第56話 幸せを守る仕事③
突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今……猫ちゃんを探していました。
「プリンちゃ〜ん、出ておいで〜」
桃木島での体験が終わり、帰ってきた地元で、相も変わらずアークロックの活動をする。うむ、いい夏休みである。
そんな夏休みも、もうすぐ終わる。残りの夏休みは十日であった。
いやはや早い展開である。じきに学校が始まるというのだから、少し億劫に感じるな。だが、私は楽しみも感じていた。なぜなら、夏休み明けから少ししたら修学旅行があるからである。
いやいや陽向さん、そんな思考に耽っている場合ではないですよ。
猫を探さないといけないのだ。
なぜ、こんなことになったのか。それは一時間ほど前に遡る。
□■□■□
私、陽向灯里は鍵斗くんや穂火ちゃん、零くんと一緒にアークロックの基地でゆっくりしていました。
「昨日食べた饂飩、美味しかったね〜」
「はいです」
穂火ちゃんがそう答えてくれる。和気藹々と思い出話に花を咲かせていると、シーラさんが部屋に入ってきてこんなことを言った。
「お前たち、帰ってきて早々だが……アークリオンが出た。出動してくれないか?」
私は、よしきた! と思いながらこう答えたのだ。
「久しぶりのアークリオン退治!」
「幸せを守る仕事ですね!」
私と穂火ちゃんのテンションは上がる。そんな私たちを見た鍵斗くんと零くんは、なんだかやれやれと呆れたような目をしていた。
鍵斗くんは「元気があるね」と言う。私はなんだか馬鹿にされたような気もしながら、とりあえず男二人を連れてアークリオンの元に向かった。
アークロックの基地を出る前に、机の上で寝転んでいたシャミィに「行ってきます」と言う。シャミィは「にゃ〜」と答えてくれた。
そして向かった先は公園。そこでアークリオンを発見する。
そこにいたのは、頭に大きなアンテナを付け、胴体にレーダーのような波状の模様を刻んでいる、全身が緑のまるで電子存在のような、身体にノイズが走っているアークリオンであった。
「なんじゃこりゃあー!」
私がそう言っている間に、アークを開けられた穂火ちゃんと零くんが炎と銃撃でドドドンっと相手を怯ませて、鍵斗くんがキーハートで頭を切って倒していた。
そして鍵斗くんが「いきなり第二形態?」と呟く。
忘れていたが、アークリオン退治には二つの段階があり、一回目は人に取り憑いたアークリオンで、人とアークリオンを分離する必要があるのだ。
でも、今回は分離後だった。鍵斗くんが分離しているのは見てないし、なんでなんだろう……と思っていると鍵斗くんがこう答えてくれる。
「プラネッツが変なことを企んでるのかもね。それよりも……この辺に宿主がいるはず、探そう」
鍵斗くんがそう言うので、私たちは別れて宿主を探す。そして、気絶している女の子を見つけた。
その小学生くらいの女の子を保護し、私たちは目覚めるのを待った。
スマホを触りながらダラダラ待っていると、その子は目覚め、周囲を見回した後、急に泣き始める。
「わーん!!」
何事かと困惑するが、アークは願いから生まれる、アークリオンはアークから生まれるという定義を元に考えれば、
この少女は何かを探しているのだと推測できた。
レーダーのアークだし。
だから私は、彼女の表情から察した寂しさも加味して、大きな泣き声に負けて耳に指を突っ込んで軽く音を防ぎながら「誰かと離れたの?」と声をかけた。
すると少女はこう言う。
「プリンと別れたの……私の大切な、猫!!」
それを聞いて、私たちアークロックは互いに目を合わせる。
そして、頷いた。
そう、アークロックは幸せを守るチームである。ゆえに、アークリオンを退治した後の、困り事の解決こそがメインイベントなのであった!
