第75話 『無気力症候群事件』議事録②
ミステリーというものは突然で、まるで仕組まれたかのような運命が、とびっきりの情報を運んでくることがある。
でもこの時の私は……その意味がよく分かってなかったんだ。
風に乗って聞こえてきた声。
「あーんもう! 私のボール知らない!?」
「知らないわよ。でも、六日前とかに見た気がするわ。グラウンドで……
バスケットボールを」
私の名前は陽向灯里。私は廊下を歩く足を止めて、ふと声の聞こえる方を向いた。
でも彼女たちへの興味は、横にいた穂火ちゃんに消される。
「いましたよ、陽向先輩。シロちゃんさんです」
「お、ほんとだ!」
私は、捜査のために視線を変える。
そして……活動を再開した。
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「……とまあこんなふうに、みんな色々あったと思うけど、とりあえず今日のまとめに移ろう」
僕はみんなの前にホワイトボードをガラガラと持って行ってから、そう言う。
すると陽向さんがこう言った。
「唐突だと思いまーす!」
僕は、確かに、と思いながら顎に指を当てて、こう述べた。
「じゃあ改めて仕切ろうか。
これより、『無気力症候群事件』についての今日のフィードバックを行う。
みんな、各自で集めた情報をここで披露して、情報共有を行おう。
そして、フィードバックをしつつ、次の捜査に繋げるんだ」
「はーい!」
陽向さんを筆頭とした溌剌な声が聞こえる。
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
プラネッツとの死闘を終えた僕は、「疲れた……」と思いながらも学外の事件について捜査を続けた。しかし特に新たな収穫もなく夕方になり、今こうして昨日と同じように会議を始めている。
そんな僕は、昨日までのまとめを話した。
「今わかっていることを改めてまとめるね。
まず、美佐校で『無気力症候群事件』が起こっている。これは、願いがなくなったように無気力になった人が突然現れる事件だ。
これについてわかっていることは大きく分けて四つ。
一つ目は、一日おきにこの事件は起きているということ。
二つ目は、被害者は全て美佐校の生徒であるということ。
三つ目は、事件は朝発覚するため夜に犯行が行われているということ。
四つ目は、事件が起きた日、8/17、8/19、8/21の三つのうち、初めて起こった事件の日の8/17の夜に、犯行現場と思われる美佐校に残っていた生徒および教師が六名いたこと。これが容疑者の六名となる。
そして見逃せないのが、近い時間に、アークリオンの反応があったのに、なぜか消えたという別の事件が起きていること。
僕たちはこれに関連性があると考えている」
この僕の簡潔かつわかりやすい説明に、三人とも「おー」と見直したかのような拍手を向けてくれる。
ふふふ、昨日寝る前にカンペを作ってきて良かった。みんなに見えない、みんなの背後にある壁に密かに貼っていた紙を、僕は字がちっちゃいと思いながら目を細めて見つめる。
そんなことは置いておいて、穂火ちゃんが手を挙げてこう言ってくれた。
「空錠先輩、今日は私から話させてくれませんか? 昨日活躍できなかった分、今日は発言したいです」
僕は頷いて、こう言った。
「ダークネス要素は抜いて語ってね。言語学者はここにいない」
「……ッ! は、はい……!」
何故か不服そうな表情で、今にも「くっ! 殺せ!」と言わんばかりな穂火ちゃんはこう続けた。
「今日わかったことは色々ありますけど、とりあえず陽向先輩と一緒に捜査して分かった容疑者について私からは語ります」
「うん」
「容疑者は六名。うち一名はバスケットボールなどというふざけたダークネ……」
僕の穏やかな視線と、零くんのおい! と睨むような視線に襲われ、穂火ちゃんは「おっと……」となる。
しかし気を取り直してこう続けた。
「ごほん! バスケットボールはふざけているので除外して……そして疾坐馬巳鶴に関しては零に任せているので省いて、残りの四人について丁寧に語りますね。
まず一番怪しい宮弐先生について。彼女は8/17の午前1時に目撃情報があるにも関わらず、嘘をついて、私はいなかった、と答えました。その答えの裏には何か真相が眠っている気がします。
