第69話 風呂敷の端っこは不明瞭
捜査三日目が始まった。
僕らはいつも通り潜入したのだが、なぜか僕だけ肩に手を置かれる。
何してんの陽向さーんと言おうと振り返った時、そこにいたのは警備員さんだった。
僕は仲間を探す。彼女たちは走って逃げていた。
素晴らしい判断である。
これで、全滅は免れた。
「じゃないよ!!」
警備員さんはガシッと僕の襟元を掴んで、引っ張っていく。
僕は必死に対抗しながら「ちょ、ちょっと待てーっ!」と暴れるが、警備員さんは鋼の意志で僕を引っ張った。
三日目にして、僕の正体はバレたらしい。
でも、アークロックのパズル理論を忘れるなかれ。欠点を仲間で補うのがアークロックなのだ。
みんな、僕はこれで終わったけど、あとは……任せたぞ。
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
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突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今、腕を組んで頭を悩ませていました。
「ひ、ひ、ひ、ひ、陽向先輩ぃ! 空錠先輩が連れていかれちゃいましたっ!」
とっさに校舎の影に隠れた私たち。そこで、穂火ちゃんは当たり前のように焦っていた。
零くんは「どうします?」と冷静を装って喋っていたが、足はガクガク震えていた。
私は「むー」と考えた後、鍵斗くんの話を思い出し、みんなにこう伝えた。
「助けに行きたいけど、助けられるプランもない! だからここは、リーダーを信じて鍵斗くんは見捨てる!」
「え、ええー!?!?」
私はドヤ顔でこう続けた。
「鍵斗くんならなんとかなるよ!!」
「……ほ、本当ですか?」
零くんが肩を落としてそう聞いてきた。私は、「まあ多分、おそらくもしかすると、助かるんじゃないかな」と返す。
零くんは「ダメじゃないですか」と言った。
でもさ、鍵斗くんは多分助けてもらうことは期待していないと思うんだ。
だから私は、パズル理論を片手にこう述べた。
「とにかく、できることをしよう! 各々、事件について捜査する。鍵斗くんのことは大丈夫。だって鍵斗くんの長所は、考える力、だもんね!」
零くん、穂火ちゃんはそれに納得したのか、していないのか、渋々頷いていた。
対する私は、燃えていた。
なぜなら、今日はいい情報が手に入りそうな予感がするからである。
そしておそらく、鍵斗くんなら大丈夫だからだ!
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申し訳ないが、この状況から逃れる術を思いついてはいない。
僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』だ。
そんな僕は、警備員の指導を受けていた。
「まったく! あり得ないぞ! 女子校に女装して潜入するなんて! 何を考えているんだ! 警察には連絡させてもらうからな!」
「ちょ、ちょっと待ってください! これには事情が!」
警察という単語に反応してしまい、僕は咄嗟に言い訳を並べようとした。だが寸前で、アークについては言えない、と止まってしまう。
それが何かを刺激したのか、警備員さんの通報欲求はさらに上がり、もはや止められなくなった。
僕は
もはやここまでか!
