第63話 レイナ親衛隊
事件解決までに残された期間、残り七日。
僕は陽向さんと共に登校していた。
なぜ夏休みにも関わらず学校に行っているのかだって?
それはな……
「今日も頑張って、『無気力症候群事件』の真相を……暴こう」
「うん……!」
僕は女装までして、夏休みという人が少ないタイミングで女子校に潜入するからだ。
決して変態ではない。
『無気力症候群』と呼ばれている、願いが奪われたように無気力になる人がこの学園、美佐校限定で増えているため、それを調査するためなのである。
今日も今日とて、相棒である陽向さんが僕の部屋に来て、メイクをしてくれた。
なんとなく慣れたから昨日よりも緊張しなかったけど、それでも朝から女子と会うのはなんだか緊張する。
そんなことどうでもよくなるくらい、僕は足に蒸れを覚えた。
「……」
そう、タイツの中が蒸れ蒸れなのである。今は夏。なのに、男と判明してしまうほど格好いいのであろう足を隠すために……タイツを履いている。
このせいで、なんだか心まで女の子になった気さえするのだ。
ウィッグも熱いし、タイツも熱い。流石にこれ以上はしんどいので、パットは遠慮してつけていないが……それでも女の子は大変だと感じるほど僕は熱にうなされていた。
でも、朝はまだマシな方だ。
昼がやばいな。
などと考えていると、約束の場所に穂火ちゃんがやって来た。
今僕たちがいるのは公園であり、一旦ここに集合して美佐校に潜入しようと昨日話していたのだ。
そして、やって来た穂火ちゃんは何故か台車を転がしており、その上には零くんが力尽きたように寝転んでいた。
相変わらず、男にも関わらず、女王様のように美しい容姿であった。
そんな彼は、喋らない。
僕は不思議に思い穂火ちゃんを見た。穂火ちゃんは言う。
「来る途中に……極度の緊張で倒れました」
陽向さんは冷静にこう返した。
「じゃあ、保健室に連れて行こうか」
「はい」
冷静に話す二人を見て、僕は焦ってこう言った。
「だ、大丈夫なの!? その措置で!?」
おっと、自己紹介が遅れたな。
僕の名前は空錠鍵斗。アークロックのリーダーである。
そんな僕は、みんなを引き連れて美佐校に今から潜入する。
昨日の失敗を取り返すために。
「大丈夫……なんじゃないですか?」
その、穂火ちゃんのドライな返事を聞きながら、僕は零くんのことを思った。
なんか最近、零くんが不憫に思えてきた。
穂火ちゃんって、ナチュラル鬼畜なのかもしれない。
そんな感じで、潜入二日目が始まります。
□■□■□
空錠鍵斗、陽向灯里、山田穂火、水沢零はそれぞれに分かれて動くことになり、水沢零は保健室にいた。
そんな零は、ベッドに寝そべりながら女の子に囲まれている。
「大丈夫なのかしら?」
「いえ、こんなことが起きたのは、何かあったに違いありません!」
男というものに慣れてなく、積極性など出せないひ弱な子が多いこの学校だが、零にはそれらを無視させるほどの魅力があるらしく、学園の女の子の間で零はたった一日で有名人になっていた。
それも……本人にとっては悪い方向で。
「それにしても、やはり眠りから覚ます方法はき……すですわよね?」
「き、キスですの!?」
「きゃ! なんて大胆!!」
眠りにつく水沢零を他所に、女子生徒はキャッキャっと会話を楽しむ。
一人が我慢できなくなったのか、キスしようとガッと近づいた。
その目は血走っており、その必死感たるや、断食二日目の獣のようである。
そんな女子生徒を、蹴り飛ばした女がいた。
「ウェイウェイウェイウェイ!」
軽快な声と共に、爆音とも取れるドラムの音色が聞こえ、それに追随するようにギターとベースの音が響く。
保健室の先生が「保健室ではお静かにー」とメガホンを使って言ったが、それは徒労に終わった。
キスをしようとした生徒は、その自分を蹴飛ばした女を睨む。
だが、音楽と共に現れた女は、まるでそんなこと気にしないように扇子を広げ、こう言ったんだ。
その扇子は金ピカで、髪型はドリルのようにくるくるとしている、空錠鍵斗に教えられた、お嬢様そのもののような姿であった。
「おーほっほー! 貴女! 今レイナ様にキスをしようとしましたね!」
周囲の女子がこう言い始める。
「あ、あなたは!!」
「疾坐馬工業のご令嬢! 疾坐馬巳鶴!」
「あの我儘お嬢様で有名な!?」
その悪口のような説明口調の女子に、巳鶴と呼ばれた女子はこう言った。
「おーほっほー! その巳鶴様であります! 貴女方、わかっているのなら話は早い。
今すぐに、レイナ様から離れろ」
「レ、レイナ様!? レイナ様って誰のことよ!」
当然のように反応する女子生徒。だが巳鶴はふっと笑ってキリッとした表情でこう答えた。
「昨日、その方を追いかけていたら教えられたのよ!
僕の名前はれい……れ、レイナだ!
ってね!」
じゃーん……と楽器の音が静まり、ギターを弾いていた女子生徒はこんな風に言う。
いい加減うるさかったので止まってくれて感謝だった。
「巳鶴様、おそらくあれは偽名……」
「そんなことありませんの! レイナ様は嘘などつきませんわ! おーほっほー!」
高笑いした巳鶴は、バシンっと扇子を閉じて、鋭い眼光を見せながらこう続けた。
「とにかく! 貴女方は去りなさい。
レイナ様の唇を奪うなんて、言語道断」
「……ッ!」
まだ権力を持っていないのか、睨まれた女子生徒はそそくさと泣きながらこの場を去った。
いかにも私たちは酷いことをされたと言いたげだが、勝手にキスしようとした今逃げた女子生徒の方が悪いのである。
さて、そんな女子生徒を追っ払った巳鶴は、静かに零の目覚めを待った。
そして、ついにその時は来る。
目を覚ました零は、ゆっくりと横に座っていた巳鶴を見る。
「……だれ!?」
驚く零を横に、巳鶴はドラム、ギター、ベースの音と共にマイクを通してこう言った。
「我々はレイナ様親衛隊。なにとぞ、どんなご命令でもお申し付けください」
巳鶴はそう言って、カーテシーをした。
零は……困惑する。校内アナウンスで、「ピンポンパンポーン。保健室ではお静かに」と流れた。
そんな中で、零は必死に気絶を抑える。
だが巳鶴はそれを察したのか、距離をとってこう述べた。
「私たちはレイナ様の親衛隊。不用意に近づくなどはしませんわ。それはそうと、ご命令を。なんでもしますわよ」
なぜ、巳鶴という人間がここまでするのかわからないが……これが人の持つ魅力の魔力なのだろう。
零には、どうにも人を依存させる危ないフェロモンでもあるようだ。
そんな零はまだ心臓をバクバクさせているような表情を見せていた。
はずなのに、そっと落ちついて、俗に言われる格好いい表情でこう述べたんだ。
「じゃあ、教えて欲しいことがある」
「なんなりと」
「……『無気力症候群』について」
「かしこまりました」
巳鶴はそう返し、ふと好意を向けるようなトロけた表情でこう続ける。
「活躍が認められた際には、ご褒美でもくださいまし」
巳鶴の後ろにいる女子三名も、どこか期待したような表情を浮かべていた。
反対に、零は菩薩のような表情を見せる。
零は、レイナ親衛隊という強力な味方を得たようだった。




