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アークロック  作者: 加鳥このえ
第三章 女子校潜入編
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第62話 ユーフォニアム

 夜。


 僕は部屋のベッドに寝そべりながら、スマホでヌーチューブを視聴する。


 無駄な時間に思えるが、この息抜きが案外リラックスできる。


 であるが、先ほど視聴した動画の内容すら思い出せないのは流石にヤバいだろう。


 僕は焦燥感を覚えながら、そっとベッドから起き上がった。


「なあ鍵斗(けんと)


「……!?」


 突然後ろから声をかけられ、僕はガバッと振り向く。そこにいたのは師匠だった。


 陽向(ひなた)さんに続き師匠まで……一体なんで無断で人の部屋に入るのだろうか。


 僕は「何でここにいるんですか!?」と言いながら、師匠を見る。彼女はフッと笑いながら、僕の横に座った。


 ベッドが(きし)む音がする。


 師匠は、こう述べ始めた。


「なあ、鍵斗。リーダーは大変か?」


 その声は、どこか優しくて、そして温かい。


 上司からの叱責のようなそれではなく、親からの心配のようなものだと感じた。


 だから僕はそっと微笑んで、こう返したんだ。


「大変ですよ。みんな何かしら弱点を背負っているチームなんですから」


「そうか」


 師匠は、何を話せばいいのかわからないのか、そう言って黙った。


 僕はそんな師匠をじっと見つめる。


 久しぶりに、こんなにマジマジと彼女の顔を見た。


 三十歳で、でも肌は十代のように……いや、二十代のように若く、髪もさらさら。


 肩くらいまでのナチュラルボブのような髪型は、どこか仕事ができる雰囲気を持っていた。


 しかも今はスーツ姿なため、余計にそう思う。


 そんな師匠は、両親を交通事故で失った僕を二十歳の時に引き取ってくれた。


 十年間共に過ごしてきた仲だからか、どうにもこうにも仲がいい。


 でも、僕たちの関係を形容する言葉はないだろう。親でも子でもないし、友達でも仲間でもない、そんな、不思議な関係。


 でもさ、師匠はいつも……僕を心配してくれるんだ。


 だから僕は、そっと微笑みこう返せた。


「そんな、大変なチームだけど……僕だって弱点を背負っている」


「……鍵斗」


「そんな僕を支えてくれるいいチームなんです」


「そうだな」


 師匠は、満足したのかそっと口角を上げる。そして僕に名言を(さず)けてくれた。


「昔、ある恩師に言われたんだ。凸凹(でこぼこ)でいい。完璧な四角形より、穴がある方がパズルのように繋がることができる。そんな穴となる弱さは、さらに大きな一枚の絵を作り上げる、大切なピースなんだ……ってな」


「……師匠」


 僕はその言葉に感動した。


「しかし、まだ四つのピースしかないようだがな」


「師匠……」


 僕はその言葉に落胆した。


 でも、それでも僕を励ましに来てくれたんだと察したから、僕は笑顔でこう返すことができたんだ。


「お腹空いたから来たんですよね、わかります。今日のご飯は豚の生姜焼きですよ」


「ち、違う! 私は鍵斗を励まそうと……!」


 僕は、陽向さんのようなイタズラな笑みを浮かべる。


「……まったく」


 僕の意図に気づいたのか、師匠も呆れたようにそう言った。


 まだまだ、甘えたい盛りなのである。そんな僕に、師匠はこんな突き刺すような一言を残した。


「ちなみに、今の女子校潜入ミッションだが……夏休みが終われば捜査は困難になると考えられる。君たちも学校が再開するしな。つまりだ。夏休みが終わるまで残り七日、七日のうちにこの事件を解決しろ。それが望ましい」


「……師匠?」


「できるのだろう? アークロックなら」


「そ、そんなこと言ってな……」


 師匠は、イタズラな笑みを返してこう言った。


「やってみせろ、空錠鍵斗(くうじょうけんと)


「し、師匠……!」


 僕はそれを、激励と受け取ることはできなかった。


 無理難題を押し付けられたと思いながら、トホホと心の中で泣く。


 でもさ、期待されてるのはどこか悪い気はしなかった。


「それじゃあ、ご飯を食べよう。準備してくれ、鍵斗」


「わかりましたよ」


 僕は、トボトボと自室を出てリビングへ向かう。


 生姜焼きの、香ばしい匂いがした。


 ■□■□■


 突然ですが自己紹介を!


 私の名前は陽向灯里(ひなたあかり)


 現在私は、お風呂上がりでスキンケア中です。


 鏡を見ながら化粧水をつけていると、突然スマホが震えだす。


 私は何だろうと思いスマホを取る。すると画面には『宮島霊奈(みやしまれいな)』と出ていた。


 そう、私の師匠である。


 何だろうと思い、私はスピーカーモードで電話に出た。


「あ、あー、繋がってるか?」


「はい! 繋がってますよ〜!」


 私はニコニコとしながらそう返した。すると、霊奈さんはこう言ってきた。


「突然の連絡すまねえな。で、修行の様子はどうだ?」


 私は桃木島(ももぎじま)を出てからこれまでを振り返る。


 そう、私だけ秘密裏に修行を続けており、アークを取り戻そうと頑張っているのであった。


 しかし、修行の成果は一向に現れず。


 霊奈さんの作った軽い修行内容である、ヨガや瞑想(めいそう)などのプランを見ながら、私はこう返した。


「実感はないです。正直、意味があるのかすらわからなくなって来てます……」


「珍しく弱気だな。だが、意味はあるぞ。アークは心に関係している。『願い』から生まれる力だしな。つまり、アークを取り戻すには心との対話は必須なんだ」


「わかってます。なんなら、ぶっちゃけヨガとか瞑想はなんかいい感じに体調良くなりそうなので好きです。でも、そのための早起きが大変なんですっ!!」


「そうだな、ああ、そうだな。わかる」


 私は鏡に映る自分を見た。スキンケア中だからか、髪は上げており顔はすっぴんである。そんなことはどうでもよく、なんだか悲しそうな顔をしていた。


 もう、立ち直ったつもりだったのに。


 意外と、アークを失ったことは私にとって相当こたえるものだったのかもしれない。


 でも、何でこんなに苦しいんだろうな。


 私はその理由を見つけられずにいた。


「まあいい。陽向、とにかく自分に正直になれ。自らを偽っても得はないぞ」


「はい」


 私は真剣な顔で頷いた。


 そして、霊奈さんはこんなことを言う。


「それはそうと、陽向が送ってくれたこの顔パック、かなりいいな! シワが減ったぞ!」


「おお、そうでしょう! しかもニキビも抑えるんですよ!!」


 私はニコニコしながらそう返す。ビデオ通話じゃないからわからないけど、この霊奈さんの声の踊りようからして、相当効いたのだろう。


 恩返しとして送って良かったとしみじみと感じた。


「なんとプレミアム版は税込五千円! 今なら三十枚入りで二千円です!!」


「か、買ったーっ!」


 私はそんなノリノリな霊奈さんの声を聞いて、あははと笑った。


 ふと窓から見えた月は、大きな満月になりかけだった。


 もうすぐ、八月も終わる。


 あと七日もしたら、九月と共に……学校が始まるだろう。


 私はそんな現実に襲われながらも、ふと微笑む。


 今宵を彩る夜の空は、不思議なくらいに晴れていた。

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