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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
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第53話 アークロックは青春物語

 改めましてこんにちは。僕の名前は水沢零(みずさわれい)。アークロックの一員であり、桃木島保育園の臨時先生である。


 そんな僕は、桃木島保育園に別れを伝えに来ていた。


 だがそこで目にしてしまう。謎の鬼を……!


「お、鬼の赤子……!?」


 そう、そこにいたのは見慣れない小さな鬼であり、二頭身の可愛らしい鬼であった。


 困惑していると、僕の師匠の一人である飯野(いいの)さんがこちらに来てこう言ってくれた。


「ツキバアに頼まれてね、この子はここで育てることにしたの。まあ、家はツキバアから借りた家で、鬼神って人と暮らしてるらしいんだけどね。だからまあ、鬼の赤子ちゃんは通園してるってことになるかな」

 

「ええ、それってどういう……」


 僕はそこで気づいた。女性である飯野さんがすぐ横に立っていたということに。


「ぎっ……」


 心臓の奥から溢れてくる悲鳴。喉を(つた)う気絶の泡をぶくぶくと吹きそうになった瞬間に、強い痛みが背中に走った。


 バシンッッッッ、という音と共に、僕の背中は平手打ちされた。


「痛い!」


「はいはい、戻ったね」


「うう……」


 相変わらず強引な方法で、僕を気絶から引き戻す人だ。


 そんな一撃にトホホと息を漏らしながら、僕は前を見た。


 目の前ではしゃいでいるのは、多くの子ども。鬼の赤子も僕から離れて、人間の子どもと遊び始める。


 そんな景色を見ていると、男だの女だので恐怖している僕がバカらしくなる。


 でも、反射でなってしまうのだから、これが今後治ることはないのだろう。


 でも……この島に来て僕は(まも)る意思を学べた。


 まだ女性を守れるほど強くないのかもしれないけど、少しずつ慣れていきたい。


 憧れの人のように、幸せを守りたいから。


 そんな僕の手を引くのは、クレヨンでメイクしていた女の子だった。


「れいちぇんちぇー! いっしょにあちょぼー!」


 僕はその光景に、笑みを溢す。そしてこう返した。


「みよちゃん。顔拭こうね」


「なんでー?」


「君に奉仕したいからだよ」


 僕は笑顔でそう伝える。いつの間にか、「ぎゅふー」とみよちゃんは気絶していた。


 みよちゃんも、僕と同じ恐怖症なのだろうか。


 僕は配慮して、女性の職員に後を引き継いだ。


 遠くで、みよちゃんの拒絶の悲鳴が響く。


 僕は、『頑張れ』と心の中で応援しながら……男の子たちとかけっこをした。


 でも、もうすぐ彼らと別れなければならない。僕は、ぎゅっと悲しみを堪えて、守れた幸せを享受(きょうじゅ)した。


 ■□■□■


 そして、別れの時間はやってくる。僕はアークロックのメンバーみんなで師匠の帰りを待った。


 どうにも、ツキバアと話すことがあるようだ。


 おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は空錠鍵斗(くうじょうけんと)、『鍵使い(キーユーザー)』である。


 そんな僕たちは、別れをきちんと口で伝えた後に、(みなと)に集合していた。


 それぞれキャリーバッグを持ち、帰る準備は完了している。


 あとは師匠の帰りを待つだけだ、と思っていた時……小学生らしき子どもたちが何やらワイワイと話しているのが聞こえた。


 僕はビーチの方をチラッと一瞥(いちべつ)する。すると、どうやら小学生たちは何かをいじめているようで、僕はムスっと思い、キャリーバッグを置いて、「こらー!」と言いながら彼らに近づいた。


 すると小学生たちは「やべ!」などと言いながら消えていく。


 僕は、どこに行っても悪ガキはいるものだ、と呆れながらも……いじめられていた『何か』を見た。


 まるで浦島太郎の気分だと思っていると、僕の視界に驚きのものが入って来た。


 頭に矢を刺し、髪も服もボロボロで、もはや動かないのではないかというほど力尽きていたその姿は、まるで落武者だったのだ。


 しかもその正体は……!!


