第80話 相反する意思
アークロックとプラネッツの決戦は、どこか気の抜ける始まりだった。
だが、各々の覚悟は本気である。
ライガー・サターンは仁王立ちでこう言った。
彼の黒いサングラスがピカンッと光り、その余裕のある笑みは強者を思わせる。
「オレの名前はライガー・サターン」
「我が字は、山田穂火」
「穂火……お前の本気、魅せてみろ」
ライガーの期待に応えるように、穂火は口を開く。
彼女は得た。桃木島での戦いで、自身のオリジナルスタイルを。だが今は、その仁王立ちの覚悟に応じて、彼女は旧来のスタイルを披露する。
槍を地面に刺し、胸で誓うように詠唱を始めた。
穂火は目を閉じて、詠唱に集中する。
「炎の精霊よ、今こそ鬼の力に呼応し、我に力を与えたまえ。大地よ、空間よ、震えたまえ、呼び覚ましたまえ……!! イフリートノック! アンリミテッド! 我が字に共鳴し、今こそ力を。この永遠なる共鳴の……」
そして、時間は過ぎる。
ライガーは、汗をぽちゃんと落としながらも、その詠唱を聞いていた。
彼女の本気を見届けるために。
ライガー・サターン。彼はプラネッツで一番、真面目な男である。
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そして、オレたちの眼光は交差する。
自己紹介が遅れたな。オレの名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーでもある、封刄陽真の元親友だ。
そんなオレは今、キーハートを振って戦いの意思を示しながら、こう訊いた。
「陽真、止まってくれないんだな?」
陽真は銃のリロード音を鳴らしながら、こう返す。
「こっちのセリフだ。邪魔しないでくれ」
その言葉を聞いて、オレは静かに瞼を閉じる。
アークロックとプラネッツは相容れない存在だ。
アークを解放しようとするプラネッツと、それを閉じようとするアークロック。
だからこそ、歩み寄って対話したいのに、陽真はどうしても止まってくれない。
でも、それは相手からしたら傲慢な提案なのだろう。受け入れることなんてできない。
だから、ぶつかるしかないんだ。
オレはカッと瞼を上げて、陽真を見た。陽真は銃を構えて勢いよくこう叫ぶ。
「鍵斗ォ!!」
オレはそれに呼応して、こう返した。
「陽真ァ!!」
それは、戦いのゴングとなって、オレたちを動かした。
「……!!」
オレの武器は剣。対して陽真の武器は銃。
近づかないと勝てない。
しかも今回のキーハートの刃は今つけている一本しかない。本来なら三本ある刃だが、昨日の戦闘で使い果たしており、一日一本のペースで生成させるため、今日は無駄遣いはできない。
ゆえに、近寄る以外の選択肢はなかった。
「無駄のないいい動きだな」
陽真はそう言って、弾丸を放つ。だけどそれは昨日見た。
オレは昨日の戦いから復習しておいたおかげで、簡単に弾丸をキーハートで弾くことができた。
陽真の弾はかなり正直だ。
オレと陽真の思考が似ているからか、ここに撃ちたいという意思を感じとれる。
その陽真の勝利への思考を読み取って、弾き続けろ。
オレは近づきながら弾丸を弾き、対処が追いつかなくなれば体を捻り避ける。
たまにはアクロバティックな動きも混ぜて、回避する。
一つ最悪なのは、この中央公園は広く、今オレたちがいる場所は広場であり障害物がほとんどない空間だということ。
ぶっちゃけ防ぐものが無いのはしんどいけど、ここは我慢。
オレは弾丸を弾いて、陽真に肉薄した。
この距離なら、刃は当たる。
「……!!」
オレは陽真の身体に向けてキーハートを振った。
刹那、陽真は銃口を下に向けて弾丸を放ちこう言った。
「やるな、鍵斗」
「なに……!?」
そして放たれた弾丸は地面に当たり、カチ、という音と共に破裂した。
内部から溢れ出たのは強い衝撃波。
それによりオレと陽真は磁石のように弾かれて、強制的に距離を取らされた。
「……!」
オレが急いで体勢を整えている間に、陽真はこう言った。
「今のは、衝撃弾」
前回の戦闘で、陽真はサポートに徹していた。
ゆえに、陽真のアークは見えておらず、オレは警戒していたのだが……それは油断に該当していたようだ。
陽真は銃を自慢するように優しく見つめて、こう言った。
「鍵斗……オレは今日、アークを使わない。その代わり、それ以外は全て使う。
同じ土俵でやり合おうぜ、元親友」
「……舐めなくてもいいのに!」
オレはその言葉に触発されて、勢いよく前に駆け出した。これなら、目の前からしか弾丸は来ないはずだ。
オレはキーハートを構えて走る。
だが陽真は、オレを無視して他の方向に銃口を向けた。その後銃弾は放たれ、そして……!!
