第74話 浸透するアークロック
突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今、鍵斗くんからの連絡がないことに内心焦りながらも、聞き込み捜査を進めていました。
正直言って、桃木島で鍵斗くんが無敵だという妄信は捨てたつもりだけど、頼り甲斐のある彼だからこそ、大丈夫だと思ってしまう自分がいる。
でも、『そっちは大丈夫?』という私が送ったメッセージに『大丈夫!』と書かれたスタンプが返ってきたことで、私は安堵した。
「大丈夫ですの? 陽向お姉様?」
「うん、大丈夫!」
私は鍵斗くんの無事を知って、胸の中で安心感を覚えながら溌剌な笑顔でそう答えた。
現在時刻、13:00。
私、陽向灯里は、聞き込み捜査のためにも信頼関係を築くことをメインに動いた。その結果、生徒の大部分からはお姉様と呼ばれるまでに……成長した。
「陽向お姉様、また外食のお話を聞かせてくださいませ!」
「陽向お姉様、扇風機というものの心地よさを教えてくださいませ〜!」
そう、この学校のお嬢様方は平民の暮らしに興味津々らしく、私に懐いてくれたのだ。
私が「いいよ〜、じゃあマドルドバーガーの話をしてあげよう」と言うと、彼女たちは「きゃー!」と言いながら盛り上がってくれる。
確かに私は人と話すのは得意だけど、これは明らかに、彼女たちがチョロすぎた。
でもまあ、楽しそうにしている彼女たちの笑顔を見ていると、私まで楽しくなってくるので、気にしないことにした。
それはそうとして、面白い情報がコロコロ転がってくるぞ。
□■□■□
「おーほっほっほー!」
重いロックを響かせながら、高らかにマイクを持って笑うのは、疾坐馬巳鶴。
そういえば、自己紹介がまだだったな。
改めまして、僕の名前は水沢零。アークロックの一員だ。
そんな僕は今、腰に手を当てて疾坐馬にこう言った。
「元気ね」
「ええ! レイナ親衛隊として、精一杯頑張りたいですの!」
「そう」
僕は静かに返した。そう、僕は本名を名乗るのにビビって、レイナと自己紹介している。騙しているようで申し訳ないが、まあ仕方ないと割り切っている。
その代わり、真摯に女性のふりができる言葉遣いは意識しているつもりだ。
やるなら夢は壊さないようにしなきゃな。
僕はそんなことを考えながら、疾坐馬たちの演奏を手を挙げて止めさせて、こう訊いた。
「それで、例の件は何かわかったの?」
「ええ、わかりましたの!」
そう、僕がレイナ親衛隊に頼んでいたことは、噂探し。
何か糸口を掴めないかと、疾坐馬率いるレイナ親衛隊に探してもらっていたのだ。
一つ気になるのは、何故か疾坐馬がレイナ親衛隊の人数を勝手に増やしており、僕が認識していない人まで親衛隊として活躍していることだが、もう止められないので何も言わないことにしている。
そんな彼女たちは、いくつか噂を持ってきてくれたようだった。
疾坐馬は言う。
「まず一つ目の噂。最近、この学校で知らない男性を見たという情報がありましたの。これは興味深く、かっこいい、という声もありましたわ。
二つ目の噂は、保健室の先生について。あの先生はどうやら月を撮るのが好きらしいのですが、たった一日、用事があったようで保健室にいらっしゃらなかったという目撃情報がありましたの。
三つ目の噂は、イジメについて……」
そう話していた疾坐馬を見つめていたら、突然ドアが開いた。
ここは人気のない倉庫。そこにわざわざ来るということは目的があるということで……。
「あ、あれがレイナ様!」
「きゃー! お美しいですわー!」
「結婚してくださいましー!」
そう、僕狙いでここに来たようであった。
ここは倉庫。出入り口はたった一つな、小さい部屋。
僕は終わりを悟ったが、咄嗟に疾坐馬が、「逃げてくださいまし!」と言って、僕に耳栓を投げ渡した。
僕がそれをつけると、疾坐馬の後ろにいた疾坐馬の友達Aが、ギターをアンプに繋げて爆音で音を鳴らした。
多くの女子生徒はそれで怯む。そして疾坐馬の友達Bが、ドアの前にたむろっている生徒を押し退け道を作ってくれた。
僕はそれに感謝しながら、やけにいい匂いがする、クラクラと気絶しそうになる道を通って、この場を離れた。
ありがとう、疾坐馬。君の仲間と君に感謝を!
