第71話 荒波は知性を呼ぶ!
激戦を繰り広げる仲間と空錠鍵斗を見つめながら、二人の男女は会話を進めていた。
一人は、プラネッツの土星担当、ライガー・サターン。もう一人は、プラネッツの金星担当、ユスティア・ヴィーナス。
ライガーは引き締まった牛肉のような逞しい肉体にスキンヘッド、そして黒いサングラスという格好だが、
ユスティアは対照的に、
新鮮な果実のような豊満な肉体に、バーテンダーのような衣装を着ており、強くウェーブがついている髪はポニーテールでまとめている。
まさしく、前時代的な、ステレオタイプな屈強な男と妖艶な女であった。
だがその二人は、目の前で激戦を繰り広げる仲間を見て、半ば呆れたようにこう言ったのだ。
「おいおい、一人相手に五人かよ」
ライガーはそう言い、ユスティアはそれに対して
「ハーレムプレイってやつね。野蛮だわ」
と髪を揺らして返した。
二人とも、べ、別に乱戦が苦手なわけじゃないんだからね!! とは言わない。
静かに、この戦闘への参加を拒否していた。
そして二人は目を合わせて、同時にこう言う。
「あんた」
「お前」
「「ビビってる」」
「わね」
「だろ」
二人の間に沈黙が流れる。
だが、戦場は待ってはくれないのだ。
封刄陽真の銃から弾丸が放たれる。これは、貫通を捨て、打撃に振った、鎮圧のための弾丸。
ゆえに、当たっても死にはしないが……ゴムでできているわけではなく、特注の固体でできているため、当たれば内出血は避けられない。
その弾丸を、空錠鍵斗は乱戦の中避けた。
この戦いは、空錠鍵斗を潰すためのバトル。
そんな戦場の中心にいた男は……内心焦っていた。
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ライガーとユスティアはなぜか参加してこないから今は無視。
陽真の銃弾による牽制を避けながら、アーロイドの嫌がらせ念力攻撃を捌きつつ、エーヴェルのゴリ押しタンクをどうにかする。
そして遠距離から瞬時に距離を縮めて打ち込んでくる、キュロの居合斬りを警戒しつつ、
アークのわからない海王星、ワタツミゴーン・ネプチューンの情報を探る。
これは、一人でやるには骨が折れる。
「……!」
キュロが動いた、居合斬りが来る。
だが忘れるな。この盤面で最も警戒すべきは、陽真の弾丸。
オレは『治癒能力』でゴリ押ししてくるエーヴェルの腕を斬るが……その傷は瞬時に回復し、エーヴェルはオレの体を押さえようと手を伸ばしてくる。
同時に足元の石畳が動き、足元のバランスが崩れた。
これはアーロイドの念力攻撃。横を見るとアーロイドの念力によって操られた百本のナイフが波に乗ったようにこちらに向かってくるのが見えた。
陽真の弾丸が放たれた音がする。
この盤面。
目の前にはエーヴェル。横からはナイフ。遠くではキュロが突っ込んでくるモーションに入っており、足元はアーロイドのせいでおぼつかない。
そしてそんな乱戦に、針の穴に糸を通すように弾丸をパナして来る陽真。
これは……もはや回避不能。
身体能力強化の基礎鍵を挿してはいるが、もはや回避では対応しきれなかった。
ゆえにオレは、『耐える』を選択する。
力を借りるぞ、零くん……!!
オレは虚空から鍵を取り出して、バランスを崩して倒れる前にそれをキーハートに挿した。
そして、回す。
キーハートは零くんのアーク『防衛』の力をコピーし、その姿を変えた。
刃は横に広がり、オレを覆って小さなドームを作る。
そして、鋼鉄の鉄板のような見た目の全方位防御壁が出来上がり、オレはあらゆる攻撃を弾いた。
それだけに終わらない。見えない地中へその端は伸び、トンネルを形成した。
オレはそれを通ってアーロイドの背後に回り、地中から土管を生成するように現れた。
まずは、面倒なアーロイドから始末する。
オレがキーハートを気づかれる前に振った刹那、声が聞こえた。
「流石だな! 空錠鍵斗!! 今の攻防から攻めに繋げるか!!」
「……ッ!」
突然飛んできたトライデントのようなものを避けるために、オレはアーロイドから急いで離れる。
刹那、ぽわんっと、心地の良い水滴が水面に落ちるような音と共に、白い線が目で追える速度で走った。
これは、線?
