第70話 再会
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
そんな僕は今、アークリオンと戦っていた。
宿主は小学生の男の子。
願いは『ヒーローになりたい』。アークはおそらく『全能力強化』。
僕は朝、警備員に捕まった後、師匠に教えられた被害者に会いにいった。
家に着きチャイムを鳴らすと、夫が無気力になった影響か、パニックになって、何日も風呂に入っていないような容姿の女性が出てきた。
その人は僕を見た瞬間に泣くように喚き散らし始め、僕はその圧に負けて一歩退く。
だがその後ろから出てきた小学生の男の子を見つけ、見て見ぬ振りはできず、その子を連れて学校まで向かったのだ。
夏期講習らしく、昼からあるということだったのだが、登校中に、
テレビ番組のヒーローのようになって父と母を救いたいという男の子の願いを聞いた際、男の子が突然暴走し始めて
アークリオンと化した。
焦った僕は急いで黒の鍵で虚偽の世界を作り、白の鍵で男の子とアークリオンを分離して、第二形態に挑む。
そして現在に至り、僕は隙をついてキーハートでその『ヒーローのアークリオン』を倒した。
黒の鍵で作った世界が同時に割れて、現実の世界が露わになる。
僕は息を吐いて、こう言った。
「ふう……。さて、怪我はない?」
僕は安心して男の子に歩み寄る。
その感覚は、どこか霧を掴んだようだった。
なんて言うかさ、これは僕の予想だけど……さっぱりした戦闘っていうのはメインじゃなくて、その後に巻き起こる事件の前菜に過ぎないのだ。
それを表すかのように、足音が聞こえた。
「……」
僕はアークリオン化の影響で疲れて腰を抜かしている男の子に視線を合わせようと、膝を曲げていた。
だが足音を聞いて、それを途中で止めた。
そんな僕の背中に、無表情な声が刺さる。
「久しぶりだな、鍵斗。元気だったか?」
その声は、僕の記憶を刺激する。
フラッシュバックのように勢いよく脳裏をよぎるのは、『親友』だった男の子との思い出。
彼の声も、顔も、雰囲気も、一度たりとも忘れたことはない。
そんな彼は、こう続けた。
「悪いが、話があってここに来た」
「……」
僕は、ゆっくりと目を閉じる。
再会が怖かったわけじゃない、面倒だったわけでもない。
ただ、来てしまったのかという、プレッシャーだけが僕にのしかかっていた。
そんなプレッシャーをグッと堪えて、僕はこう返す。
「申し訳ないけど、今は幸せを守っている最中なんだ。この男の子だけでも、家に帰らせてあげたい」
僕は彼を見ない。そんな僕の背中を見た彼は、静かにこう返した。
「そうだな。意味のない犠牲は避けるべきだ。その子を帰せ」
「ありがとう」
僕は、男の子に声をかける。
「立てる?」
「……うん」
まだ意識が朦朧としている彼を立たせて、僕はそんな彼に落としていた黄色い帽子を被せる。
そして肩に触れて、こう言った。
「振り返らずにまっすぐ帰るんだ。いいね?」
「うん」
男の子は、静かにそう答えた。そして、踵を返して家に戻る。
そんな男の子の背中を見た後、僕は振り返って、彼を見た。
その親友の名前は、封刄陽真。
僕たちが止めようとしている、プラネッツの一員だ。
「久しぶり、陽真」
「くん呼びでは呼んでくれないんだな」
まだ昼になる前のこの時間。太陽が照らしたおかげで、彼の顔はよく見える。
この不思議なくらい誰もいない道路で、僕はこう言った。
「もう、親友じゃないから」
「そうか、オレは親友でいたかったんだがな……。まあ、考え方が違うから仕方がないのか」
陽真はそう言った後、こう続ける。
「だったら言いやすい。鍵斗、頼むから美佐校に関わるのはやめろ」
僕はその言葉を聞いて、一つの可能性に確信を持った。
美佐校の事件は、プラネッツが関わっている。そして、アーク関連の事件であったとほぼ確信を持てた。
そんなことを考える僕を他所に、陽真はこう続ける。
「あれは不明瞭なものだ。近づくな」
「不明瞭? 事件のこと?」
僕がそう訊くと、陽真は不思議そうに「事件? なんのことだ?」と言った。
僕はそれに対して、どういうこと? と返そうとしたが、それは一人の「これ以上は無駄だな」という声によって止められる。
世界が再び黒く染まる。
空は紫色に染まり、蝉の鳴き声や鳥の声がパタリと消えた。
これは、黒の鍵によって作られる虚偽の世界。そして黒の鍵を扱えるのは『鍵使い』のみ。
加えてこの世界は物を壊しても、現実世界には影響しない。
つまり、相手は戦闘の意思を示したということ。
腰を落として警戒を露わにした僕に対して、敵はこう言った。
「陽真の願いであったため、奇襲は待ったが……これは交渉は不可能であるぞ」
