番外編 しょっぱいおにぎり
これは、桃木島を出る前、アークロックメンバーが挨拶に回っていた時のお話。
一人隠されていた陽向灯里の、挫折の話である。
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突然ですが自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です。
そんな私は今……寺で黄昏ていました。
寺院の縁側に座り、流れていく雲を見つめる。
お、あれは槍の雲だ……とか、お、あれは剣の雲だ……とか思いながら。
そこへ、師匠である霊奈さんがやって来た。
彼女は私の横に座り、こんなことを訊いてくる。
「何かあったか?」
私は静かに下を向いて、こう呟いた。
「なんでもないです」
「そうか……」
霊奈さんに気を使わせちゃったかな、などと思いながら、私は彼女の顔をチラッと一瞥した。
私は動揺する。
霊奈さんの表情は過去に一度も見せたことがないほど、申し訳なさにまみれていたからだ。
私が甘えて黙っていると、霊奈さんはこう続ける。
「悪かったな、陽向」
「……?」
「お前のアークを育てられなくて」
「……!!」
私は痛いところを突かれたと、一瞬だけど顔を歪ませてしまった。
そんな私を見てしまったのか、霊奈さんはこう続ける。
「これは全て私の責任だ。だから……連絡先を交換してくれないか? 陽向さえ良ければ、まだ修行を続けさせてくれ」
「霊奈さん……」
霊奈さんは、ばつが悪そうにこう続ける。
「私の指導力不足だ。陽向は何も悪くない」
「……」
私はその言葉を聞いて、静かに頷く。そして、パッと表情を笑顔にして、スマホを見せた。
連絡先の交換である。
そこへ、姉弟子である信乃さんが沢山のおにぎりを持ってくる。
「陽向、私からの餞別です」
「信乃さん……」
私はその厚い思いに心を預け、そっとおにぎりを受け取る。
ゆらゆら流れるのは、普遍的な、形容できない形の雲。
言いたかったことも、辛いことも、全部を頬張って、ハムリと口に入れたおにぎりと共に飲み込む。
いつもと同じはずなのに、今日は不思議と塩味が強い。
ベタだけど私は……モヤモヤした心を残したまま、この島を去る準備を続ける。
霊奈さんは、こう言った。
「美味いか?」
私は静かにこう言った。
「ちょっと……しょっぱいです」
「……ああ、そうだな」




