第68話 パズル理論
事件解決までに残された期間、残り六日。
僕は元気を取り戻した穂火ちゃんと公園で話していた。
おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーだ。
そんな僕は、
昨日の夜のピザパーティーを乗り越えて、今日の朝、やけに胸焼けする体を起こしながら、陽向さんの到着を待った。
そしていつも通り女装を手伝ってもらい、僕は家を出た。
陽向さんはなにやら忘れ物があることに気づいたらしく、僕と別れ一旦家に帰る。
だから僕は一人で約束の場所である公園に向かった。そして、そこには穂火ちゃんが一人でいて、僕は彼女に声をかけた。
そういうことがあって、今こうして、穂火ちゃんと二人で話しているというわけだ。
何があったのか穂火ちゃんのテンションは戻っており、やる気満々で今日は誰よりも早く公園に来ていた。
早く来てしまった僕は暇つぶしがてら、穂火ちゃんの親友らしい摩白祈莉という女の子との関係の話を聞かせてもらったり、その仲直り方法まで聞かされた。
メガホンで詠唱をするという謎の策だけはとりあえず止めることができたが、穂火ちゃんのスマホに保存された、
『いのちゃんと仲直りする100の方法』
というメモ欄にはもっと恐ろしい方法が眠っている可能性があるということを忘れてはならない。
僕は、会ったこともない『いのちゃん』に同情しながらも、陽向さんと零くんを待った。
しかし約束の時間までは二十分ほどあり、なんとなく先輩風を吹かせたくなった僕は穂火ちゃんを誘って近くのコンビニへ行った。
忘れていたが、僕は今、美佐校の制服を着ている。
コンビニにいたお客さんに「見て、美佐校の制服。お嬢様よ」「あら、すごいわね〜」とコソコソと言われた。
なんだか騙しているようで悪い気分である。
だから早く店を出るために、穂火ちゃんにこう言った。
「なんでもいいよ、おにぎり好きなの選んじゃって」
「……いいんですか?」
こっそり甘えるように上目遣いで見てくる穂火ちゃん。僕は冷静に「うん」と返す。
そしたら穂火ちゃんは、「じゃあこれを」と言いながら、一番高い具材が五種類くらい入っているおにぎりを手に取った。
まさかの三百五十円である。
「不躾ながら」
穂火ちゃんはそう言いながら、同じおにぎりをもう一つ手に取った。
合算で七百円である。
僕はめまいを覚えながらも、それと水二本をセルフレジで購入する。
千円くらい吹き飛びました。
穂火ちゃんはそのおにぎりを美味しそうにモグモグと寡黙に公園で食べる。
僕はそんな彼女の横顔を見て、なんだか親の気分になった。
親じゃないな。親戚のおじさんの気分だ。
そんな時、僕は遠くから歩いてくる零くんを見た。
彼は女装しているのに、なんだか様になる歩き方で、今から決闘に行くみたいな雰囲気を漂わせている。
零くんは僕たちに気づいたのか、小走りでこっちに向かってきて、「おはようございます」と言ってくれた。
僕は「おはよう」と返す。
零くんは穂火ちゃんにも挨拶していた。
「おはよう」
「おはよう」
その業務的な挨拶に苦笑いしながらも、僕は突然後ろから目元に手を当てられる。
視界が真っ暗になった。
「……なに!?」
そして、聞き覚えのある声を聞いた。
「だーれだ」
「……」
僕は内心ドキドキしながらも、彼女のイタズラに惑わされるのがなんだか悔しくて、ぶっきらぼうにこう答える。
「陽向さん」
「せいかーい」
挑発的にそう言った陽向さんは、僕の顔の横にひょこっと現れ、そしてトコトコと歩きながら僕の前に立った。
彼女は腰に取り付けていたビデオカメラを手に持つ。
僕はそれが気になり「それは?」と訊いた。
陽向さんはくるっと回って、キメ顔でこう言う。
「ビデオカメラ! やっぱり探偵やるなら、カメラは必要だよね〜」
楽しそうに語る陽向さんを見つめながら、僕は
忘れ物ってあれのことか
と納得する。
正直スマホでいいだろとなる現代だが、専用に用意した道具にロマンは感じるため、陽向さんに文句を言う気にはなれない。