そうして……現在に至る。
つまりそういう理由で私たちは猫のプリンちゃんを探しているというわけだ。
だが……「見つからない……」。
どうすれば見つけられるのだろうかと考え、私は公園の周囲にいる人に聞き込み調査をしようと思いついた。
しかし、いくら聞き込みしたとてプリンちゃんの目撃情報は得られなかった。
手応えを感じられなかった私は諦めて、一旦少女と話してみることにする。
ベンチに座って泣いていた彼女の横に座り、そっと背中をさする。
公園では、私の仲間が働いているのが見えた。男子トイレから出てくる鍵斗くん。滑り台に登って高いところから探している穂火ちゃん。草むらを探している零くん。
みんな、みんな頑張っていた。
そして私はというと、手応えを感じられずに少し焦る。
私は、泣き止んだ少女にこう言ったんだ。すっかり忘れていたが、初対面の時は、まずはこれだろう。
「自己紹介がまだだったね。私の名前は陽向灯里、高校生のお姉さんだよ」
「……ぐす、お姉さん?」
「そうだよ。君はなんて名前なのかな?」
すると少女は、目元を拭ってこう言った。
「実瑠究。みんなからは、ミルちゃんって呼ばれてる」
おっと、現代のキラキラネームだ……と思いながら、私は「ミルちゃんか、いい名前だね」と静かに言う。そして、こう続けた。
「プリンちゃんとは、仲良しなの?」
するとミルちゃんは悲しみからそっと離れられたのか、私の服を掴んでこう言い始めた。その時、不自然にランドセルの横の空を掴んでいた。
「うん。ミルちゃんは私が選んだ子で、ペットショップで出会ったの。大切な家族で、いつも私が世話してた」
「……そっか」
「でも、逃げちゃった。私がアイスクリームを取りに行って、部屋に帰ったらいなくなっちゃったの」
「……じゃあ、早く見つけないとね」
私はそっとそう答えて、ミルちゃんを抱き寄せる。
まず、この会話で分かったことは……公園で別れたというわけではないということだ。つまり、この子はプリンちゃんを探してここに来たということ。
それはつまり、ここに心当たりがあるということだ。私はそれについてこう訊いた。
「プリンちゃんとはここによく来るの?」
「うん」
私は「そっか」と頷く。
だが私は見逃さなかった。彼女がプリンちゃんの思い出を話している時、彼女はランドセルの横の空間を掴むような素ぶりを見せたことを。
あのタイミングで触ろうとするのは心を落ち着かせるためだろう。きっと不安だったんだ、プリンちゃんと別れたのが。
そんな不安な時に縋るほどのもの、そしてランドセルの横にある掴めるものといえば、キーホルダーなどであろう。
いつもはランドセルの横につけていたから、咄嗟に掴もうとしてしまった。
こんなところだろう。
じゃあ何で今はないんだろうか。こういう論理的なことは、鍵斗くんの得意分野だ。だからすぐにはわからない……。
でも、諦めないよ。
私には私の得意分野があるから……それを使って、この子の心を開いてみせる。
「ねえ、ミルちゃん。もしかしてキーホルダーとか無くした?」
「……!?」
彼女は一瞬だが動きを止めた。
人の気持ちを察するのは、鍵斗くんよりも得意だから。
「無くしちゃったのか……」
私はそう言った。ちゃんと、ミルちゃんのことを見つめながら。
でもミルちゃんは顔を背ける。だから私は「お姉ちゃんもね、物よく無くす! 今日だって、スマホ無くしちゃったんだよー!」と、いーと言うように口を横に伸ばして伝えた。
するとミルちゃんはぷぷっと笑って「スマホ無くしちゃダメなんだよー!」と答えてくれた。私はそれを見て、ミルちゃんの笑顔が戻ってきてくれたことに安堵する。
それと同時に、キーホルダーが無くなったことを確信した。なぜなら、彼女のその表情の変化こそが、悩みから目を逸らした結果だったからだ。
だから私はこう言った。
「ミルちゃん。困ったら人を頼ってもいいんだよ。でも……そのためにミルちゃんも全力で協力しなきゃダメ。それが——礼儀だから」
「お姉ちゃん……」
ミルちゃんは私に体重を預けて、そっとこう言った。
「ごめんなさい」
だから私は叱らずに、こう伝える。
「それじゃあ、一緒にプリンちゃんを見つけようか! 何があったのか、教えて?」
ミルちゃんは、静かに語る。
