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アークロック  作者: 加鳥このえ
第三章 女子校潜入編
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第78話 魅惑の腕輪

 絵美(えみ)さんが帰った後、僕は師匠を見た。


 おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は空錠鍵斗(くうじょうけんと)。『鍵使い(キーユーザー)』である。


 そんな僕は皿洗いを終えて、師匠の横に座ってこう話す。


「そういえば、なんで今日は帰りが遅れたんですか?」


 師匠は疲れたようにソファに体を預けてこう言った。


(れい)にある物を渡しに行ったんだ」


「え!? まさかの零くんですか!?」


「ああ。だが何を渡したかは秘密だ。それは零が話したくなったら聞け」


「……は、はい」


 その珍しい言い方に僕は怯みながらも、師匠の服装を見てこう言った。今日はスーツ姿で、足はストッキングを履いている。


「……それと、ストッキング破れてますよ?」


「言うな、気にしてるんだから」


「気にしてるなら変えましょうよ……」


 師匠は変な人だ。靴下は左右で違う物を履いているし、私生活はだらしないし……でも、戦闘については信頼できるから、師匠にこう言われて僕は胸を借りた。


「で、なんだ? その顔は何かを聞きたがっている顔だ」


 僕は微笑んでこう言う。


「実は今日プラネッツとバトルして……それで、コテンパンにされたから、アドバイスが欲しいんです」


「そうか、久しぶりだな、アドバイスするのは」


 はははっ、と笑いながらそう言う師匠からは、昔の面影を感じさせた。僕はそれに感謝しながら、今日のバトルについて話す。


 それはそうとして、零くんに渡したものってなんなのだろうか。


 □■□■□


 一時間前。


 水沢零(みずさわれい)の元にシーラが現れた。


「……シーラさん、何用ですか?」


 アークロックの基地から帰っていた零に声をかけたシーラは、零にこう伝えた。


「わざわざ呼び止めてすまないな。君に渡したいものがある」


「……そうですか」


 あまり二人っきりで話したことのない零とシーラだからこそ、変な空気が流れるが、シーラは仕事のようにこう続けた。


「検査の結果、君には適正があることがわかった。


 いや、言い方を変えよう。君の強力なアークに適合できる『ある物』がたまたま手に入った」


「物……?」


山田穂火(やまだほのか)が手にしたものさ」


 そう言って懐から取り出したのは、銀色に青い装飾が施された腕輪。それは、零が前に見たことのある物。


 いや、そんな簡単に言い表せる物じゃない。


 桃木島(ももぎじま)での元凶とも言えるもの。目の前で空錠鍵斗(くうじょうけんと)がその力を閉じたからこそ、桃木島に平和が訪れたほどの、厄ネタ。


 そう、それは……。


「桃太郎の……腕輪!?」


 零は身構える。だがシーラは指先でそれを(もてあそ)びながらこう言った。


「安心しろ、鍵斗の『類い稀なる閉じる才能』のおかげで力は封じられている」


「でも、そんな簡単に扱ったら……」


「そうだな、その通りかもしれない」


 シーラは言い方を変えて、こう言い始めた。


「だが今からもっと簡単に扱う」


「……!?」


 シーラは『桃太郎の腕輪』を投げた。零はその行動に驚き、すぐにそれを空中で掴む。


 唖然(あぜん)とする零に、シーラはこう言った。


「桃木島で穂火が手に入れたのは、神器『鬼の槍』。『桃太郎の腕輪』は完全なる偶然だが、たまたま、零、君のアークに適応できる『神器』として利用できるようになった」


「……まさか」


 苛立ちを覚えそうな表情を浮かべながら、零はシーラを見る。シーラはぶっきらぼうにこう答えた。


「それは零、君に預ける。それを返すも使うも君次第だ。ただ、忘れるな。


 それは君に力を与えてくれる。


 祝福だろうと、呪いだろうとな」


「……そうですか」


