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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
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第54話 不平等な青春

 さて、帰る時間がやってきた。


 ここまで長々ダラダラとしているのもアークロックらしいなと思いながら、僕は静かに(みなと)から町を見つめた。


 おっと、自己紹介が遅れたな。


 僕の名前は空錠鍵斗(くうじょうけんと)。『鍵使い(キーユーザー)』であり、アークロックのリーダーだ。


 そんな僕は、海の波の音を聞きながら、町を見つめる。


 フェリーが来るまではまだ時間がある。


 この待ち時間というのは、どこかノスタルジックな気分に(ひた)らせてくれるものだ。


 横でスマホを触っている陽向(ひなた)さんや穂火(ほのか)ちゃんも、あちらのベンチでゆっくりしている(れい)くんも、今は自分の世界に浸っている。


 僕もまた、町を見つめて過去に浸っていたのだ。


 もはや浸りすぎてビショビショである。


 そんな中で振り返ったこの島での思い出は、僕に刺激を与えてくれた。


 躍兎(やくと)くんとの刺激的な出会いから始まり、陽向さんの提案で海に行く話へ続く。


 桃木島(ももぎじま)のビーチでは、アークロックメンバーと仲良く遊び、親睦(しんぼく)を深めた。


 その後は修行が始まり、僕はたった一人だけ修行なしの現実を突きつけられる。でも、それは僕がもう独り立ちしていたという理由であり、その意図を汲んで、僕は自力で課題を見つけ、解決していくという方法に出られた。