「がは……!!」
オレの背中に直撃する。
鈍い痛みが背中に走った。
陽真の弾丸は貫通しない。その代わり、トンカチで殴られたみたいな痛みがじわじわと広がる。
バンッと弾かれてオレは前に飛んだ。
陽真は言う。
「これは反射弾」
オレは受け身を取って、回転しながら立ち上がり、そのまま陽真へ近づいた。
しかし陽真はガチャリとリロードし、新たな弾丸をオレと陽真の間の地面に向けて放った。
石畳に刺さったそれは、ピ、ピ、ピ、と規則的にリズムを刻み赤く光る。
経験からなんとなくやばいと察したオレはその場を離れ、その効果を目にした。
弾丸は破裂し、赤い爆発を起こす。
「まじか……!」
陽真は銃をリロードし、こう言った。
「今のは、爆発弾。
この銃は、様々な弾丸を使用できる優れものでな。カートリッジを入れ替え、リロードすることで内部で特殊な液体を混ぜて、複数の弾丸の使用を可能にするんだ。
ちなみに……」
陽真は銃のスライドの部分を見つめながらこう続けた。
「威力、射程も手動で調整できる最新型だ」
オレは足を止めて、そんなことを言う陽真に対してこう返す。
「なんでそんなにペラペラと話すの?」
陽真は、銃を見つめてこう返す。
「自慢だよ。いいだろ? って言いたいんだ」
「……なにそれ」
オレがそう言うと、陽真はふと笑ってこう言ったんだ。
「この日のためにチューニングしてきた最新の……人工神器だからな」
「……神器!」
「鍵斗のキーハートとオレのイカロス、どっちの神器が優れているか、やり合おう」
いつもなら、オレはその誘いに乗らない。
オレは戦闘を楽しむタイプじゃないし、油断もしないタイプだ。
だけど、その瞬間だけは……久しぶりに街で会った親友にご飯を誘われたような気分になり、
オレは——その誘いにふと小さな笑みを溢してしまったんだ。
オレの凍りついた論理の心は、陽真の熱い想いでぽちゃんと溶ける。
「まったく……オレのキーハートが負けるわけないだろ」
オレはキーハートに穂火ちゃんのアーク、『炎のアーク』の鍵を挿した。
ふと、穂火ちゃんから聞かされた『鬼の槍』の能力が脳裏をよぎる。
あの神器には擬似的な『鍵使い』の力があるらしく、彼女は自分自身でアークを開閉できると言う。
だからこそオレは今、ここで心置きなく彼女の鍵を切ることができるんだ。
オレは、燃える刃をそっと構え、こう言った。
「負けたら奢りだ、陽真! 銃を構えろ!」
陽真は、挑戦的な笑みを浮かべて銃を構えた。そして、こう述べる。
「ありがとな、鍵斗。オレたちじゃ到底支払えないような店を……紹介してやる」
オレたちの間で、熱い覇気が衝突した。