 その重すぎるプレッシャーを受け取った零は、無意識に腹を立てていた。


 あんなに頑張って閉じた物を、簡単に解くような行為だからだ。


 だがシーラは、「悪いが今日は酢豚なんだ。帰らせてもらうよ」と言ってこの場を去った。


 この、コミュニケーション能力の低い二人は、お互い自分が話したいことだけ話して会話を終わらせる。


 零は何が何だか飲み込めないまま、『桃太郎の腕輪』を貰って帰った。


 そして家に帰り、自室の布団の上にダイブする。


 ししおどしの音が響く庭があり、木材と畳でできたまさに和風邸宅な彼の家は、ささくれ一つない豪邸。


 だが、今日だけは、もっと洋風で、プライベートのある家が良かったと零は思う。


 その理由は、彼が寝転びながら持ち上げて見た『桃太郎の腕輪』によるもの。


 零は少し考えたあと、よし、と起き上がって、座布団の上に座って腕輪を付けた。


(正直言って、かなり怖い)


 零はそう思いながら、自身の腕につけた『桃太郎の腕輪』を見た。


 こういうのは度胸が大切なのだと、アークロックに入ってから学んだのだ。


 零はそう思いながら、腕輪を見つめる。


 だが何も起こらず、拍子抜けな気分を味わった。


「……何もないのか?」


 そう言いながら触れていると、ふと腕輪の一部が動くことに気づく。


「なんだ……?」


 それは、好奇心であった。


 零は、そっとそれを横にスライドする。


 すると、ガチャンッという音と共に、周囲の空気を吸い込み始め、腕輪はドクンッと脈打った。


「嘘だろ!?」


 青い装飾の部分は光を帯び、まるで生き返ったように腕輪全体が生き生きとしだした。


 零はまずいと思いながらも、動かせていたスライドを戻そうとする。だがその部分は、巨岩の如く動かなくなっていた。


 彼は焦る。


 何よりも彼が恐れていたのは、空錠鍵斗からの失望であったから。


 だがそんな感情にリンクしたのか、


 声が聞こえた。


「ザマァねえな!」


「人ってのは、裏切るもんなんだぜ?」


「お前って、馬鹿正直だよな?」


 そんな、怒りを覚える、人を嘲笑うかのような声。その後に続いたのは、激しいスクリーム。


 慟哭(どうこく)であった。


「うがっ、ああああああああああ!!!」


 脳がかち割れるような痛みが走り、零は叫ぶ。


「痛い、苦しい!? なんだ、この気持ち!!」


 そして、その痛みを分かち合うように声が聞こえた。


「オレを解放しろ。解放しろ!! 水沢零!!」


「うるさい!!」


 零の大きな叫び声により、その声はかき消される。


 凄まじい突風が吹き荒れ、零の部屋は竜巻が通ったように荒れた。


 その声に驚いたのか、弟である(もも)が部屋を覗いてこう言った。


「大丈夫? お兄ちゃん……」


 その可憐で美しい心配の表情は、零を現実へと戻した。


「ああ、大丈夫だ。ゴキブリがいてな」


「そうなんだ……」


 百はそう言って部屋の(ふすま)を閉じる。


 零は、腕から『桃太郎の腕輪』を勢いよく外して捨てるように投げた。ガンッと壁にぶつかった腕輪は、ただの物のようにカランコロンと転がる。


 零は、頭に残る気味が悪い笑い声に嫌気がさしながらも、どこか腕輪を見捨てられずにいた。


 零は腕輪を拾い直して、そっとちゃぶ台の上に置く。


(ほんの少しだけ、心の中にあるアークの可能性に触れた気がした。


 桃太郎の腕輪を使えば確かに強くなりそうという実感を得る。


 だけどそれは、正しい成長なのかはわからない)


 零は悩みながらも、一度開いてしまった『桃太郎の腕輪』について鍵斗先輩にバレたくない一心で、腕輪をハンカチで隠した。


(でも、なんでかな……僕はその腕輪に、囚われてしまったみたいに、意識を向けてしまうんだ。)


 そんなことを思いながら、零は目を閉じて布団の上で横になる。


 今日は星が見えない夜だ。


 暗い雲が夜空を隠す。


 零と腕輪は、すでに接続された。

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