いや違う、輪郭!?
波のようなものの輪郭の線が、オレの体を通り過ぎた。
何だあれは!?
刹那よぎる、オレの直感。
あれは、予備動作!?
「気づいた時にはもう遅い! テメェら下がってろ! ここからは、オレとお前のタイマンだァァァァァ!!」
先ほどの輪郭をなぞるように、ワタツミゴーンの後ろからどでかい波が現れた。
それは、この空間を飲み込む大波である。
「なんじゃそれえええええええ!!」
オレはそうツッコミながらも、思考を巡らせる。
ワタツミゴーンは何もないところからサーフボードを取り出し、それを使ってその波に乗った。
「海王技一式『波乗り』ィッ!」
その攻撃は、まさに圧倒的。
アークは願いから作られるゆえ、その力には個性が宿る。
先ほど、まるで、これからする攻撃はこれだよ、と言わんばかりに走った攻撃の輪郭、予備動作は、ワタツミゴーンの正々堂々さを感じさせる。
つまり、プロレス系の、攻撃を喰らう動きをするはずだ。
そこが、弱点になり得る。
オレは波乗りでドでかい波と共にこちらに来る彼を見て、冷静さを取り戻すために短い気持ちだけの深呼吸をした。
あの波はフェイクだ。現に建物は壊していない。
イメージとしては、ホログラムのようなもの。ただ、ワタツミゴーンが波に乗っているように進むだけの技。
だから大丈夫、対応できる。
そしてまたも、ぽぽわんっ、と音が鳴った。
これは、予備動作。
ワタツミゴーンから放たれたのは、大中小の丸い円。それも数個。
あれは何だ。いや、あれは!!
『波動』だ! 水の中で魚が動いた時に出来るような、水の圧力。
強いけど、わかっていたら止められる。
オレは刃を『防衛』の力でムチのように変化させ、ワタツミゴーンを待ち伏せた。
プロレス退治の、カウンター狙いだ。
だが、ガクッと視線が落ちる。
体重のバランスが崩れ、オレは焦って足元を見た。
右足が、無くなったみたいだ。
「……ッ!?」
そこにあったのは……小さな、渦。
足だけがすっぽり入るような水たまりが、渦を巻いてオレの足を吸っていた。
足首まで沈むそれは、まさに、落とし穴。
先ほど聞いた音は、ぽわんっ、ではない。ぽぽわんっであった。
聞き間違いじゃなければ、まさか!!
「海王技二式『波動』、海王技三式『渦潮』ッ!」
一つの技に合わせてもう一つの技を出して来やがった!!
オレは急いで新たな鍵を取り出して、それを挿す。
この鍵は随分前に、初めて敵として陽真と会った日に戦ったアークリオンの鍵。
「『衝撃のアーク』だ」
オレはキーハートを地面に刺して、衝撃波を地面に流した。
オレを中心として地面に亀裂が走り、その衝撃は近づいていたあらゆる攻撃を怯ませ、消滅させた。
「カハッ!」
オレは冷や汗を周囲に散らす。
だが、対照的に、
波乗りが消え、地面に降りたワタツミゴーンは楽しそうに笑い、こう言った。
「お前……」
そしてオレは、静かにこう考える。
勘違いしていたよ。プロレス系だと。
違ったんだ。こいつはもっと狡猾な……!
「戦闘IQが高いタイプだな」
戦闘IQが高いタイプの敵。
オレとワタツミゴーンは同じ感想をお互いを見て抱いたらしく、続けてこう言った。
ワタツミゴーンは、立派な髭を触りながら、挑戦的な表情で。
オレは、キーハートを強く握りながら、額に力を込めて。
「最高だぜ!」
「面倒だな!」
全く違う答えを導き出したオレたちは、お互いに視線を合わせる。
正直言って、もうキツい。でも、まだストレッチの段階。
本番はここからだ。気合いを入れろ、空錠鍵斗!
オレは、地面からキーハートを抜いて、血を弾くかのように刃についたコンクリートの粉を振って弾いた。
戦場の霧が舞う。
思考の段階が、一つ、上がった。