そして判明したのは、部屋でキーホルダーを無くしていることに気づき、焦っていると、いつの間にか猫のプリンちゃんが消えたと言うことだ。
だが、これだけでは探すことはできない。
私は分かったことを鍵斗くんたちに伝えて、とりあえず地道に、『この猫を探しています!』のようなチラシを作って貼ることにした。
つまりは、今日中に見つけられないという、実質的な私たちの敗北宣言でもあったのだ。
だから私はミルちゃんに伝えることにした。ごめん、と。
夕日が照らすこの場所。どこかノスタルジックになる公園で、ミルちゃんは悲しそうにブランコに乗る。
そんな彼女に敗北を伝えるのは心苦しかったが、私は礼儀として伝えようとした。
だが、そんな時に「にゃー」と聞こえる。
「プリンちゃん!!」
ミルちゃんは、ブランコから勢いよく離れ、現れた猫の元に駆け寄る。
その猫は、キーホルダーを口に咥えていた。
「……!」
そう、プリンちゃんが公園に現れたのだ。だが私はそれ以上に、一緒にいた猫に目がいった。私はその猫の名前を呼ぶ。
「シャミィ!?」
桃木島からついて来た猫、『シャミィ』が、私たちの仕事を理解したように、プリンちゃんをここまで案内してくれたように私の目には映った。
穂火ちゃんが駆け寄って来て「シャミィ!?」と言いながらシャミィを抱える。
そんな私たちの横で、ミルちゃんは泣いていた。
プリンちゃんとの再会を喜び、心の底から安堵していたのだ。
私はプリンちゃんからキーホルダーをそっと受け取り、ミルちゃんに見せる。
「あ……」
私はメルヘンなことを口にした。
「プリンはもしかしたら、キーホルダーを探してたのかもね。ミルちゃんが無くして困っていたから……だからいなくなったのかもしれない」
「……ゔんっ」
泣いて、鼻水も垂らして、そんなミルちゃんに、私は苦笑いでこう伝える。
「ほんと、困った猫ちゃんだね」
「……ゔんっ!」
ミルちゃんは、泣きながらも笑っていた。
私は、桃木島で『伝える』ことの大切さを学んだ。きっと今回の話も、伝えていればどうにかなっていたのだろう。
まあ、猫は喋らないが。
私はそっとシャミィを見る。
でもうちの猫は、少し賢いみたい。
その後、ミルちゃんはプリンちゃんと一緒に笑顔で帰った。
「ありがとう、お姉ちゃんたちー!」
「気をつけて帰ってねー!」
私と穂火ちゃんは手を振って見送る。
「さて、幸せも守れたし、帰りますか」
「はい!」
そして、私と穂火ちゃんは、同時に気づいてしまったんだ。
「あれ? 鍵斗くんたちは?」
すると奥の方から走って来た鍵斗くんは、こんなことを言った。
「あれ? ミルちゃんは? チラシ印刷して来たのに!」
そう、鍵斗くんの手元には百枚くらいの『この猫を探しています!』の紙があった。そこにはミルちゃんの書いた似顔絵と、基本情報が書かれてある。
私は気になり、「すごい、もう作ったの?」と訊く。すると鍵斗くんは「零くんが急いでパソコンで作ってくれたんだ。それで、今は疲れて倒れている。それよりも、ミルちゃんは?」と言って来た。
私は「解決したよ、シャミィが連れて来たの」と申し訳なく伝えると、鍵斗くんは肩を落として
「一枚十円。千円使って印刷したのに……」
と絶望する。
私は、「あ、あはは……」と苦笑いで返す。でも鍵斗くんは強くて「……まあ、裏紙として使えばいいか」と呟く。
そして、ミルちゃんが歩いて帰った方向を見て「幸せを守れたんだしね」と言った。
私は彼のそんなところが好きで「だね」と、ニシシと笑ったんだ。
アークロックの日常は戻る。そして、最後に鍵斗くんがこう言った。
「って! 記憶消し忘れてるよー! 今師匠呼ぶから待ってて!」
「あ!?」
久しぶりすぎて忘れてましたが、アークの存在を広めないためにも、記憶は消すのでした。
ミルちゃんの記憶に私たちは残らない。でも、大切な想いは残り続けるから。
トコトコと私たちが何も言ってないにも関わらず戻ってきたミルちゃんはこう言った。
「お兄ちゃんも、ありがとう! 言い忘れてたから……」
「ミルちゃん……」
彼女は最後にこう言った。
「礼儀! だよ!」
私はそれを聞いて、安堵する。そしてミルちゃんの記憶は来てくれたシーラさんに消され、いつもの日常に戻った。
その後、私たちも家に帰る。
なんとなくだけど、私たちのいつも通りの生活が戻ったような気がしました。




