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アークロック  作者: 加鳥このえ
第三章 女子校潜入編
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第58話 雲になろうよ

 僕の名前は空錠鍵斗(くうじょうけんと)。『鍵使い(キーユーザー)』である。


 現在僕は、陽向(ひなた)さんと一緒に『美佐土女子高等学校みさどじょしこうとうがっこう』、略して美佐校(みさこう)前に来ていた。


 校門を前にして広がる大きな校舎からは、私立の圧倒的な財力を感じる。


 ここは女子校であり、中高一貫のお嬢様学校であった。そのせいか、集まる生徒はお金持ちの箱入り娘が多く、校舎は綺麗に(たも)たれている。


 そんな学校だが、つい最近事件が起きたらしい。


 それについて僕たちは調べに来たんだ。


 一時間ほど前。


 急に僕の部屋に来た陽向さんを一回部屋から追い出して、僕は私服に着替える。その後、僕は陽向さんに休むように伝えたが、彼女はそれでも行きたいということで、アークロックの基地に陽向さんと共に向かった。そこで今回の大事件について聞かされたのだ。


 どうやら、ニュースでも広がっていたらしいが、美佐校内で『無気力症候群』というものが流行っているらしい。


 表向きには思春期特有のものとして結論付けられたが、師匠いわくアークリオン関係らしい。


 そして最もこれを大事件たらしめているのが……



 アークリオンの反応が不自然に消滅した



 ということだ。


 誰かに倒される、もしくは『閉じられる』などをしないと消えないアークリオンだが、不思議なことに反応が消えたと師匠は言う。


 しかも、倒される時の(はじ)けるような消失反応ではなく、ぬるっと、まるで元々いなかったかのような消失反応が出ていたと語っていた。


 つまり、これまでにないアークリオンの事件である可能性が高く、アークリオンを視認できないという初めての問題にぶつかっているのだ。


 これについては何もわからず、その調査のために美佐校(みさこう)を訪れることとなった。


 そして、現在に至る。


 アークロックの基地から近いこの学校は、どうやらかなり排他的(はいたてき)らしい。


「あの男の人、ずっとこっち見てるよ」


「いやね、変態ってやつよ」


 本当に酷いことを言うヤツがいたものだ。校門前からじーっと生徒を観察していただけなのに、グラウンドで練習していた陸上部の女生徒はそんなことを言ってきた。


 僕が「居心地が悪いよ……」と呟くと、陽向さんが「確かにそうだね」と言って、僕の手を不意に握ってきた。


「……!?」


 驚く僕を他所(よそ)に、陽向さんは涼しい顔で「それじゃあ、散歩のふりをしよう」と言って僕を引っ張った。


 後ろで、「彼女持ちみたい」「じゃあ勘違い?」みたいな声が聞こえる。ありがとう、陽向さん。


 やっぱり君は……感情の扱いが上手い。


 そして手を離された僕は、陽向さんに並んで美佐校の敷地外をぐるっと回るように散歩した。


「こりゃ、調査は無理だね」


 その結果、わかったことがある。


 調査は無理だということだ。


 結論から言っても伝わらないだろうから、過程を述べる。


 僕と陽向さんは散歩を終え、近くの公園のベンチに座りながら、交互にこう言った。


「この学校、セキュリティがかなり厳しい」


「二つの校門前にそれぞれ二人の警備員がいて、こっそり入れそうな穴すらなかった」


「整備が行き届いているんだろうね。ホームページを見てもそれが大々的にアピールされている。それに加えて多くの監視カメラ」


「入ったらすぐにバレちゃう」


「それじゃあ校門前で地道な聞き取り調査しかできないな」


「でも……不審者扱いで怒られちゃう」


「詰み……じゃない?」


 僕は静かにそう呟いた。陽向さんは、「うーむ」とぼやく。


 さて、ここで『アークリオンというヤツがいてそれを調査したいんです!』と言ったところで変なやつと思われるだけだし、そもそもアークのことを広げたくないため、この手は使えない。