そう言いながら現れたのは、ボロボロのケープのような物で身を包んだ三十代ほどの男。
僕は……いや、オレはそいつを知っている。
「エーヴェル」
そう、彼はプラネッツのリーダー……エーヴェル・ジュピターであった。
「それだけじゃねえぜ」
そう言いながら、奥の道の角を曲がって現れたのは、スキンヘッドにサングラスをかけた男。
そいつの名前は、ライガー・サターン。
だが彼だけに留まらず、次々と違う角から人が現れて、彼らは陽真の横に並んだ。
「水星、金星、地球、火星、木星、土星……そして」
ライガーの言葉に続いて、ザパーンという波の音と共に、空から一人の男が降ってきた。
そいつは上裸で、髭が濃い、ムキムキなオッサン。
そいつは、ニヤリとほくそ笑んでこう言った。
「そして、海王……ワタツミゴーン・ネプチューン。横文字はかったるいから剛将でいいぞ! 空錠鍵斗!」
そんな剛将に対して陽真は「ワタツミ、それは本名だろ」と言って、エーヴェルは「馬鹿野郎、お前はいつもそう勝手なことをする」と、イライラを募らせたような表情で言った。
そんなことを言われた剛将は、ボリボリと腰をかいたあと、こんなことを言って返す。
「陽真だって本名バレてるだろ」
エーヴェルはそれに「陽真は仕方ないんだ! 敵対する前に出会ってしまったのだからな!」と言って、陽真は「すまんな」と続ける。
なんか、緩いぞ空気が。
陽真も大変なんだな、と思いながらも、僕はその緩んだ気をグッと引き締めて、キーハートを強く握った。
僕の前に現れたプラネッツのメンバーは、天王星を除いて、水星、金星、地球、火星、木星、土星、海王星の七名。
まさか、ここから戦闘なんてするわけないよな、と思いながらも、
水星であるアーロイドは顎に指を当ててこんなことを言い出した。彼女は白衣をふわりと動かし、その悪戯な笑みは余裕を思わせる。
「久しぶりだな、空錠鍵斗。私としてはお前に二連敗中だ。流石にこれ以上負けるわけにはいかないな」
そして、火星のキュロは、その小さな背をピシッと伸ばし、だが表情はどこか緩く、ふわふわとした声でこう言う。
「わたし、前に斬られた。痛かった、だから……リベンジする……するです」
それに呼応して、エーヴェルに怒りが宿る。
「前回、キュロの肩を斬ったお前だが、殺す意思があったと考えていいな?」
オレはそれに対して、「あの場には、エーヴェル、お前がいた。死なないだろ」と返す。
だが焼け石に水だったようで、彼はゴギっと拳を鳴らして、こう続けた。
「問答無用……だな」
オレは精一杯、
おいおい、戦闘するつもりなのか!?
と心の中で思いながらも、キーハートを強く握る。汗が手を伝ってキーハートに触れた。
「なあ、鍵斗。頼むからさ、美佐校から手を引くと言ってくれ」
最後に、陽真が一歩前に出て、首に手を当ててそんなことを言った。
正直言って、超ピンチ。
プラネッツは七人に対して、こちらはオレ一人。
戦闘になればオレはコテンパンにされるだろう。
でもさ、師匠に託されたんだ。
それに、学校では頑張っている仲間もいるから。
「ごめん、陽真。手は引けない」
頼むから戦闘にはならないでくれー! と思いながらも、オレは凛々しい表情でそう言った。
陽真はため息を吐いた後、こう言う。
「なら仕方ないな」
そして銃を取り出し、銃口をこちらに向ける。オレは放たれた弾丸をキーハートを素早く動かし、弾いた。
オレの汗が、周囲に散る。それがゴングに当たり、甲高い音が鳴った。
「戦闘開始だ」
ダッ! と地面を砕きながら、エーヴェルがこちらに向けて突っ込んで来た。
オレはそんなエーヴェルをキーハートを盾にして受け止めるが、それでもこの勢いは止められない。
陽真は銃口をこちらへ向け、キュロは刀の持ち手に手を触れていた。前回は双剣だったキュロだが、何か戦術に変化を加えてきたのか!?
それはそうと、アーロイドはナイフを空中に漂わせ、オレに向けて射出した。
剛将の姿は見えず、ライガーとユスティアはなぜか後方で棒立ちスタンバっている。
てかさー! もう!
「結局、戦闘になるのかよおおおおおおお!!」
オレはエーヴェルのタックルによって壁にぶつかろうとしており、それを防ぐために体重移動でやつの押し出しを抜ける。
エーヴェルはオレ抜きで壁にぶつかり、そのうるさい音を聞きながらオレは、真剣な声でこう言った。
「これは、やばい!!」
七体一の絶望的なバトルが、今始まる。オレはそんなプレッシャーに押されて、喉を鳴らした。
思考が、神経が、覚悟が、加速する。
生半可な実力では、この場は乗り切れない。
アークロックのためにも、オレは……ここで負けるわけにはいかないんだッ!