「……っ!? ()()()!?」


 そう、『支配のアークリオン』と呼ばれているらしい、桃太郎であった。


 オレは警戒して、離れる。そしてキーハートを取り出した。


 そこへ、穂火(ほのか)ちゃんもやって来て「うそ!? なんで桃太郎が!?」などと言った。


 (れい)くんも驚きの目で桃太郎を見つめる。


 当たり前だ。倒したはずなのに、なぜ生きているんだ。


 そんなことを考えたタイミングで、桃太郎は動いた。ゆっくりと、まるで痛む体を抑える老人のように。


 そして立ち上がった桃太郎は、掠れた瞳でオレたちを見る。


 オレは……そんな桃太郎と戦うつもりでいた。穂火ちゃんも、ガキンッ、という音と共にかっこいい槍を呼び、掴む。零くんも銃を出して、戦闘態勢に入った。


 でも、あとから駆けつけた陽向(ひなた)さんだけは、反応が違ったんだ。


「その人が桃太郎なの?」


 まるで、怖がっていないかのようである。僕は不思議に思いながらも、油断しているのか、子どもに会ったかのように近づく陽向さんを「危ない!」と止める。


 だが、陽向さんはそれでも止まらない。それどころか、こんなことを言ったんだ。


「その人……怖がっているよ」


「……!」


 その時、僕は初めて桃太郎の姿を見た。


 ボロボロで、(おぼろ)げな瞳。今にも倒れそうなほど、足を揺らすその姿は……同情を誘う可哀想な姿であった。


「……」


 なぜ、考えなかったのだろうか。


 アークは『願い』から生まれる。それは、桃太郎だって例外ではないのだ。


 僕は、もっと早くその事実に気づけなかったことを悔やんだ。


 今回の桃木島の事件は、おそらく陽向さんがいればすぐに解決したのだろう。


 複雑に絡み合った『人の心』を扱う事件は、誰がどう考えても陽向さんのテリトリーだ。


 だからこそ、桃太郎が怖がっているなんて知れた。


 初めて知ったんだ、桃太郎も、怖がるんだって。


 桃太郎のアークは『支配』らしい。


 この、『支配』と『怖がっている』という情報。これを、アークは『願い』から生まれるという型に流すと、一つの仮定が生まれる。


「そっか……」


 僕は剣を置いた。その姿を見て、穂火ちゃんも、零くんも武器を下ろす。


 そして、陽向さんは微笑んでいた。


「同じだったんだね」


 僕はというと、ゆっくりと歩み寄る。


 力尽きたのか、桃太郎は膝をつく。僕は桃太郎の視線に合わせるために、膝をついて、微笑んだ。


 同時にある男を思い出す。


 それは、リアムさんの顔。


 彼と初めて会った時、僕は英語ばかり話す彼と話したいとは思えなかった。

 でも、話すということを通して、伝える勇気を学んだ。


 みんな、みんなそうなんだ。


 人間関係は難しい。誰だって、そこをショートカットしたがる。


 桃太郎だって、そうだったのかも知れない。


「怖いよね、人と仲良くなるのは……。でも、世界は悪い人たちばかりじゃないんだ」


 『支配』なんてアークが生まれる『願い』とはなんなのだろうか。


 それは、『仲間が欲しい』だったのではないだろうか。


 でも、人と仲良くなる自信がなかったから、支配なんて歪んだ願いに変わった。


 僕は、その気持ちが痛いほどわかる。


 仲良くなるのは面倒だし、そこに至るまでの労力を払うのも億劫(おっくう)だ。


 それでも、仲間と一緒にいるのはいいものだから。


 僕は桃太郎に、笑顔でこう伝えた。


「僕たちは、ぶつかり合って、(しの)ぎあって、たくさん殴り合った。でも、それでも仲良くなれる可能性もあるんだ。


 もし、そのチャンスがあるのなら……仲良くしよう、桃太郎。


 でも友達になったら、悪事はゆるさないからな」


 桃太郎は、してはならないことをした者だ。でも、それでも僕らはアークロックだから。


 できれば色んな人の幸せを守りたいんだ。


 敵だったとしても。


 それに僕は、犯罪者も誕生日は祝われるべきって考え方だから、これでいいんだ。


 人は変われる。そんな日和見主義な男だけど、それでも生きていけるから。


「ちゃんと伝わったかな……桃太郎」


 僕は幸せを守っていきたいんだ。


「……そうか、そうだな」


 ぽろっと、桃太郎の瞳に光が戻る。


 穂火ちゃんに吹き飛ばされて、それでも意地で戻って来たこの島で、桃太郎の体は少しずつ光に変わっていく。


 これは、鬼が人に戻った時と同じ。


 でも、桃太郎はアークリオンの第二形態なんだ。鬼たち第一形態と違って、消えたらもう……終わる。


 それを察した僕は、そっと彼の肩に触れた。


 桃太郎は、微笑みながらこんなことを言う。


 それは、彼の遺言となった。


「もう少し、勇気を持てば……何かが変わったのかもな」


 彼の一筋の涙は、ビーチを濡らす。でも、海の波でそっと消えた。


 彼の体も、もう無い。


 光となって消えた彼の意思を見上げながら、僕たちは同じことを学んだ。


 この島での物語は、いわゆる修行編だった。でも得たのは、すげえパワーでも、つええ技でもない。


 『伝えることの大切さ』。それを一番学んだんだ。


 鬼と桃太郎のお話は、仲良くなりたかった桃太郎が、


 もし、嫌われたらどうしよう


 と考えたことで始まったのかもしれない。


 それでも、一方的な支配ではなく、対話を選び、『伝える』ことで、また違った未来もあったのかもしれない。


 全てが仮定だが、それでも、『伝える』ことは大切なのだ。


 もしかしたらそれが、青春を生き残る秘訣なのかもな。


 僕はそっと、()んだ空を見上げていた陽向さんを見つめた。


 ■□■□■


 忘れがちだが、『アークロック』はバトルものではない。青春物語なのである。

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