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アークロック  作者: 加鳥このえ
第三章 女子校潜入編
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第65話 『無気力症候群事件』議事録①

 事件解決までに残された期間、残り七日。


 そして僕は……特に大きなことを見つけることなく貴重な一日を終えた。


 そして、夕方がやってくる!!


 おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は空錠鍵斗(くうじょうけんと)。『鍵使い(キーユーザー)』であり、アークロックのリーダーだ。


 そんな僕は、みんなの前にホワイトボードをガラガラと持っていく。


 現在時刻は19:00。そして、場所はアークロックの基地。


 やるべきことは、今日手に入れた情報の交換と、現時点での事件情報についての整理である。


「さて! 潜入二日目なんだけど、みんな色んな情報を掴んだと思う。今からはそれをまとめて行くよ」


「あいあいさー!」


 陽向(ひなた)さんが元気にそう答えてくれた。


 まあ、僕は特に価値のある情報を掴んでいないので、内心気乗りしない会議なのだが、まあリーダーとしてやるしかないのだろう。


 僕はやる気を強引に上げて進める。


「我こそは……という人はいる?」


 僕がそう言うと、穂火(ほのか)ちゃんが手を挙げてこう言ってくれた。


「わたし……今日はなにもできませんでした。ごめんなさい」


 穂火ちゃんの行動を把握してはいない。正確には……詳しくは、というところだが。


 今日の穂火ちゃんはどこか変なため、少しは気にかけていたのだが、どうにも推理に身が入らないようで、聞き込みも積極的ではなかった。


 この領分(りょうぶん)は僕の得意分野ではなく、なんて声をかければいいのかわからなかったけど……陽向さんがいたおかげで僕は助かる。


 陽向さんがこう言ってくれた。


「だいじょーぶ! 穂火ちゃん、アークロックとはなんなのか知ってる!? それはチーム! チームで協力し合うのが大切なのだよ! だから……私が特大情報を手に入れてるから、問題はないよ」


 最初はハイテンションで、最後の方に行くと優しい声色になる。この変化は、人の心を良くほぐしてくれる。


 穂火ちゃんも安心したのか、「ありがとうございます」と小さく微笑みながら言っていた。


 そんな穂火ちゃんに対して、(れい)くんは「まあ任せろ。僕も情報を掴んでいる」と言った。


 僕はそれを聞いて、おお! と感心する。


 期待してなかったわけじゃないけど、どこかで零くんはずっと保健室で寝ていたのだろうと若干思っていたので、この返答はかなり熱かった。


 でも僕はそれを止めて、とりあえず大事そうなことを先に言おうと決めた。


 最初っから僕が言えばよかったのだ。そうすれば、半端な覚悟のせいで後輩を傷つけることもなかったのに。


 僕はこう言った。


「じゃあ、会議を始めるね。陽向さんからは事前に手に入れた情報を聞いていて、大体は人物によるものだった。だから、それ以外の情報を一旦整理するよ」


 そしてホワイトボードに文字を書きながら口を動かしこう続ける。


「まず、8/17に起こったこの事件だけど、被害者は一日おきに、8/19、8/21と規則的に現れていた。でも、昨日の夜は僕も警戒してたけどアークリオンは発見できず、8/24、つまり今日の朝になっても被害者は現れなかった。これによって、二日間隔の法則は崩れている。


