第79話 アークロックVSプラネッツ
事件解決までに残された期間、残り五日。
だが今日は時間よりも大切なことがあり、僕は朝の十時まで寝ていた。
連日の早起きが祟ったのか、九時に起きるつもりが少し遅れてしまった。
だが、約束の十二時集合には余裕で間に合いそうだ。
僕はそう安堵しながら、ゆっくりとジャムを塗った食パンを食べた。
焼いたおかげで、サクッと食感を味わう。焼いたパンはなぜこんなにも美味いのだろうか。
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
今日は陽真との約束の日。
もうすぐ……プラネッツとの決戦の時間がやってくる。
僕は食パンを食べて、温かいココアを飲んだのち、ふとこう思った。
それにしても、今日はゆっくりできていい。いつもは女装メイクのためにわざわざ早起きしているからな、今日は男のままでいいから楽だ。
その時間のゆとりは、食事へと。
腹ごしらえは大切だからね。
□■□■□
十一時四十分になった。
僕はみんなが集まるのを待ちながら、いつもの公園で、ベンチに座りながらスマホを触る。
SNSを見ていると、時間が過ぎるのはあっという間だ。
そんなところに、「鍵斗く〜ん!」という声が聞こえた。
ふと見てみると、こちらに近づいてくる陽向さんが視界に入った。
彼女は楽しそうに近づいてきて、僕の目の前まで来る。そして自信満々に武器を見せつけてきた。
それはピコピコハンマーであった。
「じゃじゃーん」
僕は呆れた感情を抱きながらも「い、いいね!」と肯定するしかなかった。
しかし陽向さんからしたらツッコミ待ちだったらしく「馬鹿だな〜、本気にしないでよ〜!」と笑いながら肩を優しく叩かれた。
この何気ないスキンシップは僕を変に緊張させるからやめてほしい。
そんなことをしていると穂火ちゃんと零くんも現れ、アークロックは正式に揃った。
みんなに僕はこう言う。
「それじゃあ、中央公園に行こうか。一時に待ち合わせしているんだ」
みんなは軽く「はーい!」と答える。陽向さんの声は大きいから、なんとなく良く聞こえた。
正直言って、四人になったから勝てるとは思えない。でも、空いた穴は僕が埋めよう。
いい感じに動いて勝つんだ。
多対一の対応は師匠から教わっている。
そんなことを考えながら、僕はみんなと中央公園へ向かった。
人々は騒々しく動く。ガヤガヤと話していた人の間を抜けて、僕たちは人通りの多い場所にある中央公園に着いた。
そして、涼しい風と共に雑音が消える。
まるで僕たちを待っていたかのように、空は紫色へと変わり、人は消える。
そう、これは、黒の鍵による世界の分離。
壊してもいい虚偽の世界の構築。
これは戦闘のスイッチでありそして、陽真たちプラネッツが仕掛けてきた合図。
よーいどんなんてこの世界にはない。あるのは、攻めと守り、奇襲と対応だ。
僕は……いやオレは冷静にこう言った。
「来るよ」
作戦がないわけじゃない、突拍子もないわけじゃない。だから、対応できる。
陽向さん、穂火ちゃんは僕の横に立ち、零くんはそんな陽向さんの横に立つ。
そして敵を待ち構えていると、まさかのたった一人が現れた。
彼は言う。
「よう、鍵斗」
「……陽真? 一人?」
陽向さんは僕のその言動で気づいたのか、こちらを一瞥する。
だがそれに反応する余裕はなく、僕に陽真はこう言った。
「鍵斗、今日は頼みがある。一対一をするぞ」
「……なんで?」
「オレが、そう願ったからだ」
ふわりと陽真が浮いたように見えた。だが瞬時にオレの方に突っ込んできていると悟り、オレはキーハートを取り出して陽真の蹴りを受け止める。
(重い……!!)
なんだ、この力!
蹴りが速いっていうか……! なんか、なんというか! 変な動きだった!
