第72話 連動
緊迫した空気を壊すように、しれっと陽真が現れて、ワタツミゴーンの身体をチョップした。
そして、呆れたようにこう言う。
「何してるんだ、ワタツミ」
「そうだ、お前はいつも暴走する」
陽真とエーヴェルは息を合わせて、「まったく」と、いつものように続けた。それに対してワタツミゴーンは、ガハハ! と反省などしていないように笑い、こう返したんだ。
「だがな! オレはタイマンが好きなんだ! それに……陽真もエーヴェルも、止めなかっただろ?」
挑発的な笑みを浮かべるワタツミゴーン。陽真は、「確かにな」と言いながら、こうも続けたんだ。
「だが、仕留めきれなかった。その罰は受けてもらうぞ、ワタツミ。ここからは五人でやる」
腰に手を当てながら、オレを瞳で穿つ陽真。オレは、この気の抜けるような会話を聞きながらも、その慟哭は確かにオレに危機を囁いた。
というか、この状況でこの会話を聞いて、安堵できるわけがない。オレだけ蚊帳の外、圧倒的なアウェイ感。
緊張だけが、肌を伝って汗になる。
「でもよぉ、あいつ強いぜ?」
ワタツミゴーンはそう言った。それに対して、陽真はこう返す。
「だからだ。オレだって鍵斗とはタイマンでやりたい。でも今は任務優先だ」
「へいへい」
五月雨のように、バトル、会話、バトル、会話を続けるプラネッツだが、オレは気を抜かないし、真面目にやっている。
目を細めて敵から目を離さず、勝機を探っていた。
問題はそこ。
こんな隙だらけな会話をしているのに、今攻撃を向けても対処される未来しか見えないのだ。
正直言って、これはキツい。
隙だらけな舐めプをされているのに、勝ち筋を見つけられないなんて。
でも、折れちゃダメだ。
集中しろ、オレ。
ここで、守りきるんだろ……みんなの、頑張りを!
オレの視線と、陽真の視線がぶつかり合う。目と目を合わせたその刹那、再開のゴングが鳴り響いた。
「じゃあ行くぜ、鍵斗。ここからが本番だ」
(来る……!!)
まさに、息を呑んだ。
全感覚が、思考が、否応なく研ぎ澄まされる。
「……ッ!」
来る、目の前からエーヴェル。
その後ろから三発の弾丸。
避けたいけど、後方から挟み込むようにアーロイドの百本のナイフが来ている。
安易に浮けばキュロの餌食。
「……っ! まじか!」
見当違い!
キュロは見極めを捨てて、オレを動かすための技を放って来た。
地面に衝撃を与えずに、体を粒子化して意識すら置いていく高速移動。
プラネッツの火星担当、キュロのアークは『瞬撃』。
A地点からB地点を事前に決めて、その間を直線で高速移動する技だ。
何度も戦っているからわかるけど、
キュロの攻撃は浅い。
でも、今度は刀。
「……!」
アークによる攻撃の弱体化はあれども、致命傷の可能性を考慮して、オレはその攻撃の方向を予測してキーハートで刀を防いだ。
キュロの技も溜めを要する。つまり、ギリ読めるのだが……それは、一度目に限る。
ここからは、キュロの攻撃の嵐。
オレは二撃目を警戒して、先ほど手に入れた『全能力強化のアーク』の鍵をキーハートに挿し、あらゆる能力が上がったキーハートを強く握った。
繋がるキュロの斬撃。
キュロはB地点に着地した後、C地点を定め、突っ込んで来る。
「……ッ!」
直線移動限定ゆえ、ギリ捌けるけど、これが何度も続くのがキュロの強さ。
今度C地点からD地点へ。
一つ幸いなことがあるとすれば、その設定は人力ゆえ、ラグが生じる。
だが、キュロはかなりの感覚派なため……そのラグは、コンマ数秒となる。
それに加えて、陽真の弾丸!