そんな陽向さんは「お! もうすぐ九時になるね!」と言った。
僕はスマホを見る。あと一分で九時であり、全員が約束の時間前に集まることができた。
地味だけど、遅刻がないのは嬉しい。
「さて、四人揃ったね」
集まったみんなは、それぞれの姿で僕を見る。
ベンチに座っている穂火ちゃん。そんな穂火ちゃんの横で腰に手を置いてこちらを見つめる零くん。そして、腰の後ろで手を組んで微笑んでいる陽向さん。
三人を見て、僕はアークロックの帰還を感じた。
穂火ちゃんが落ち込んでいたことや、度重なる事件の密度、あらゆる要素で僕ららしさが薄くなっていたが、これからは大丈夫だと気づく。
だからこそ、僕はここであのセリフを言った。
「潜入の前にみんなに伝えたことがある」
「なになに?」
陽向さんは気になるようにそう言った。僕は、おとといの夜のことを思い出してこう続ける。
「師匠が教えてくれたんだ。アークロックのパズル理論について」
「パズル理論?」
「うん」
僕は頷いて、こう返した。
「アークロックは凸凹なチームだ。みんな、各々の欠点と長所を抱えている。
でもそれでいいんだ。
パズルは凹凸があって初めて完成する。完璧な四角だと繋がることはできないから。
だから、僕たちアークロックも、お互いの欠点をお互いの長所で補い、結果として完璧な四角よりも大きな絵を完成させる。
それがアークロックの強さなんだ」
陽向さん、穂火ちゃん、零くんは真剣な顔で頷いてくれる。だから僕はこう続けられた。
「だから失敗してもいい。何度だってトライしよう。多分仲間の誰かがフォローしてくれるから」
「多分なんだ……」
穂火ちゃんがそう漏らす。陽向さんが「まあまあ、アークロックって感じで私はいいなーって思うよ! パズル理論!」と言う。
そんな陽向さんは、「これこそまさにアークロックの信条!」と言い始めたので、僕は首を横に振った。
そしてこう言う。
「パズル理論はあくまでアークロックのチームとしての在り方だと思っている。信条は
『与えられた場所で輝くのが人の努力』
だよ」
僕のそのセリフを聞いた陽向さんは、驚いたように目を丸めた。それもそのはずだ。
なぜなら、これは元々陽向さんのモットーであり、僕がそれに惚れ込んで、アークロックの信条としても掲げているのだから。
だから、こう続ける。
「これは陽向さんのモットー。でもさ、アークロックの考え方に合っているとも思うから。
向上心がないわけじゃないけど、今この場の幸せを守るために、精一杯の活動をしよう」
僕は改めてそう言った。それに呼応してくれたのか、穂火ちゃんは「はい! 幸せを守ります!」と緊張しながらも答えてくれ、零くんは「いいですね」と答えてくれる。
最後に陽向さんは、理解してくれたのかそっと微笑んで、こう言ってくれた。
「ラスボスじゃなくて、小さな悩み事を解決する。いいじゃん! 放課後のボランティアって感じで私ワクワクするよー!」
僕はその言葉を聞いて頷く。
わざわざ今更こんな会話をするなんてと思うかもしれないが、なんとなくやっておきたくなったんだ。
これから、悩み事は増えると思う。でも、この軸があればきっと迷わないから。
僕は満足げにこう続けた。
「それじゃあ、美佐校に行こう! 捜査開始から三日目、今日は容疑者候補に絞って捜査をする! みんな、よろしく!」
「おー!」
陽向さんの掛け声に合わせて、僕らは手を空に向けた。穂火ちゃんは人差し指と親指を立てていて、零くんは力のこもってない赤子のような拳をあげ、陽向さんは手を広げて溌剌としている。
僕はというと、しっかりとした拳を掲げていた。
みんな違う形だけど、同じ向きを向いている。
多分これが、アークロックなのだろう。
自信はないけど多分僕はそう思えた。
最初は巻き込むのは申し訳ないと思って、必要ないと考えていた仲間だけど、今だと頼り甲斐のあるかけがえのない仲間に思える。
ポエムを読むのは苦手だけど、なんだか今だけは、心地の良い空気と共に理解できた気がした。
そうして、捜査三日目が始まります。