 あくまで隠密に、アークリオンの謎の消失について調べ、原因を取り除き、『無気力症候群事件』を終わらせる。


 それが今回のミッションなのに……初手で(つまず)いた。


 ベンチに背中を預けて、ふと空を見てみる。


 たくさんの雲が流れていて、なんだか(いや)された。


 陽向さんも「うぐー」と言いながら空を見る。そしてこんなことを呟いた。


「雲ってすごいよね。どこまでも行って、どんな姿にもなれる」


「だね。今見てる雲も、数分後にはどこかへ行って、どれがどれだかわからなくなるんだよ」


「たくさんあるからねー」


「ね」


 僕は自然とそう返した。だが横にいた陽向さんが「それだあああああああ!!」と急に叫んだせいで、ビグッ! っと体を揺らしてしまう。


 驚きすぎてちょっと口噛んじゃった。


 そんな僕を無視して、陽向さんはこう言う。


「それだよ、鍵斗くん!」


「……へ?」


 陽向さんは変なことをするし、言う人だ。そこが面白くて好きでもあるんだけど、突拍子もない話について行くのはびっくりする時もある。


 でもさ、陽向さんは思いつくんだよ。


 いつも僕たちが考えもしないような、名案を。


「雲になればいいんだよ!」


「……ど、どういうこと?」


 陽向さんは立ち上がり、こう力説する。


「鍵斗くん、今はなんの時?」


「え? えっと、アークリオンの調査?」


「違うよ、もっと広く」


「もっと広く?」


 僕は少し考えて、これを思いついた。


「そうか! 夏休みだ!」


「そうだよ! 美佐校(みさこう)の生徒は優秀だから、夏休みだけど自主的に学校に来ている人は多い」


「でもそれの大半は自習だ」


「そう。だから、先生は少ないの。かといってゼロではない。もちろん職員も通常の日よりは少ない」


「今なら潜入してもバレない?」


「うん。雲も沢山あるからどれがどれだかわからなくなる。つまり、私たちも生徒に(まぎ)れることができれば……!」


「生徒に紛れる!? まさか……!」


「そう、変装だよ! 雲みたいに形を変えて、こっそり入る」


「そして流れるように調べて消えれば……!!」


「パッと私たちの存在は無かったことになる」


「……っ!!」


 僕は無意識に拳を作って喜んでいた。まさか、こんな手があったなんて。


 やっぱり陽向さんはすごい。


「……でも、制服ってどうやって仕入れるの?」


 僕が不意にそう()いたら、陽向さんは目を()らしてこう言った。


「それは……まあ、みんなで考えよう」


 僕は、活躍してるのにそんな素ぶりも見せない彼女が面白くて、「はは」っと笑った。


 そして、こう返す。


「それじゃあその辺は僕に任せて」


「いいの?」


「うん。陽向さんはアイデアを出してくれた、それを形にするのは相棒である僕の仕事だ」


「鍵斗くん……!」


「それに、潜入するのは陽向さんだろうしね」


 僕は心の底からそう思っていたので、軽い気持ちでそう言った。だが陽向さんは呆然としたかのようにこう返してくる。


「え? 鍵斗くんも潜入するよ」


「……僕、男だけど」


「うん」


「……え?」


 ここは女子校。当たり前だけど、男子が侵入したらおかしいのだ。


 だから僕は外からサポートしようと考えていたのだが、どうやら陽向さんの考えは違っていたらしい。


「鍵斗くんも女装するんだよ! もちろん零くんも! 明日までにはウィッグとか準備しとくから、そっちは私に任せて!」


「……は、はあっ!?」


「私メイク得意だから、大丈夫だって!」


「え、ええ!?」


 僕は溌剌(はつらつ)とそう言ってくる陽向さんに背中を押されながら公園を後にする。


 一体これからどうなるのか、すごく心配だけど……とりあえずやることは決まってよかった。


 僕はそう安堵した。


 草木も、笑っている。

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