 そして見つけたのは、桃木島の桃太郎伝説と謎の鬼。


 その伝説を解く(かたわ)ら、僕はリーダーとして成長するために仲間の修行風景を見た。


 途中、陽向さんのアークが使えなくなるというハプニングがありながらも、伝説の足取りを追い、桃太郎を追い詰める。


 そこからは近い記憶だ。


 桃太郎と対峙して、鬼神と戦い、アークロックのみんなで、桃木島の幸せを守った。


 そんな、長いようで短かった桃木島での一週間。


 僕は優しい風を感じながら、思い出に触れてそっと微笑んだ。


 さて、改めて、もうすぐお別れの時間だ。


 海の方を見ると、フェリーが見えた。汽笛(きてき)の音も聞こえ、僕の心は現実へと引き戻される。


 そんなところへ、ドシンという衝撃が背中にぶつかった。


 なんだ!? と思いながら、僕はふらつく。だがすぐに足を踏ん張り、後ろを振り返った。


 そこには、一人の男児がいた。その子は、堪えていた涙をダラダラと流しながらこんなことを言う。


「田舎に帰んのかよ! なあ! 鍵斗!!」


 そう、そこにいたのは、僕が唯一心残りにしていた、会えなかった男の子。


 躍兎(やくと)くんであった。


 僕はそんな彼を見て、「躍兎くん……」と呟く。


 そこへ、躍兎くんの母である玲那(れな)さんがやって来て、「こら! 躍兎!! 『鍵斗お兄さん』でしょ!!」などと叱られる。


 その光景が、初めてここに来た時に見た躍兎くんの姿と被り、僕は気が抜けて笑ってしまう。


 そんな僕を見たのか、躍兎くんはプンスカ怒りながら「なんだよ!!」と言い始める。


 だけどすぐに落ち着いて、こう言ったんだ。


「また……遊びに来てくれよ?」


 少し照れくさそうにそういう躍兎くんがどこか可愛く思い、僕は彼の肩に手を置いてこう返した。


「うん」


 そして、躍兎くんはこんなことを言う。


「それまでは、桃木島はオレ様が守るからさ!」


「……オレ様?」


 僕が不思議に思っていると、横にいた玲那さんがこう付け加えてくれた。


「なんか、鍵斗さんに憧れたみたいで、やる気を出す時はオレ様って言うんですよ」


「はぇ!?」


 僕は変な驚き声を出しながら、『僕』と『オレ』を使い分け、自分を奮い立たせている僕のことが少し恥ずかしくなる。


 でも憧れられるのは少し嬉しかった。


「オレ様! オレ様!」


 ああやって真似されるのは少し恥ずかしいけど。てかオレ様ってなんだよ! 僕はそんな一人称使った覚えはないぞ。


 しかし……なんとなく、はにかんでしまった。


躍兎(やくと)くん」


 だから、こう伝える。


「ありがとう」


「……おう」


 躍兎くんも、不器用な笑みを浮かべる。そこへ、「Hey!」などと言いながら外国人が現れた。


 僕はその人を知っている。


 そう、リアムさんである。


 彼は僕の帰宅を察したのか「さよなら」と不器用な日本語で伝えて来た。僕も、下手くそな日本語の抑揚とよく似た英語でこう返す。


「グッバイ!」


 彼とも、ここでお別れだった。


 そして、次々と見送人(みおくりにん)がやってくる。


 師匠たち、ゴアさんなどの桃太郎伝説の関係者、ほかにも何人か、様々な人たちが突然現れて、何事だと思う。


 でも、後から師匠がやって来て、察した。


 師匠が声をかけて集めてくれたのだろう。師匠にしては珍しく、嬉しいことをしてくれる。


 僕は見送りに来てくれた人たちに「ありがとうございます!」と言って、フェリーへと乗り込んだ。


 陽向さんや、穂火ちゃん、零くん、師匠も挨拶を済ませて、フェリーに乗った。


 もう、この島ともお別れである。


 汽笛と共に発進するフェリー。デッキに出て、桃木島を見てみると、桃木島の人たちはまだ手を振っていた。


 僕はそれが嬉しくて、手を振りかえしたんだ。


 横に現れた陽向(ひなた)さんも、同じように手を振る。


 でも、どこか悲しそうな表情だったんだ。


 潮風の吹くこの場で、僕は彼女のことがなぜか心配に思い、こう()く。


「別れは寂しいよね」


 でも陽向さんは、少し変わったことを言った。


「でも、今の時代はスマホで繋がれるからね〜」


 僕はその返答が少し気になり、こう返す。


「じゃあ、どうしてそんなに悲しそうにしているの?」


「……!?」


 その返答に驚いたのか、陽向さんはギョギョッ!? と固まった笑みを浮かべた。


 どうやら、自分の表情にすら気づいていなかったらしい。僕は静かに寄り添うように微笑み、こう伝える。


「陽向さんの表情は、なんだかわかりやすいから」


「そっか……」


 陽向さんは「んー!」と腕と背中を伸ばしながら空を見上げる。そして、こう言った。


「鍵斗くんには隠せないか〜」


 彼女はまた空元気を浮かべるが、すぐに眉尻を下げて、落ち込んだようにこう呟く。


「桃木島って凄いよね、まさに修行編だ。穂火(ほのか)ちゃんは凄い槍を得て、戦う力を得た。(れい)くんは(まも)りの心得を習得して、雰囲気が一気に戦士に変わった。鍵斗(けんと)くんなんて、師匠もいないのに、自分で課題を見つけちゃって、すごく成長した」


「……そんなことないよ」


「ううん。成長したよ。


 昔の鍵斗くんなら、私の表情の変化を見ても何も言わなかった。今回のバトルも、一人で解決しようとしていた。


 でも、この島でリーダーとして成長して、それらができるようになった」


「……そうかな」


 僕は照れ臭くなり、自分の頬をかく。でも、陽向さんはそれでも暗く、こう続けたんだ。


「それでさ、私は何を得たのかな?」


「……!」


 陽向さんは、デッキの(さく)に背中を預けて、空を見上げる。


 ふと一瞥(いちべつ)した桃木島は、もう白いモヤがかかるほど遠くにあった。


 そんなタイミングで、陽向さんがこう呟く。


「頑張って修行しても、アークは消える。桃太郎とのバトルも、私は蚊帳(かや)(そと)


 ふと、風に乗って(しずく)が飛んだ。それがなんなのかは、すぐにはわからなかった。


 でも、彼女の表情を見て分かったんだ。


 初めて見た、陽向さんの弱音。


 僕はどこかで、彼女は大丈夫だと、油断していたのかもしれない。


 この壮大な海の上で、陽向さんは深い、深い弱音を吐く。


「ねえ、鍵斗(けんと)くん。


 私だけ、なーんにも成長しなかったや」


 その、不器用に笑う彼女の姿は、僕の心をグサッと傷つける。


 修行編だのなんだのと、僕は心の中で楽しんでいた。でも、もっとリーダーとして、仲間のことを見なきゃいけなかったんだ。


 修行編だの、都合のいいことばかり言って、大切なものを見落とす。


 誰もが均等に成長できるわけないのに。ましてや、元の能力が高かった陽向さんなんだ、成長するのは簡単じゃないはずなのに。


 それに、アークが使えなくなった時の動揺を僕は見ていたはずなのに。


 なのに、僕はその悩みを放置した。


 ずっと、SOSは出ていたのに……僕はそれに気づくことすらなかった。


 僕もまた、リーダーとしてはまだまだなのだろう。桃木島で成長したと言っても、それはリーダーとしての基盤ができただけに過ぎない。


 でも、それでも僕は彼女を支えたかったから……こう返したんだ。


 そっと、彼女の手を自分の両手で包んで。


「聞いたよ、陽向さんが鬼の赤子を捕まえたって。それがなかったら、僕は死んでいたかもしれない。それに、桃太郎の心に気づいたのも陽向さんだ」


「……確かに」


 陽向さんはそれを聞いて微笑む。でもそれは、多分空元気なのだろう。だから僕はこう続けた。


「でも多分、陽向さんはそれは関係ないって考えてるんだよね。成長してるかどうかが大切だから」


「……!」


「だから僕は、改めてこう伝えるよ。


 陽向さん、人生に無駄なことなんて多分ないんだ。どんな挫折だって、成長の大切なキーワードなのかもしれない。


 だって……挫折するって、進んでいるってことじゃないか」


「……鍵斗くん」


「だから、僕は陽向さんが成長するまで、隣で支えるよ。


 だって僕らは……相棒じゃないか」


「……っ!」


 僕が陽向さんにプレゼントした桜のヘアピンが、彼女の髪の近くで光を反射し、きらりと光る。


 陽向さんは頬の硬直を緩ませ、優しく笑ったんだ。


 そんな彼女は、僕の手を優しく包み返してきて、こう言ってくれた。


「ありがとう、鍵斗くん!」


「うん」


 桃木島での物語は、これで終わる。


 でも、僕らの物語はまだ続くんだ。


 僕はフェリーの上で、陽向さんの手に触れながらそう思った。


 燦々(さんさん)と輝く太陽は、陽向さんの背中を照らす。


 その時だけは、彼女がどこか……小さく見えた。

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