第64話 美佐校の変な人たち
事件解決までに残された期間、残り七日。
僕は零くんを保健室に預けて、その場を去ろうとした。
おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーである。
そんな僕は、ドアに手をかけた瞬間に声をかけられる。
それは、保健室の先生からだった。彼女は椅子に座りながら、机に腕を置いている。
「君は優しいな」
「……?」
「私は、流れる風のように人を見てしまうのだ」
「……??」
僕は、何を言っているんだと思いながら、この気まずさを回避するためにこう述べた。
「な、なるほど」
保健室の先生はフッと笑ってこう続ける。
「君からは氷のような冷たい匂いがするな」
「ど、どういうことですか!?」
つい我慢ならずにツッコミをしてしまうと、保健室の先生は「保健室ではお静かに」と返してくる。
なんなんだこの人は!
僕は困惑しながらも、その人の机の上に置かれている綺麗な星と月の写真を見た。
そして、うう……と心を傷つけながらもこう訊いた。今気づいたが、生徒と違って先生は僕をキモがらない。大人である。
「この写真、綺麗ですね」
僕はとにかく話題を変えるために目についたものについて話を始める。小声で。
保健室の先生は微笑みながら「月を撮っているんだ。私は月が好きでね、いつもいつも、ここから撮っているのだよ」と言った。
僕は「へー」と感心しながらも、彼女のことを見る。
そして、僕は夏の大三角形と、十六夜と呼ばれるような形の月を見て、ロマンチックな人なんだなと感じる。
それと共に、ポエマーだと腑に落ちた。
これ以上話すと時間の無駄になりそうなため、僕は「いい趣味ですね」とだけ言い残して、この場を去ろうとする。
だが最後に保健室の先生から「声が低いな、風邪か?」と言われた。
僕は内心ドキドキで爆発しそうになりながら「ゴホゴホっ! 風邪ですね」と返した。
よくよく考えれば風邪ならこの場で診て貰えばいいのにと思われそうだが、とにかく僕は正体がバレないことを最優先して、この場を去る。
どこか気になる点があったように思えるが、まあとりあえずこの場を去る。
今は証拠探しが最優先である。
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突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今、一つの情報を掴みました。
「す、素晴らしい! 素晴らしいほどにピカピカである!!」
「でも疲れたよ〜!」
くぅー! と汗を拭きながらそう言った私は、全身白ずくめの謎の女の子を見た。
この子と出会って三時間。午前中をフル無視して掃除を手伝ったおかげで、私は一つのことを知れた。
「うむ、ではあの日のことを話そう! あの『無気力症候群』が起きた日と言われる8月17日の夜。私は夜の一時に学校を歩く宮弐先生を見た!」
「おお〜! てことはシロちゃんも学校にいたんだ!」
「ななな! そ、それはノーリアクション」
「ははは! リアクションが語ってるよ〜」
そう、私が話している相手は、シロちゃんと呼ばれる女の子。
孤立気味な女の子で、軽く周りから話を聞いた感じ、異常なほどの潔癖症で、
今もこうして……白い覆面に、制服の上に白い清潔な服を着るなど、明らかに汚れを警戒している見た目をしていた。
他には常に消毒液を持ち、腰のポーチには掃除道具一式を携えていた。
それを見た私は怪しいと思い、ふと事件が起きた日のことをネタに話しかけたのだ。
するとわかりやすいほどに動揺したので、話を聞き出そうとしてこうして一部屋を掃除したのである。
なぜ、掃除なのかって?
