ!!」
陽真を目の前にして、オレの視界はぐらっと歪む。陽真は静かにこう言った。
「流石だな、鍵斗。だが、想定内だ。
ここまで来ると予想して、オレは一つのトラップを設置していた」
オレは何かに当たり、吹き飛ばされ、石畳の上で転がった。
カンッ! と音を立てて落ちたのは、切断された弾。
あれは、まさか!!
「反射弾は、三度跳ね返る」
「……!!」
オレが斬って対応することを予測して、反射弾を放っていた!?
オレは周囲を見る。
この場にある障害物は少ない。
オブジェクトを使っていける場所は限られるというわけか。
てか……痛い。
『イカロス』の弾丸は貫通しない。だが、弱いわけではない。
トンカチで殴られるような衝撃が来るんだ。二、三発もくらったら、腕も動かなくなる。
オレはピクピク震える左手をキーハートの持ち手で叩き喝を入れる。
この読み合いは、オレが負けた。
オレが陽真を知っているように。陽真もオレを知っている。
既存の思考では勝てないということか。
陽真は銃をリロードした。正直言ってピンチ。
でも、まだ、終わっていない。
残りHPミリでも、諦めなければ勝機はある。
オレは石で作られたオブジェクトを引っこ抜いて、陽真に向かって投げた。
陽真はそれに向けて、弾を放つ。
オレは瞬時に右腕を動かして、石のオブジェクトを陽真から離した。
「なに!?」
もう、勝ち筋は一つしかない。
オレは石のオブジェクトから炎の縄を離しながら、目の前に近づいてくる弾丸を睨む。
陽真なら、丁寧に対応するはずだ。
確実に自分のやりたいことを押し付けるために、障害物は排除する。
それが、爆発弾の役割だろ!?
オレはキーハートを縦に力一杯振り、その弾を斬った。
それは斬られた衝撃で炸裂し、大きな爆発を起こす。
「鍵斗!?」
そんな声が聞こえた。だけどさ、陽真。
それは、油断だぞ!
オレは爆発に巻き込まれながらもキーハートを振った。
本来なら禁じ手なこの技。
使えば最後。次を考えないオレらしくない一撃。
でもそのくらいしないと勝てなさそうだから!!
オレは爆発の中からキーハートを振り、そして、刃を切り離して、回転させながら飛ばした。
それは爆発の炎を切り裂き、炎を纏いて突き進む。
「……!!」
陽真は咄嗟にガードした。それにより、『イカロス』に刃が当たり、『イカロス』は陽真の手から離れた。
全身焼けて激痛。
でもここで止まったら、オレが負ける。
オレは刃が無くなったキーハートの持ち手を力一杯投げて、陽真にぶつけた。
顔面に当たり怯む陽真。オレはその隙に近づいて、拳を作った。
「陽真ァァァァァアアアアアア!!!!!」
だが陽真は足を後方に引いて、倒れそうになる体を踏みとどまらせる。そしてオレに視線を向けて、拳を作った。
「鍵斗ォォォォォオオオオオオ!!!!!」
オレたちは至近距離で顔を合わせる。そして拳は交差し、お互いの頬を
バチゴオオオオオオオオォォォォォンッッッッ!!!
と、穿つ気迫で殴った。
拳がめり込み、お互いの動きが止まる。
全力を出した、本気のぶつかり合い。
その決着は……。
「……」
ふらっと、視界が揺れた。オレは倒れそうになる。
足の力が抜けて、意識すら飛びそうで、目の前の陽真すら目で追えなくなる。
だけど、最後に脳裏をよぎった陽向さんの顔が、どこか励ましてくれるように思えて……
グッと足を前に出すことができた。
ドサッと音がする。
オレは朧げな視界でそれを捉えた。
倒れたのは、封刄陽真。
オレに無防備な姿を見せて寝転んでいる彼を見て、オレの心は……ははっ、と乾いた笑いを浮かべる。
でも、オレも限界だ。
バタンと後ろに倒れたオレは、青い空を見る。
いつの間にか、虚偽の空間は割れており、陽真とオレは現実世界で寝転んでいた。
傍から見ればドローなこの試合。
でも、オレは、オレは……初めて陽真に勝てて、心の底から満足していたんだ。
青い空を進むのは白い雲。遠くで人の声も聞こえる。
でも、そんなの関係ないくらい、オレは……この戦いを楽しんでいたみたいだ。
横で起き上がる音を聞いて、オレも痛む体に鞭を入れて、起き上がる。
こちらに手を向けている陽真を見て、オレはその手を取った。
そして立ち上がり、こう言う。
「勝負は僕の勝ち」
「はいはい、最後のは読めなかったよ」
そんなことを言う陽真を見て、僕は笑みをこぼしてしまった。
もう、奢りの話なんてどうでも良くなるくらい、僕はこの結果に、満足した。
それはそうと、みんなは勝てたかな。
僕はふと、そう思った。