と、目を閉じて警察が来た後のことを考え始めていたが、その刹那でトンッと音がした。
なんだと思い、ゆっくり目を開くとそこには……師匠がいた。
「師匠!?」
「悪いがアークを使わせてもらう」
どうやら師匠は警備員さんを手刀で気絶させたらしく、無防備にしてから頭に触れてアークを使っていた。
久しぶりに目の前で師匠のアークを見た。
師匠のアークは『記憶操作』であり、アークロックの活動がみんなに忘れられるのも師匠のおかげなのだ。
僕は「ら、乱暴にしないであげてください、彼は仕事をまっとうしただけです!」と言うが、師匠からしてみればそれはお門違いの言葉だったらしく、こう言われた。
「だったら捕まらない努力をしろ。警察まで出てくれば、どれだけ記憶を弄らなきゃいけなくなるか……」
ため息を吐くようにそう言われて、僕は「うっ……」と言葉を詰まらせてしまう。
それはそうとして、助かった、と僕は安堵した。
師匠はこう言う。
「鍵斗を見つけた記憶を少し弄り、鍵斗の立場を猫に変換しておいた。シャミィ!」
「にゃー」
師匠と行動を共にしていたのか、シャミィがどこからともなく現れる。そんなシャミィは机の上に体を丸めて寝転んだ。
師匠はこう続ける。
「シャミィにはここにいてもらう。これで、警備員が目覚めても記憶の矛盾は起こらないだろう。
それはそうとして、鍵斗、私がここに来た理由はわかるか?」
僕はそう言われて、「僕を助けるためですか?」と返したがそうじゃなかったらしい。
師匠は首を横に振ってこう言った。
「それもあるが、一番は被害者が増えたからだ」
「……被害者が!?」
驚く僕を他所に、師匠は冷静にこう続けた。
「陽向が言っていた二日の法則だが、あれはおそらく間違っていなかった。一日を開けて現れる無気力な人間。8/17、8/19、8/21、と法則通り現れていたが、8/23は現れなかった。つまり、何か法則が違うと考えていたがそれは違ったのだ。
17日から21日までの被害者は全て美佐校の生徒だったゆえの見逃し」
「それって、まさか……」
「ああ。ついに関係ないところから被害者が現れた。23日の被害者は、会社員であり、帰宅中に何かあったと思われ、24日の朝に無気力を発症していた。昨日と今日、会社を休んでいるらしい。ストレス性のものだと診断されていたよ」
僕はそれを聞いて、真剣な表情でこう返した。
「美佐校限定の事件じゃなかった?」
「その可能性が高い」
「じゃあなんで、三人の被害者は美佐校の生徒なんだ?」
師匠はフッと口角を上げて、こんなことを言う。
「それを調べるのが鍵斗の仕事だ。桃木島で成長した鍵斗の姿を見て、任せてもいいと思えたからな」
「……師匠」
僕はなんだか認められて嬉しい気分になりながらも、こう述べた。
「でも、被害者のことを考えたら師匠がやったほうがいいんじゃ……」
それを聞いて、師匠は僕の額をトンっと指先で突く。
「な、何するんですか!?」
困惑する僕を他所に、師匠はこう言う。
「それじゃあ後続が育たないだろ。それに、私は私でもっと大きな事件を追っているからな。こっちは任せる、鍵斗」
「……師匠」
今度こそ、僕は心の底から納得と感謝を覚えた。
さて、師匠は忙しそうだから、このくらいで会話を終わらせて仕事に移ろう。
僕はそう思いこう伝えた。
「ありがとうございます。僕のほうは探ってみます」
「ああ、頼む」
そう言って、師匠は警備室から出て行こうとした。だが僕はその背中を止めて、こう伝えた。
「師匠! 今日のご飯は酢豚の予定です! だから、お腹空かせて帰ってきてくださいね」
師匠の表情は上手く見えない。でも、こちらを軽く振り返った時に見えた微笑みは、僕を更なる安堵へと潜らせた。
「ああ、楽しみにしているよ」
師匠はそう言って、去った。
警備員の人が「……ん」と目覚め始めたので、僕は焦ってシャミィに「やば! ごめんね、シャミィ! それとありがとう!」と伝えて急いで警備室を出る。
ウィッグを付けてドアノブを回す僕の背中に、シャミィは「にゃー」と言った。
なんだかそれが嬉しくて、笑みが溢れる。
でも、今は事件だ。
僕はスマホで『アークロック』というグループトークに、師匠から言われたことと、僕がこれからしようとしていることを書き込む。
それは、
『つまりそういうことだから、僕は学外を探る。学内は任せる』
ということだった。
陽向さんが真っ先に、ファイトー! というスタンプを送ってくれる。
僕はそれを確認して、清々しい気分で美佐校を後にした。
てか、本当になんとかなってよかった!!
我の人生に、女子校侵入という汚点を残さず終わったことに、感謝ッ!!
僕はそう思いながら、スカートをバサリと動かしながら、全力でダッシュした。




