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アークロック  作者: 加鳥このえ
第三章 女子校潜入編
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第77話 思い出の奥底に

 みんなが帰った後のアークロックの基地はどこか静かで、足音が嫌に目立つため歩くのすら億劫(おっくう)に感じた。


 僕は師匠の帰りを待ちながら、アークロックの基地に置かれているソファに座る。


 思い返せば、少し前までここには僕と師匠しかいなかった。


 なのに今ではやけに賑やかで、その事実に気づいた僕は笑みを浮かべてしまう。


 正直言って、悪くない。


 僕と師匠がお店を回って買ったこのソファや、テレビ、机、椅子……そんな必需品に加えて、


 みんなが来てからは可愛いぬいぐるみや、アロマ、誰かの忘れ物の傘、色々なものが増えていた。


 いつの間にかスピーカーまで部屋の端っこに置かれており、(れい)くんが持ってきたのかな、などと思う始末。


 別にこれに関しては怒ってはいない。ここはみんなの空間だと思っているからだ。


 でも少しだけ昔を懐かしく思ったり、あの静かだった空間が恋しくなる時はある。


 しかし、今のこの静かな変な気分を誘発する空間は、どこか落ち着かないため、それは思い出の補正であるのだろう。


 僕は今の状態に満足している。


 だけどさ、なぜかモヤモヤするんだ。


 一体僕は何にモヤモヤしているんだろう、そんなことを考えていると、ふと脳裏をよぎったのは陽真(ようま)の顔。


 そうか、僕は陽真のことを気にしているんだ。


 陽真とは短い付き合いだったけど、彼と過ごした時間は濃いものだったと思える。


 正直、友達という区分なら一番楽しいとさえ思えた。


 でも、陽真はプラネッツだった。


 なんで僕は……陽真とバトルしているのだろうか。


 そんなことに悩んでいると、頬に冷たいジュースを当てられた。


「ひぃ! 寒い!」


「ごめんごめん、悩んでそうだったからさ」


「……」


 僕は背後にいる人物を体を捻って見る。


 そこにいたのは、大学生の絵美(えみ)さんだった。


 彼女はここ、アークロックの基地の表の姿『鍵屋ガッチャン』の唯一の店員である。


 僕が幼い頃からここで働いていて、よく遊んでくれていたのを思い出す。


 一つ気になっているのは、本人は大学生と言い続けているが、僕が十二歳の時に二十代とか言っていたことだ。


 普通なら大学は卒業してそうなのにずっと大学生と言っている。


 あんまり踏み込んでいい領域ではない気がするため()くことはできないけど、少し気になっていた。


 そんな絵美さんは、活発で笑顔が似合う人だ。なんでもポジティブに受け取ってしまうような、陽向(ひなた)さんみたいな人。


 陽向さんと違う点は、配慮ができないこと。


 中学生の頃、絵美さんに何度も「色気付いた? 彼女できた?」と質問されていたことを思い出した。


 陽向さんに会って、アークロックでみんなと活動するようになって、あまり話してなかったからか、絵美さんと話すのは少しワクワクした。


 だから僕はこう言う。


「悩みは少し」


 この人は配慮はできないけど、信頼はできる。


 昔から、師匠に言えないことは絵美さんに相談していた。ご飯の作り方とか、掃除の仕方とか、女の子との話し方とか、色々教わっている。


 僕の答えに、絵美さんは僕の横に座りこう言った。


「おうおう、聞いてやろう若者よ」


 僕はこの、呆れるほどに軽いノリに救われながらも、こう返した。


「親友がいたんです。でもその親友はプラネッツで……戦わないといけなくなった」


「陽真くんのことだね」


 僕はその発言に驚きながらも、師匠経由で知ったのかと納得し、冷静にこう返す。


「なんで知ってるんですか……」


 絵美さんは「まあね!」と言いながらも、こう語ってくれた。


「でもまあ、大変だよね! 親友とバトルしないといけないなんて。……本当に」


 そう語る彼女の顔は、どこか他人事ではない、深い事情を思わせる。


 思えば僕は絵美のことをよく知らない。あの師匠となぜ関係を持てているのか。なぜ『鍵屋ガッチャン』を任されているのか。何も知らない。


 でも語りたがらないため()こうとはしない。


 だから僕はただ話を聞いた。


「でもね、甘い考えかも知れないけど、話せばわかるよ。一度仲良くなったんだからさ」


「……絵美さん」


「それにさ……君はアークロックのリーダーなんだから。やって()せてよ、鍵斗(けんと)くん」


 その答えのない期待に、僕は励まされる。


「ありがとうございます」


 そう答えた僕の心はふわっと軽くなった気がした。


 そんな僕の横で、絵美さんはこんなことを言う。


「それでさ、今日のご飯は酢豚なんでしょ? 私疲れちゃってさ、おねがい! 食卓ご一緒してもいい?」


 手を合わせて、片目を閉じて、頼み込んでくる彼女。


「それが狙いだったんですか!?」


 僕はそう驚きながらも、なんだか久しぶりに家族が揃ったような嬉しさを覚えて、「まあ、いいですよ」と答えてしまった。


 その後はしばらく絵美さんと話して、師匠のただいまを合図に二階に行って、三人で食卓を囲んだ。


 なんだか楽しくなる気分だったけど、明日の決戦を考えると気が重くなる。


 だが、僕は陽真くんを止めたいんだ。


 こんなところで負けるわけにはいかない。


 そう思いながら、シンクに溜まった皿を見て、絶妙に絶望した。


 料理をするのは楽しいけど、片付けは面倒だよな。


 そう思いながら、僕は皿洗いを始める。


 ふと見つめたリビングでは、絵美さんと師匠が疲れたのか着替えもせずに寝ている姿が見えた。


 二人は肩を合わせて寝ており、その関係は僕に興味を与える。


 一体二人はどんな関係なのだろうか。


 師匠は僕と出会う以前を語ってくれないし、なんだか僕の周りの大人は秘密だらけだと思った。


 そんなことを考えていると、ふと皿が手から滑り落ちた。


 マズいと思い空中で掴んだが、刹那として心臓にズキンッと痛みが走る。


 だがその痛みはすぐに引いて、僕は一瞬の不安と辛い恐怖を覚えた。だがすぐに、横に置いていたスマホが鳴って、そこに書いてある『明日ってガチバトルですか?』という穂火ちゃんからのメッセージに気を取られて、笑みが溢れてしまう。


 僕は『ガチだよ』と返信して、皿洗いを続けた。


 そんな感じで、今日も終わる。夏休みは早くも……残り五日。


 最後の夏が、花火みたいにピカッと光った。

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