第61話 何の成果も得られませんでしたー!!
「い、嫌……」
その、『いのちゃん』と呼ばれた女の子は美佐校の制服を着ており、その表情は……私たちを見た困惑と恐怖に満ちていた。
「……え、え!?」
『いのちゃん』はパニックになりかけており、どうやら私たちの侵入がバレてしまったのだと私は察した。
でもさ、私がフォローするより前に、穂火ちゃんがこう言ってくれたんだ。
成長したんだね、と思いながらも……私はその発言に冷や汗をかいた。
「いのちゃん! 久しぶり!」
「ほ、穂火……!? なんでここに!」
「あのね、あのね! 私ね……!」
初めて聞いた穂火ちゃんの馴れ馴れしい声に驚きながらも、私は本当のことを言うんじゃないかと思いフォローに入ろうとした。
でもその必要はなく、『いのちゃん』と呼ばれていた人物は、「……ッ!」と言いながらこの場を走り去ったのだ。
私はマズいと思い動こうとしたが、鍵斗くんに止められた。
「待って、陽向さん」
「……鍵斗くん?」
鍵斗くんは穂火ちゃんを見る。どうやら、リーダーとして穂火ちゃんに成長のチャンスを与えたいようであった。
穂火ちゃんはそれを察したのかどうなのか、頷いて「わたし、いのちゃんと話してきます!」と言ってこの場を去った。
なんだか荒々しい始まりだけど、私は気を取り直してこう言う。
「鍵斗くん、これって……!」
「ああ、バレたんならもうしょうがない。短期決戦でいこう」
「うん……!」
私と鍵斗くんは阿吽の呼吸で素早くこの場を離れた。それも、別々の方向へ。
やることは決まっている。
単純な、『無気力症候群』についての聞き込みだ。
私はすぐさま、校舎に囲まれた中庭にターゲットを絞り、そこへ向かった。
教室は自習に勤しんでいる生徒が多く、廊下は軽い休憩中の生徒が多い。そしてわざわざ中庭まで行く生徒は……完全なる息抜きをしていると考えたのだ。
やっぱり、暇な人の方が話は聞いてくれるから。
私は「よっしゃー!」と言いながら階段を降りた。
□■□■□
空は赤く、烏が鳴いている。遠くで鳴いていた蝉の声は、どこかノスタルジックさを感じさせる。
突然ですが……自己紹介をー!!
私の名前は陽向灯里。
敗北者ですッ!!!
なぜかというと、私たちは……夕方になったにも関わらず、何の成果も、得られなかったからであるー!!!
現在時刻19:00。場所は美佐校を後にして公園。
私は目の前のベンチに座る二人の男子を見た。
鍵斗くんは空を仰ぎながら絶望し、零くんは地面を見つめながら肩を落とす。
うちの男子にとって今回のミッションは、最高難易度のようだった。
鍵斗くんは「無理だ……。話しかければキモいと言われ、歩き回っていると用務員さんに見つかり危うく正体がバレるところだった。どうすればよかったんだ」と頭を抱えてそう呟いていた。
一方零くんは「女の子の匂い、女の子の声……離れない、頭から消えない……」と言いながら今にも吐きそうな表情で俯いていた。
私は「あちゃー」と言いながら自分の頭にペチンと手を当てる。
だが、最も『あちゃー』なのは、男子たちではない。
穂火ちゃんである。
何があったのか、『いのちゃん』を追いかけ、帰ってきた穂火ちゃんは心ここに在らず状態で、何を聞いても反応が遅れていた。
『いのちゃん』について聞こうとしても、珍しく口を開こうとせず、はぐらかす始末。
私は『いのちゃん』の件に深く踏み込むのは時期尚早と判断し、今は一歩引いて穂火ちゃんを見守っている。
つまり何が言いたいかというと……。
「全滅……だね」
「くっ……!」
「がはっ……!」
男子二人が反応を示した数秒後に「は、はい……」と穂火ちゃんは答える。
これは思ったよりもやばいかも。
穂火ちゃんはもちろんとして、零くんは女の子に囲まれすぎて体力が底をつきそうになっており、鍵斗くんは調子が悪そうだ。
でもさ、それで私まで空気に飲まれちゃ、本当に全滅だから。
「いよーっ!」
「……!?」
突然の私の歌舞伎ポーズに驚く鍵斗くん。
そして私はこう言った。
「いよっ! 我、陽向灯里で候! 我、調べたことを語るでござぁぁああるっ!」
寄り目でそう言ったせいか、鍵斗くんは「……え?」と半笑いで答えてきた。零くんは驚きなものを見たように、目をカッ開いて私を見た。
そんな場面で私はこう言う。
「聞き込みの結果わかったことは三つ。一つ目は、被害者である三名は同じ学年であるということ。二つ目は、その事件は六日前から始まり、二日間隔で起こっているということ。三つ目は、それらは全て夜に起こっており、朝、登校してきた生徒が気力を失ってボソボソと何かを呟く被害者を見つけたことで、事件が発覚しているということ。いよーっ! これが我が聞いた事件の情報なりーっ!」
べべんっと寄り目で歌舞伎ポーズを取った私。
なのに誰も反応してくれなくて、カーカー、と烏の鳴き声だけがこの場に残った。
「……」
「……」
鍵斗くんは真顔で私を見つめ、こんな風に返してきた。
「すごいよ、陽向さん……!」
「い、いよー……」
そして鍵斗くんは私のボケをスルーし、興奮したように立ち上がりこう続けた。
「ここまでわかってるなら、捜査のしようはある。そうだよ! 陽向さんはコミュ力MAXなんだから、こういうのは得意なんだ!」
私は心の中で、ツッコミは……? ツ、ツッコミは……?? と呟く。
でも鍵斗くんは私のボケを全スルーするので、私はそっと歌舞伎ポーズをやめて、お尻の近くで手を組んで無かったことにした。
まったく、早急にツッコミ役を勧誘する必要がある。
私は少し頬を赤らめながら、鍵斗くんの話を聞いた。
「それで、他には知り得たことはある?」
私はこう返す。
「他にはないかな。類似した答えしか聞けなかったし、何よりみんな……噂程度でしか認識してなかったよ」
「なるほど」
なるほどじゃないよ! あのポーズはなんやねん! とか言ってよ!