キュロに気を取られすぎて、一発被弾した。
なにこの弾丸!? クソ痛いッ!!
貫通はしてないから血は出ていないけど、トンカチで殴られたみたいに鈍い痛みがじわじわと広がる。
当たったのが左腕でよかった。利き手である右腕なら、危うくキーハートを落としていたところだ。
「目を離すなよ、空錠鍵斗!」
「ああもう!」
ザクザクと、キュロの攻撃に襲われながら、目の前から近づいてくるエーヴェルに襲われる。
キュロの『瞬撃のアーク』による攻撃の弱体化により、オレの体の傷は切り傷に抑えられているが、これが続くのが地味にやばい。
昔はただの精神的にキツい、チマチマダメージだったのに、今はどこか痺れを覚える。多分あの刀だ。軽い神経毒でも塗られているのだろう。
攻撃力が出ないアークゆえの、工夫ってやつか!
プラネッツもまた、成長している。
「私を忘れてもらっては困るな」
割り込むように一本のナイフがオレの腹を切り裂こうとした。これはアーロイドが操っている物。オレは咄嗟にキーハートでそれを弾いたが、そのせいで生まれた隙を狙うように、エーヴェルの拳が襲ってくる。
「ガハッ!」
頬を殴られ、オレの視界はグワンと揺れた。
だが、キュロの斬撃の痛みで意識だけは保つ。
アーロイドも本気を出してきた。
多くを一斉に操るオートモードの中に、細かい動きを可能にする、その場で指示を送るマニュアルモードのナイフを混ぜている。
これは厄介だ。
てか、正直言って、防戦一方。
タンクとして、攻撃も加えてくる粘着系治癒能力者のエーヴェルがいて、そんなエーヴェルがゴリ押しして生まれた隙を陽真とアーロイドで狩る。これだけでも厄介なのに、周囲を動き回りチクチク神経毒を入れてくるキュロもいる。
ぶっちゃけ体が追いつかない。
でもこれで本気じゃないんだ。
なぜなら……!!
ぽちゃん、という音が鳴った。
これは、ワタツミの技がくる合図。
足元に渦の線が現れ、それはオレに、『渦潮』が来ると認識させた。
でも、予備動作があっても、この体勢からは避けられない。
エーヴェルの殴りが思ったよりも強い。
だからここは敢えてくらう!
オレは『渦潮』に足を取られながらも、エーヴェルの追撃の拳を左腕で受け止め、意外と一番痛い陽真の弾丸を確実にキーハートで弾く。
そして同時にトリガーを引き、刃を持ち手の部分から切り離した。これにより、弾丸により弾かれた刃が回転しながらオレの背後を走り、来ていたナイフの列を強く乱した。
乱雑になったナイフは与えられていた命令を実行しようと強引に動くが、そのせいでナイフは四方八方に飛んでしまい、動き回っていたキュロを傷つけ足を止めさせた。
「マジか!!」
ワタツミゴーンはそう言い、アーロイドは不服そうな顔をする。
だがエーヴェルは真顔で、それでも攻めてきた。
こいつの厄介なところはここ!
揺るがぬ精神に治癒能力を持っているせいで、ちょっとやそっとじゃ止まらない!
オレは左手で拳を作り、エーヴェルの拳にぶち当てた。だがその衝撃は凄まじく、左手の骨が砕けた感覚が全身に走った。
「……ッ!」
これだけでも最悪なのに、この間にリロードを済ませた陽真の弾丸がまたもやって来て、オレはキーハートから再び刃を出し、迫る弾丸を焦りつつも正確に切り裂いた。二つに割れた弾丸は後方へ飛び、背後から不意打ちをしようとしていたワタツミの頬を掠める。
しかしそのキーハートを振った隙をエーヴェルは逃さず、オレの腕を掴もうとした。
ここで捕まったら終わり。
オレはキーハートを振り回して、強引に敵の包囲網を抜けた後、後ろに下がって周りを見る。
逃げきれない。
右から弾丸!