恩返しは必ずするぞ。
そう思いながら、僕は走り去る。ふとスマホが鳴ったので見てみると、鍵斗先輩の『大丈夫!』というスタンプが見えて、ほっと胸を撫で下ろせた。
それはそうとして……
「待ってくださいましー! レイナ様ー!」
「きゃー! スキー!」
この、疾坐馬の攻撃を回避した女子生徒をどうにかしなければ僕は終わるだろう。
「くそ! 助けてくれー!!!」
僕はそう叫びながら、全力で腕を振って校舎を出て、アスファルトの上を走った。
□■□■□
ダークネスヴォイス。
私の字は山田穂火。ふと、「助けてくれー!」という零の声が聞こえた気がしたが、どうせモテているだけなので無視する。
とにかく私にはやらなければならないことがあり、仲直りのために『いのちゃん』を朝から探していた。
だけど見つけられなくて、もはやこれは今日は学校にいないものと判断するしかなかった。
今は夏休み。いくらこの学校がお嬢様学校で真面目な生徒が多いと言っても、自由参加の学校に毎日来るほど馬鹿ではないということか。
私は、いのちゃんがいなくてプランそのものが瓦解したことに落胆しつつも、何かしたくてとりあえずアークロックとして活動することにした。
誰か怪しい人いないかなー、と歩いていると、やけに可愛らしい教師に声をかけられる。
顔は可愛い系で、たぬき顔と呼ばれるもの。
髪はサラサラで、うおっ流石は女子校、教師も美しいのかと驚愕した。
でもこれはピンチである。
「あら? あなた……」
まさか、ここの学生じゃないことがバレた!? と緊張していると、髪をふわっと触られた。
「だ、ダークネス何をするんですか!?」
私がガチコチのロボットみたいな動きをすると、その先生は「ふふっ、ダークネスってなに?」と笑いながら返してくれる。
そして、「寝癖がついていたわよ」と美しく返してくれた。
こんな先生、私たちの学校にはいない! と思いながらも、私は次の一言で冷や汗をかいてしまう。
「でも、あなたどこのクラス? ごめんね、見覚えが……」
そんなことを言われても、答えは用意していません!
私が怖くて声が出せないでいると、救世主がやってきた。
「あ、宮弐先生!」
「ん? どうしたの?」
宮弐と呼ばれた先生は声の主を見る。そこにいたのは、陽向先輩だった。
「ひ……!」
私は名前を呼びそうになり、すぐに口を手で押さえた。でも陽向先輩はすごくて、華麗にこんな会話を始めた。
「陽向です! 初めてお会いしたので挨拶をと!」
「あら? 初めて?」
「はい! 宮弐先生は二年の地学担当ですよね? 私、選択科学で物理と生物を選んだので、地学の先生の宮弐先生とは会えてなかったんです」
「そうなの! それでわざわざ挨拶を……、偉いね」
優しい笑顔でそう言う宮弐先生。陽向先輩は、「いえいえ〜! でも、地学を学びたくなったら自習付き合ってくださいよ〜! 友達から聞いたんです、宮弐先生は教えるのが上手いって!」と言った。
宮弐先生は照れて「そんなことないよ〜! でも、ありがとね!」と言って、まるで逃げるように、私に向けて手を振りながら「君も寝癖気をつけるんだよ! バイバイ!」と続けた。
私は、助かった!
と思っていたのだが、どうやら陽向先輩には考えがあるらしく、宮弐先生の足を止めさせた。
私は何をしているんだ!? と驚く。
でも陽向先輩は冷静で、こう続けたんだ。
「あ、宮弐先生! それとは別に……」
「……? どうしたの?」
陽向先輩は、ふと笑みよりも疑問を優先したように、顎に指を当ててこんなことを訊いた。
「8月16日から17日にかけての夜、学校にいました?」
「……いなかったわ」
その返事を聞いて、陽向先輩は満足したように笑ってこう返したんだ。
「そうですか、私忘れ物しちゃって! 無くなったので探していたんです。でもいなかったのなら大丈夫です、ありがとうございますっ!」
「いえ、いいのよ」
そして宮弐先生は「それじゃあ」と言ってこの場を去る。
私は何が何だかと思いながら、陽向先輩を見る。
すると先輩はこんなことを言った。
「嘘ついてるね」
私はその確信を持ったような話し方に疑問を持ち、こう訊く。
「……なんでわかるんですか?」
陽向先輩は冷静にこう話す。
「うーん、『勘』かな?」
「勘ですか……」
「そうだよ、本当に、なんとなくかなーって」
私はそれを聞いて、空錠先輩に言われたことを思い出す。
今日の朝、二人で陽向先輩や零を待っている間、陽向先輩の話をした。そこで鍵斗先輩がこんなことを言っていた。
「昨日ね、ゲームしたの。穂火ちゃんと零くんが外に出ている時に。そのゲームは嘘を見破るゲームでね、これが驚き、陽向さんの嘘を見破る的中率、95%。
多分あれは勘とかじゃないね。
本人はそう言っているけど、無意識のうちに目線とか言葉のテンポとか、汗とか、動きとか、とにかくあらゆる変化を敏感に感じ取っているんだと思う。
陽向さんの前で嘘はつけないね……」
そう言った鍵斗先輩は苦笑いを浮かべており、でもどこか相棒を自慢するかのような顔をしていたのを覚えている。
私は、これがそれか! と思い、陽向先輩への憧れを更に増やした。
それはそうとして……なんでここにいるんだろう。私がそう思っているのを察してくれたのか、陽向先輩はこんなことを言ってくれる。
「ちなみに、お話会は切り上げてきたよ〜! 穂火ちゃんに話したいことがあったからね!」
私はそれを聞いて、もはや陽向先輩はエスパーなのでは? と思う。
わ、私のダークネスマインドは読まれてないよな!?
そう緊張しながらも、私は陽向先輩の話を聞いた。
「そうなんですね……。それで、話したいことって何なんですか?」
陽向先輩はハッとして、こんなことを言う。
「聞いて! 凄いの! まさかのね……
『無気力症候群』の被害者は、もう一人いたの!」
「……え?」
「被害者は三人じゃない。四人目がいた!」
私はそれを聞いて、全体がひっくり返るような衝撃を覚えた。
そして、柄にもなくこう叫ぶ。
「えええええええええ!?!?」
どうやら、事件の底は、思っていたよりも深かったようだ。