それはね、シロちゃんは潔癖症なのに掃除が大好きな、自分を顧みない優しい女の子だからである。
まずは、歩み寄りから始めないとね。
私は二つも情報が取れたことに歓喜し、内心ガッツポーズをしていた。
そんなシロちゃんから、「ま、まあいい! これはお礼である!!」と言われながらアニメのシールを貰った。
なんだろうと思いながらも、私はそれを胸ポケットに入れる。
「ありがとう!」
「いやいや、こちらこそありがとう! おかげでピカピカになった!」
埃一つない床を舐め回すように見て、ハアハアと息をするシロちゃん。
女の子がしてもいいのかなと疑問になるくらい、お尻をフリフリ動かして夢中で床の臭いを嗅いでいた。
シロちゃんは変な女の子だけど、優しい子です。
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保健室の先生に風がどうのこうのと言われたので、なんとなく風に吹かれたくなって中庭へ。
僕はそこで、もうすぐ昼になるな、などと思いながら証拠品を集めるために花壇を眺めていた。
おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は空錠鍵斗。『鍵使い』であり、アークロックのリーダーである。
しかし、証拠はなかなか見つからない。
当たり前ではあった。
犯行現場すらわからないのだから。
しかし、僕にはコミュニケーション能力がないため、陽向さんのように聞き込み調査は上手くできない。
だから、こうするしかないのだが……証拠集めは上手くいかない。
「……?」
ふと、黒くて硬そうなものを花壇の中から見つける。
僕はなんだろうと花の間に手を伸ばして掴み取った。
それは……柔らかくて黒い……
「撒菱のぬいぐるみ?」
ガチャから手に入れられそうなプニプニした撒菱であった。
刹那、素早い風が僕に近づく。
僕は……いやオレは警戒し、素早く身をよじった。
「なんだ!?」
そして、その風の主は現れる。木の上に立ち、長い布のマフラーをなびかせ、口元は黒いマスクで覆っている。
そんな、そんなまるで忍者な女子高校生は、こう言い始めた。
「私の奇襲を避けるとはな。何者だ? 貴様……でござる」
「……こっちのセリフだ」
その忍者のような女子高校生は冷静にこう返してきた。
「私の名前などどうでもいいでござる。そんなことより、その限定品の撒菱を返すでござる」
「え、ええ!?」
「返すでござーるっ!!」
「ひ、ひぃ!」
僕はその気迫に押されて、はい返す、返します、とその柔らかい撒菱を返した。
スタッと木から降りた忍者のような女の子は、こちらに近づいて来て、僕の手から優しく撒菱を回収する。
そして、「さらばでござる!!」などと言いながら消えた。
なんだったんだ、あの女の子。
僕は、夏の暑さを忘れさせてくれるような風に当たりながらそう思った。
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突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今、一つの情報を掴みました。
「う、うっひょおおおおおお! こ、これは、これは限定品の『カスミかすみの霞原事件』(超人気なアニメ)のシールじゃないですかー! うっひょおおおおお!!」
とんでもないくらい興奮しながらそう語るのは、昂月という女の子。
メガネをかけており、でも髪はお嬢様らしく綺麗で、しかしオタクという、愛らしい子であった。
「これ、これくれないですか!? 私、どうしても欲しいんです!!」
「い、いいけど、なんでそんなに!? 限定品なのかな!?」
私がそう訊くと、彼女は「そうなんです! これは8月17日の夜限定で駅で売られていたチョー限定品なんですよー!!! ウヒョー!!!」と言い始めた。
私はその日付が気になり、こう訊き続ける。
「8月17日? なんか用事でもあったの?」
「その日は遅くまで用事で学校まで残ってたんですううううううう!! だから、だから買えなくてええええええ!!
お願いです! 譲ってください!!」
頭を下げられ、私は「いいよ」と反射的に答えてしまった。
でも、情報を得られた。彼女は、8月17日に学校にいた。
私はよし! と思いながら嬉しそうに頭を下げる彼女を見て、苦笑いを浮かべた。
なんだか個性の強い子だな〜、と思いながらも、私は事件の真相に近づけている気がして、ちょっとワクワクしていた。
まだ今日は終わらないけど、聞き込み、頑張っていこうと思います。
「よっしゃあああああああ!!!」
昂月さんは、嬉しさのあまり、窓の外へ向けて吠えていた。




