第76話 事件の形は何角形?
「「五人目が……いた??」」
僕と陽向さんは同時にそう言った。
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
そんなことはさておいて、今はもっと確かめなければならないことがある。
「それに、8/10ってどういうこと?」
僕がそう訊くと、陽向さんは頷いてこう語る。
「今日ね、聞き込み調査していた時、偶然教えてもらえたんだけど……どうやら事件が起こったと思われていた8/17、より7日前の8/10で似たような被害者がいたらしいの。被害者は美佐校の生徒らしいよ」
「……ちょっと待って、じゃあ前提が変わるよ」
僕は顎に指を置いて、思考を回す。
これまでの容疑者リストだって、8/17を起点として炙り出してきた。もし8/10が事件が起こった日、いや、もしそれより前なら、前提が覆ってしまう。
僕は不安になりながらも、こう訊いた。
「ちなみに、その人は今どうしてるの?」
「今は病院に入院していて、意識不明らしいよ」
「意識不明?」
願いが奪われた者は廃人になるはずだが、8/10の被害者らしき人は意識不明だと言う。
これは、また何か別の事件が絡んでいるのか?
陽向さんはこう続けた。
「っていうのを、雑談中に美佐校の生徒に伝えられて、ええ!? ってなったの。そういえば、似たようなことが8/10にもあったよ、とか言われてビックリ仰天案件だよ」
「それはそうだよね。……だって、8/10となれば、もし一日おきの法則が間違ってなければ、8/12、8/14、8/16……そして8/18の被害があったはずになる。でも現実には見つかっていなくて、8/18に至っては法則通りなら8/17と8/19が被害が出る日で、ありえない日だ」
僕と陽向さんは、同時に零くんと穂火ちゃんを見た。
二人もまた、今まで調べていたことが間違っていたかもしれないという恐怖に襲われていた表情をしていた。
そんな中、陽向さんがこんなことを言う。
「そうだ、鍵斗くんの方の被害者はどんな感じなの?」
僕は、そうだった、と思いながらこう返す。
「あ、伝えてなかったね。
僕の方もこれまでの前提を崩す話で、
見つからなかった8/23の被害者が発見されたんだ。問題は、その人が美佐校と何の関係も無い会社員だったこと」
「……!!」
そう、これで気づいたのか、穂火ちゃん以外のみんなは真剣な目つきで僕を見た。
僕はそれに返すように、こう述べる。
「この会議の最初に伝えた、ほぼ確定していると踏んでいた情報。
1.一日おきにこの事件は起きているということ。
2.被害者は全て美佐校の生徒であるということ。
3.事件は朝発覚するため夜に犯行が行われているということ。
4.事件が起きた日、8/17、8/19、8/21の三つのうち、初めて起こった事件の日の8/17の夜に、犯行現場と思われる美佐校に残っていた生徒および教師が六名いたこと。これが容疑者の六名となる。
この四つの前提が、ほぼ全て崩れた。
一日おきで無い可能性が生まれたし、被害者は全て美佐校の生徒ではなくなり、事件が起きた最初の日を目安に容疑者を絞ったため、信用は薄れた。
夜に行われていることはまだ否定できる証拠がないため、これは残せるが、決定的な証拠がないのも事実。
つまり何が言いたいのかというと——全て振り出しに戻ったというわけだ」
「……でもさ」
この絶望の空気を、変える声がする。その声の主は陽向さん。
彼女はこう言った。
「情報は間違っていないよね? 考え方が間違っているから矛盾が生まれているだけで、これまでの歩みは無駄じゃないよ」
僕は頷き、その意見に賛同する。陽向さんの声を聞いた零くんと穂火ちゃんも、元気を取り戻していた。
「そうだね、その通りだ。何か歯車がズレていただけなのかもしれない。この状況は、何か大きなヒントが得られれば、一気に事件を解けるチャンスかもしれないんだ。
だからみんな、頑張ろう」
「うん!」
「「はい!」」
陽向さん、零くん、穂火ちゃんはそう答えてくれた。だから僕は、言うのを躊躇っていたことをスラッと言えたのだ。
「それと、明日の13時にプラネッツとの決戦がある! みんな頑張ろうね!」
「おー!」
「「はい!」」
三人は返事をしたのち、冷静になったのか僕を同時に見つめて、こう続けた。
「「「は、はあー!?!?」」」
それもそのはず、この反応は予想できた。
あの時のテンションで勝手に約束したが、よくよく考えれば酷な話だ。
ミステリーを追っている最中なのに、関係ないプラネッツとのバトルまでやらされるなんて。
そんなことを考えているのがバレたのか、陽向さんはこう返してくれた。
「でも……鍵斗くんが一人で抱え込まなかっただけ上出来か。
ねえ、鍵斗くん。
今日、何があったの?」
その優しい笑みを浮かべる陽向さんは、どこか母のような、圧倒的な包容力を思わせる。
僕は静かに、今日あったことを語った。
するとみんな一斉に驚き、こんなことを言う。
「1対5!?」
「しかも退けた!?」
「生きててよかったです」
みんなそれぞれの感想を述べているが、どこか褒められているみたいで少し嬉しかった。でも、陽向さんからしたらそれはダメだったらしく、「そんなことがあったんなら早く言ってよー! 心配するじゃん!」とプンスカ怒りながら言われた。
僕は反省しつつも、この唐突な決戦にも『参加する』と言ってくれるであろう仲間がいてくれることに感謝しつつ、こう訊いた。
「それで、来てくれるよね?」
みんなは同時に頷いて、それぞれこう言う。
「おうよ!」
「はい!」
「当たり前です」
僕はそれに深々とお辞儀して、その後にみんなの顔を見つめた。
やけにやる気を感じる顔ぶれだ。
事件の前提がひっくり返されて、ほぼ白紙に戻ったし……プラネッツとの決戦も控えているし……大変なことばかりだけど、それでもアークロックでなら、何とかなる気がした。
「それじゃあみんな、明日は英気を養うために、12時に公園に集合だ。各々、バトルの準備をしておくように!」
「あいあいさー!」
陽向さんの軽快な声が響く。
それは夜空へと響き、そして……僕たちの耳を癒してくれた。
□■□■□
今日は、8/25。
果たして、26日へと移り変わろうとしているこの頃、新たな犠牲者は現れていたのだろうか。
それは、今のアークロックでは、知り得ない。
だが、法則は崩壊していなかった。
同じ夜空の下で、空を見上げている者がいる。
「……」
その虚ろな瞳は、願いを覚えないもの。あたり一面に捨てられた忍者の道具は、興味関心を失ったことを思わせる。
少女はただ、空を見つめた。
ピカピカと光る星は黒い夜空を照らし、美しい宝石のように映る。
だが、その美しさは脳まで届かない。
その空っぽな心を、脳を埋め尽くすのは、トラウマ。
脳裏に焼きついたあるものを……恐れながら、少女は叫んだ。
「ああッ!」
その者の名前は、芽忍心路。またの名を……『忍者ちゃん』であった。