正面からエーヴェルが殴りかかってくる。
左!?
まさかのキュロが刀を投げてきた。
あれはアークによる弱体化がないため、当たれば致命傷だが、アークが乗っていない速度ならはたき落とせる。
って!
後ろから車が突っ込んできた!?
アーロイドの念力か!
オレはそれらを一つずつ確実に捌いた。
この戦闘において最も大切なのは足。移動こそが最重要な力なのだ。
オレは走りながら、銃弾を弾き、エーヴェルから離れ、刀を叩き落とし、投げられたワタツミゴーンの武器、トライデントをキーハートの刃で流しながら背後に弾く。そして車はバク転で回避。
オレを通り過ぎて進んで行った車は電柱に当たって爆発を起こした。
しかし、攻撃はこれで終わらない。
今の一連でリロードを完了していた陽真がこれまたイヤらしい射線で銃弾を放ち、回避を余儀なくさせる。
『瞬撃』のアークで高速移動し、投げた刀を再び拾ったキュロは、それでヒントを得たのか、
刀を投げる、それに追いつくように高速移動、再び投げる、そして高速移動で空中で刀をキャッチする。
それを繰り返して、『瞬撃』のアークによる弱体化のない攻撃を延々と繰り出してきた。
これは避けるのしんどい。なにより、陽真の弾丸が邪魔!
雑に回避したら、弾丸に刈り取られる。
でも、突っ立ってたら、刀も弾丸もくらうがなんぼなスタイルで突っ込んで来るエーヴェルにやられる。
そうこうしている内に、もう一台の車に触れたアーロイドが再び車を大砲のようにぶっ放してきた。
まじで、まずい! まじで、まずい!!
弾丸を弾く、刀を避ける、エーヴェルから離れる、車を避ける。そしてどこにいるかもわからないワタツミゴーンに気を配りつつ、
車を避けた時にはもうリロードを済ませた弾丸を弾いて、刀を避けて、エーヴェルから離れて、当たれば致命傷な車によるタックルを避け、
それが終わればリロードを済ませた弾丸を弾く。
オレのキャパがオーバーし、見逃した弾丸が頬を掠った。
神経毒のせいもあるが、それ以上に、把握しきれなくなっている。
プラネッツが、戦闘の中で進化している。
「くそ……!」
そして追撃のように足元に線が走る。同時に『波動』の線も流れた。
オレはその予備動作を見て、回避を選択し、体重移動で突っ込んできたエーヴェルの背中に乗り、弾丸を避けて、刀を弾き、波動による攻撃を避け、車はエーヴェルにくらってもらって回避した……
が、
その間にリロードを済ませた弾丸が、オレを襲った。
「……くそ!」
反応が遅れ、ギリ弾丸は避けたけど、今のは回避読みで敢えて遠くの場所を通してきた弾丸だった。運が良くなければ、今のは当たっていた可能性が高い。
これはマズい!
これはやばい!!
攻撃が、止まらない!!!
終わらぬ連撃、これが連動。
弱点を補い合うアークロックとは違う。アークロックが連携なら、プラネッツは連動。
お互いの強みを歯車のように繋ぎ合わせて、終わらぬ攻撃を可能にする。
まさに、リレーのバトン!!
アークロックがパズルなら、あちらはバトンなのだ。
なんて言ってる場合じゃないよこれ!!
無限ループじゃないか!!
オレは終わらない耐久に嫌気がさしながらも、命の危険を感じまくるせいで身体は逃避を拒否してしまう。
何よりこの盤面で背中を見せたらもう終わりだ。
くそ、くそ!
「これは……やばいッ!!」
そうこうしているうちに、リロードを済ませた陽真の銃口が、またも……
オレを狙う。
ガチャッというスライドが引かれた音は、終わらない悪魔のようだと感じた。