そして二人目、シロちゃんについて。彼女は狂気的な綺麗好きで、本人は8/17の夜は部室の掃除をしていたと言っており、その際に宮弐先生を見たと仰っていました。しかし、8/17限定で夜の駅で売られていたシールを持っており、そこで矛盾が生じています。彼女もまた怪しい一人です。
そして三人目、昂月さんについて。彼女はクラスで目立たない生徒で、あまり核心をつけるような発言は周りからは引き出せませんでした。ですが、本人が夜遅くまで学校に残っていた理由を伝えたがらないという点が怪しく、ハイテンションで誤魔化しているような素ぶりが話していて見受けられました。
最後に四人目の忍者ちゃんなんですが、彼女は忍者だからか証拠がほとんど残っておらず、追えていない状態です」
陽向さんが付け加えるように「忍者ちゃんには会えもしなかったよ」と何故か自信満々に言っていた。
だが僕は、そんなことより予想以上に調べていたことに驚きこう返した。
「でもすごいね。ここまで調べられているなんて」
「陽向先輩と合流してからは、色々とスムーズに進んだんです」
穂火ちゃんはそう答える。それを聞いた零くんは、対抗意識でも燃やしたのか、こう言い始める。
「それなら僕もある程度は知り得ました。疾坐馬本人のことはあまりですが、学校の噂として、最近謎の男性の目撃情報が上がっていることと、保健室の先生が一日だけ夜の学校にいなかったことと、それと詳しくは聞けませんでしたが、いじめについても」
「いじめ?」
陽向さんはそれに反応し、穂火ちゃんは生意気にも「男性って鍵斗先輩のことなんじゃ……」と反応する。
そして僕は、そんなみんなの言葉に反応しようとしたが、二つ目が引っかかってこう呟いた。
「一日だけ学校にいなかった?」
「はい」
僕はそれを聞いて、ドクンっと心臓を震わせる。何故ならその噂は、ある一つの情報を浮かび上がらせるからだ。
「てことは、かなり高い確率で学校にいるってことじゃないか!」
「……!!」
僕はホワイトボードに急いで文字を書いて、こう付け加える。
「保健室の先生は、まさかの隠れていた七人目の容疑者なんじゃないか?」
「たしかに! その保健室の先生について調べるのはありだね!」
陽向さんの声に合わせて、僕らは同時に頷いた。
「これはかなり大きな情報だ。新たな容疑者候補……明日、空いた時間があればその捜査もしていこう」
僕の言い方が引っかかったのか、陽向さんは「空いた時間?」と不思議そうな表情を浮かべる。だが僕はその横で、自信満々で薄ら笑いを浮かべる零くんと、悔しそうにきー! と歯ぎしりをしている穂火ちゃんに視線を奪われていた。
だが、僕たちは先輩だ。だろ? 陽向さん。
そう簡単に手に入れた情報マウントで負けるつもりはない。
僕は大トリを務めるつもりで陽向さんにこう言った。
「それじゃあ陽向さんの手に入れた情報も聞かせて」
僕は冷静に、まるで試すかのように陽向さんを見る。
なぜなら、僕はおそらくこの中で一番の情報を持っているからだ。
そう、僕が手に入れた、四人目の被害者については、最後の最後に伝えて、嘘ー! と驚いてほしかったからだ!!
すると陽向さんがこう言った。
「私が手に入れた情報は、四人目の被害者がいたこと!」
「……は、はあ!?」
全ての計画が崩壊した音がする。
僕が予想外の大きな声を出したせいか、穂火ちゃんと零くんは肩をビクッと震わせて驚く。だが陽向さんは僕の気持ちを察したのか、こう言った。
「まさか、鍵斗くんも!?」
僕はこうなったら合わせるしかないと思い、こう発言し始める。
「うん!」
僕らは同時にこう言った。
「まさかの8/23にも被害者はいたんだ!」
「まさかの8/10にも被害者はいたんだよ!」
「「……え?」」
そして僕と陽向さんはお互いに顔を見合わせて、こう言った。
「「五人目が……いた??」」
この会議は、どうやら……とんでもない成果を僕らに残したようだった。
会議ってのは、雷みたいに突然……弾けるもの。
あまりにも唐突に浮かび上がった時系列の矛盾。これは、事件の根底をひっくり返す……ビッグウェーブのようだった。