 何か別の要因があって二日間隔と勘違いしていたか、そもそも被害者を見つけられなかったか。


 この二択になるね」


 僕はホワイトボードに文字を書きながら、「そうだ」と言ってこう続ける。


「それとこれは前提条件だから改めて書いておくね。被害者の三人は共に美佐校(みさこう)の生徒。だから僕たちは美佐校に潜入している。


 そして被害者は朝になると、学校のどこかで願いが奪われたように廃人となって現れる。これが生徒たちの間で流行った『無気力症候群事件』。


 つまり、犯行現場は学校のどこかと推測することができる」


 陽向さんが「つまり、犯行が行われたのは学校で……そして夜の可能性が高いということ」と付け加える。


 零くんは「なんでそうなるんですか?」と真っ当に()く。


 だが僕は知っている。陽向さんのは推理ではなく、答えを見た上でのカンニング発言だと言うことを。


 だけどそれは黙っておいて、僕はこう続けた。


「あくまで推測なんだけど、朝に現れるという点と、昼には普通に生徒がいるっていう点から、隠すのは難しく、考えてみたら夜かなってなったの」


「なるほど、そういう理屈ですね。アークが関わっているのでそういう理屈も通用しないのかと……」


 僕の答えに、悲しそうにそう答えた零くんを見て、僕はなんだか悲しい気分になった。だからこう返す。


「アークは人から生まれし力だから、例外を除いて基本は常識の範囲内だよ。


 ……それに、もし仮にこれが前提からひっくり返る感じなら、アークを特定できるから犯人探しがかなり進むの」


 陽向さんが「アークは願いから生まれるからね!」と付け加えてくれる。


 そんな陽向さんは、流れるように自分の話へと移行した。


 こういう時、陽向さんのコミュ力は偉大だ。僕がこれ以上言い(よど)んでいることを察したのか、自然に自分のターンに引き継いでくれるなんて。


 陽向さんはこう続けた。


「そんな夜なんだけどね、初日は朝の1時に事件が起きた説が濃厚なの」


「それは……何か理由が?」


 零くんがそう言うので、陽向さんは知り得た情報を話し始める。僕は司会などという役割を捨てて、書記に徹した。


 ホワイトボードに黒いペンが走る。


「私ね、容疑者候補に会ったの」


「容疑者……!!」


 そのワードに反応したのは穂火ちゃん。やはり推理といったら容疑者だろう。


 というか世間一般のミステリーは基本容疑者が確定してから始まるのに、現実の推理はまずは容疑者を探すところから始まるのが面倒なのだ。


 そんな僕の考えなど置いておいて、陽向さんは目を輝かせる穂火ちゃんと、興味深そうに待っている零くんに話を進める。


「見つけたのは三人。一人目は、潔癖症な女の子『シロちゃん』。二人目は、そのシロちゃんに教えてもらったことで、8月17日の1時に学校にいたことが判明した『宮弐(みやに)先生』。三人目は、まだ確定じゃないけど、8月17日に遅くまで学校に残っていたらしい、『昂月たかつきさん』。


 私は今回の聞き込みでこの三人が遅くまで残ってたことと、他の生徒の大半はその日、遅くまで残らずに帰っていたことを調べたよ」


 その話を聞いて、僕は陽向さんに感謝した。


 おそらく、僕一人だと一ヶ月はかかっていただろう作業を彼女はたった一日で成し遂げてしまった。


 何がすごいって、たった一日で百名ほどの生徒に声をかけ、『あの日遅くまで残っていなかった』という裏付けを取ったことだ。


 これで、


 実は他にも残っていた生徒がいて、その中に犯人がいましたー!


 というどんでん返しが起こる確率がかなり減った。


 僕はありがとうと思いながら、ホワイトボードに文字を書く。そして間髪入れずに、すごく嬉しそうな声で「それなら、僕も一人容疑者を見つけました!」と言う零くんの声が聞こえた。


 これが例の掴んでいた情報か! と僕は心の中で歓喜する。


 そんな僕に向けて、零くんはこう言った。


「その容疑者の名前は、疾坐馬巳鶴(とざまみつる)。疾坐馬工業のご令嬢で、あの日夜の遅くまで、というか、学校に一泊していたらしいです」


「一泊!? すごい情報だね!」


 僕は振り向きながらそう言う。


 当たり前だ。かなり犯人の可能性が高まったのだから。


 しかし、零くんは少しもどかしい表情でこう続けた。


「でも、いい奴なんです。そんなことをやるとは思えない。それなのに……何をしていたのかは教えてくれませんでした」


「……」


 僕はそれを聞いて、どうにも申し訳ない気持ちになる。しかし、ここは心を鬼にして、四人目の容疑者として書き入れる。


 さて、最後は僕の番だな。


 僕は零くんを「大丈夫。僕も情報は掴んでいるから、巳鶴さんが犯人とは限らないよ」と励まして、こう続けた。


「僕が見つけたのは一人……と言っても、陽向さんと協力して見つけたんだけどね」


 陽向さんは頷いてくれる。僕はそれを見て、こう続けた。


「本名はあるけどここはあえて『忍者ちゃん』と呼ぶ。その子は8/17、スポンジで作られた撒菱(まきびし)を盛大に中庭で撒き散らしたらしい。僕が見つけた情報から、陽向さんに探ってもらうと、その女の子が21:00まで中庭で撒き散らした撒菱を回収していた情報が得られた。


 まだ可能性は薄いけど、犯人の候補だ」


 そして僕は、五人目の容疑者に『忍者ちゃん』と書く。


 そして事前に用意しておいた『シロちゃん』『宮弐先生』『昂月さん』『忍者ちゃん』の顔写真をホワイトボードに貼り、零くんから送られてきた巳鶴さんの顔写真をこの場で印刷して『巳鶴』として貼る。


 そこに、コロコロとバスケットボールを転がしながら猫のシャミィが現れた。


 僕は「あ、おかえり」と言う。しかしシャミィはどうにもそのバスケットボールで何かを伝えたいらしく、ポンっと僕の前に転がしてきた。


 僕はなんのことだかわからずに動きを止めたが、陽向さんは何を察したのか、「なるほど! シャミィも私たちみたいに、何かを探ってたんだね!」と言いながら、机の真ん中にドーンっと転がってきたバスケットボールを置いた。


「……え?」


 僕が困惑していても、世界は止まらぬようで、陽向さんはこう言った。


「そして六人目の容疑者は『バスケットボール』!」


「????」


 僕は困惑しながらも、まあ、これがアークロックか、と思いながら頭をかく。そして、こう続けた。


「そうだね。この六人。もしかしたらこれから増えるかもしれないけど、とりあえずこの


『シロちゃん』『宮弐先生』『昂月さん』『忍者ちゃん』『巳鶴』『バスケットボール』


 の六人に焦点を絞って捜査していこう」


「はーい!」


 そして僕は、パンっと手を叩いてこう言った。


「それじゃあこれで会議お開き! また明日、いつもの公園で会おう!」


 ということで、捜査が始まって二日目の会議はこれで一旦終わります。

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