筋肉の動きが見えない。動くための予備動作すら認識できないような、初めて見る動きだった。
だがそれを解析する余裕はなく、オレは勢いを殺せずに後方に吹き飛んだ。
「鍵斗くん!」
陽向さんは焦ったようにそう叫んでいた。だがそんな陽向さんに声がかかる。
「悪いな、お前の相手は私だ」
「……!」
青いホースが空間を自由自在に動き、陽向さんを中心に回って、体を捕らえた。そしてそのまま、空中に飛んで陽向さんを連れ去っていく。
「陽向さん!」
オレはそう叫びながら、小さくなっていく陽向さんを目で追った。
ここは商店街の横にある公園。陽向さんは商店街の方へ連れて行かれていた。
今回のこの虚偽の世界は、はるかに広い。一人で作ったわけじゃないんだ。
やっぱり敵は複数いる。
オレは警戒を解かずに、近づいてきた陽真にこう言った。
「嵌めたのか!!」
「悪いな、どうしても一対一でやりたかった」
「……!!」
オレは仲間のことをひどく心配した。だが陽真の一言で我に帰る。
「何をそんなに気にしている。アークロックは、空錠鍵斗がいないと負けるようなチームなのか?」
「……!」
オレはその言葉に胸の奥を叩かれ、はは……と乾いた笑いを浮かべてしまった。
気づけば、穂火ちゃんと零くんもいない。
完全に、分断された。
「陽真、一つだけ聞かせて? 他も、一対一なの?」
陽真は頷いてこう答える。
「そうだ。鍵斗がエーヴェルに奥の手を使わせ、キュロの刀を乱戦の中で傷つけていたことにより二人は来られない。今日来ているのは、ユスティアとライガーにアーロイド、そしてオレだ。
せめてもの真摯さだよ、オレたちからの」
「そうか、ありがとう」
そうやって色々と教えてくれるのは、陽真から舐められている証拠なのだろう。
でも、助かった。
みんなも一対一なら、きっと、大丈夫だ。
「アークロックは連携のチームだ。でも、個人技だってやって魅せる。それをこの戦いで証明してやる」
「いいな、その意気だ。鍵斗、前のバトルの決着をつけるぞ」
陽真は銃を構える。オレはキーハートを構えた。
これより、壮大な戦いが始まる。
陽真とのぶつかり合いが……始まっ……。
「そういえば、今日は女の子の服じゃないんだな」
「……え?」
「いや、昨日ぶつかった時は女装してたから、趣味なのかと思って」
「……」
僕は、それは……そう、なんというかその、と、何も言えないんだけど言いたい、なんとも言えない表情を浮かべながら、
昨日は必死だったから自分が女装していたことすら忘れていたと反省し、こう答えた。
「いや、事情があるから!!」
「ああ、わかっている。オレは趣味は否定しない」
「ああもう! なんでこうなるかなぁ!!」
壮大な戦いの第一歩は、すってんころりんころころりんであった。
□■□■□
別の場所で、それぞれ別の戦闘が始まっていた。
離れた場所にあるもう一つの公園。上に伸びた一つの時計の前で、穂火は桃木島で得た力を呼ぶ。
「来い、ダークネスオーガ〜鬼の巫女と勝利の雄叫び〜『|詠唱幻舞鬼の槍《イグニッションファイナルエンドエターナルヘルインパクトランス》』」
空高くから、ぴかんっ! と輝き穂火の手の中に向かって飛来したのは『鬼の槍』。
凄まじい突風を巻き起こしながら、ガギンッ! と穂火の手に収まるその神器は、敵に威圧を与える。
穂火の前に立つ男は、サングラスにスキンヘッドの、土星担当の男。彼の名前はライガー・サターン。
ライガーは言った。
「『|詠唱幻舞鬼の槍《イグニッションファイナルエンドエターナルヘルインパクトランス》』か、強そうな武器じゃねえか!!」
「『詠唱幻舞鬼の槍』を舐めていると、火傷するよ?」
少しの間があり、ライガーは少し考えたあと、淡々とこう返した。
「名前……変わってねえか?」
サングラスの奥から、やけに真面目な視線が見える。
残念だが、山田穂火の名付けは完全なるノリであり、頭に浮かんだ言葉を並べているだけなのである。
二人の眼光は、交差した。
そして別の場所で、大きな城を背景に、美しい女がこう言った。
「あら、イケメンね」
「おい、冗談だろ?」
水沢零の前に現れたのは、金星担当の女。彼女はこう言った。
「私はユスティア・ヴィーナス。これからよろしくね、零くん」
その男の好奇心を撫でるような声色は、零の恐怖を引き立てる。
零は、覚悟を決めて敵を穿つ視線を向けた。拳に力が宿る。
そして……
陽向灯里は、近くの商店街までホースに連れ去られていた。
「あで!!」
そして強引にお尻から着地させられ、お尻に強い痛みが走る。
陽向は「いてて」と言いながら立ち上がった。そこへ、女が来る。
コンコンという足音と共に、白衣がなびいた。
陽向はその人物を知っている。戦った経験はなくても、敵の一人として見たことはあるから、陽向はその名前を呼んだ。
「アーロイド・マーキュリー」
「久しいな、陽向灯里」
水星担当、アーロイド・マーキュリーは、戦闘態勢に入ったように、周囲に武器を浮かせた。
これが彼女のアーク、念力のような力。
対する陽向は、アークを使えない。
絶体絶命のこの状況で、陽向は静かに相手を見つめた。
そう、これはまさしく、アークロックの壮大な戦いの始まり。
陽向に対し、アーロイドはこう言った!
戦いの火蓋が今、切られ……。
「さあ、行くぞ! 陽向灯里!!」
「……!!」
そして陽向は、こう返した。まるで、開いた火蓋をそっと閉めるように。
「た、タンマァッ!!」
そして陽向は、剽軽な表情でこう続けた。
「食べ歩きでもしない?」
それはアーロイドの予想の斜め上の回答だったようで、アーロイドは困惑しながらこう言った。
「……な、なんだと?」
そう!
壮大な戦いの火蓋は、壮大に切られることはなかった。
美味しそうな肉まんの匂いが、ふと香る。