とか思いながら、私は零くんを見る。
彼は、ぎゅっと拳を握りしめて目を細めていた。
一方穂火ちゃんは、何を考えているのかわからない目で、ボーっと私たちの足元あたりを見つめていた。
鍵斗くんが「ごめん!」と突然言う。
私は鍵斗くんが元気になったのを見て、内心喜びながら「謝らなくてもいいよ〜」と返す。
そう、人には得意不得意があり、今回に至っては完全アウェイな状況だったのだ。鍵斗くんが活躍できなくてもおかしくはない。
でもさ、やっぱり相棒は優秀なのか、別の案を出してきた。
「僕は今日、何もできなかった。多分……明日以降も何もできないと思う」
「……」
「でも、それは聞き込みをした場合だ。陽向さん、僕は明日から別行動をする。証拠となる物品を、事件現場から探してみるよ」
私はその答えを聞いて、微笑んだ。
「了解っ! じゃあ私は、その詳しい事件現場の確認をするね!」
鍵斗くんは頷いた後「よければ、被害者についても調べられそうなら調べてみて」と言った。
私は「まかせろり!」と返す。
そして私は零くんに視線を移す。先ほどから何かを言いたげな彼に、私はこう質問した。
「零くんは、何か掴めた?」
零くんは首を横に振る。その、一度も私と目を合わせようともしない姿を見て、私は彼の気持ちを察した。
確かに、女の子に囲まれる場所に連れて行かれて、恨みがあるのだと考えることもできるだろう。
でも零くんはこう見えてワンコ属性で、鍵斗くんにゾッコンだから、鍵斗くんすら巻き込む恨みはしないはずだ。
ならば答えはなんなのか。
私はその気持ちがよくわかる。
鍵斗くんは私の視線の先に気づいたのか、こう言い始める。
「零くん、しんどいなら明日は……」
でも私はそれを止める。
「鍵斗くん」
「……陽向さん?」
そして私は、零くんにこう言った。
「張り切ってこー!」
明るい声色で、でも顔はくしゃっと強張ったような真面目さを露わに、そして極め付けは親指を上げて見せる。
そう、彼は……。
「ごめん……なさい」
私にはよくわかる。
零くんはね……
悔しいんだ。
何もできなかった事実に、苦しんでいたんだ。
だからか、零くんは元気を取り戻してこう言った。
「陽向先輩、ありがとうございます。鍵斗先輩! 僕、明日も来ます。必ず何かを掴んでみせます!」
キリッとしたイケメン表情を見せる零くん。私はそっと目を閉じて、よし、と思う。
鍵斗くんは「……うん。うん! わかった! 頑張ろう!」と返していた。
私は少し離れていた穂火ちゃんに近づいて、こう言った。
「大丈夫?」
返事は返ってこない。でも、数秒後に「あ、は、はい!」と言われた。
これ、すごくマズいかも。
そう気づいても、私は穂火ちゃんを止められない。なぜなら彼女は……行く気満々だからだ。
「み、みなさん! ファ、ファイトー!」
「おー!」
穂火ちゃんは零くんと鍵斗くんと共に空に向かって拳を掲げる。
私も小さく拳を作って空に掲げた。
穂火ちゃんは「ぐへへ」とその行為が嬉しいのかニヤニヤ笑っていた。
私は、ま、ヤバくなったらその時にどうにかしよう、と考えて、この場をしめる。
「よし! じゃあ明日もこの公園に集合! 朝から潜入しちゃうよー! それじゃあ! また明日ー!」
「はい!」
「さよならです」
穂火ちゃんと零くんはそう言って二人で並んで帰った。残った鍵斗くんに私はこう言う。
「鍵斗くんは家にいてね。メイクしに行くから」
「……え!?」
私はニヤッとした笑顔で返す。
今回の事件はなんだかミステリーのようで、小説好きとしてドキドキしちゃう。
でもさ、桃木島を超えた私たちなら、なんとかできるよ。
私はそう思いながら、鍵斗くんと一緒に帰った。
ちょっとだけ、ドキドキしながら。




